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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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6 側妃グレイスの日常

アーレンの側妃となって2年。


アーレンとマリアが結婚したのは、グレイスが側妃となって1年後の事だった。

グレイスは王宮で、アーレンの側妃としてだけでなく、現国王の妃が不在のため、その代理の役割も担っていた。

マリアは王太子妃となったが、まだ能力としては不十分で、公務よりも教養を身につける為の勉強時間が多く設けられていた。

グレイスはその事を考慮して、王太子妃の仕事を細分化し、それぞれに補佐官をつけた。

1部所に対して3人。

爵位に囚われず、平民も含めた能力主義にした。

貴族からは反対の声も上がったが、元々恵まれた環境にある貴族が能力が高くて当たり前、当然選ばれるだけの能力を身に付けているだろう、と圧力をかけることで不満を抑え込んだ。

こうして新たな体制の元、王宮にて多忙且つ若くして実力者となったグレイスだった。

しかしその普段の装いは、控えめな刺繍が施された詰襟のドレスに、額にアーレンの瞳と同じ深い蒼色のサファイアのヘッドアクセサリーのみ。

側妃というよりも、高位の文官といった出で立ちだ。

そんなグレイスの好感度は非常に高く、側妃ではなく王妃にと押す声が日を追う毎に強くなっていった。


「グレイス、このままずっと王宮に残らないか?」


最近のアーレンの口癖だ。


「まず妃に求められるのは公務をこなす事よりも、寧ろ子を成すこと。私の仕事の代わりは誰でも務まります。」

「いや、だから白い結婚を俺はやめてもいいよ。」


照れながら、アーレンはポツリと話す。


「こちらからお断りですわ。そんな事を言っていると、『真実の愛』のマリア様が悲しむわ。」

「いや、今のマリアなら理解出来ると思うよ。王妃になるには、愛だけじゃ無理だと。」

「私は十分貴方達に振り回されているんです。これ以上を望むのは契約違反ですわ。」

「じゃあ、ダリウスが戻って来なかったら考えて欲しい。この国は、君を必要としている。」

「なんて事を言うの?不吉な事を言わないで。それにダリウスが戻って来た時に、私を望んでいないかもしれないわ。彼が私を望まないと言っても、ここには残らないわ。とにかく彼を貴方達の道具に使わないで。彼が本当に望むものをあげて下さい。元老院の方々に何を言われているか知らないけれど、しっかりして。私は私がいなくなっても貴方達を支える為の体制をちゃんと作っていますから。3年という契約は守って下さいね。」


「俺の気持ちもあるんだけどな·····。」


そう呟いたアーレンの言葉は、グレイスには届かなかった。



毎朝、必ずアーレンの執務室に顔を出すのが、グレイスの習慣だ。

顔を合わせる事で、アーレンの健康面、精神面を確認する為だ。

この日もアーレンが執務を始める時間に合わせて顔を出した。


「おはようグレイス、今宵のマリア主催のパーティーなんだが。」

「ええ、マリア様が国内の貴族と交流を持ちたいと希望して行われる夜会の事ね。貴方とマリア様が2人して張り切って準備をしていると聞いたけれど。」


マリアが王太子妃となって初めて自身の手で会を開くのは、マリアの王太子妃としての立場を固め、広い交友関係を築く為には必要だった。


「そうなんだが、グレイスは出席しないの?そう聞いたが。」

「出席しない訳ではありません。あくまでもマリア様がご自身の力で初めて催す夜会。私が居てはマリア様の存在感が薄くなると言うので。まぁ、不安がありますがマリア様の気持ちも分からない訳ではないわ。少し顔を出したら執務室に戻るつもりよ。」

「仕事をするの?」

「ええ、やることは山積みです。3日後のルノール王国の王太子を向かえての会談の準備もありますし。そうそう、明日マリア様は孤児院に慰問することになったとか。早朝クッキーを焼いて持っていくと言っていたのだけど、夜会の翌日なのに大丈夫なの?」

「クッキーを焼いて行くだって?準備は今からやらないと間に合わないだろう?」

「ええ、でも今夜の夜会で厨房が使えないから、早朝にすると。」

「夜会の主役だから、途中で抜ける訳にもいかないし大丈夫なのか?」

「孤児院への慰問は日をあらためる事をお勧めします。今夜の夜会と3日後の会合、近衛や騎士団の護衛にあたる者達は、配置の準備と安全確認で忙しいはず。あまり無理を通さない方がいいわ。」

「そうだな、話してみよう。」


一応に王太子妃として、様になってきたマリアだったが、たまにこっそり平民の格好で王城を抜け出しているらしく、その度に護衛の騎士達を翻弄していた。

そうしてたまに出た市井で、民と話し、主に孤児院等の援助の約束をしてくるのだ。

それから後日騎士を従え、王太子妃の姿で再び訪れるとさすがに先方は驚く。

そして王太子妃に目をかけてもらったことに皆歓喜する。

そういった事は、当然平民受けがいい。

マリアはどうやらそれが快感らしく、度々こういった予定をいれてきた。

今では平民からは『救済の女神』とまで言われているらしい。

しかしこういった事は、貴族の受けはよくない。

今宵の夜会で少し絡まれるかもしれない。

マリアは上手く穏便に乗り越えられるだろうか、そう思いながらグレイスは自身の執務室に向かうのだった。


◇◇◇


「そのような事もご存知ありませんの?」


夜会の序盤、王太子と王太子妃が分かれて会場を回り、参加者と話す場面になり問題は起こった。

早々に令嬢達に囲まれたマリアは、3日後に来訪されるルノール王国について会話が及ぶと、その知識の無さが露見してしまった。


「隣国の事ですのに、その程度の認識なら、とても王太子妃が務まるとは思いませんわ。」

「そのような言い方、不敬ではないかしら?」

「まあ、マリア様も不敬という意味がお分かりだったとは思いませんでしたわ。ソフィア様にも散々な物言いでしたのに。」

「学園は皆平等と謳っていましたわ。あの頃と今では違います。」

「婚約者のいる方に手を出す等、そもそも節操がないわ。今では平民から『救済の女神』等と呼ばれているそうですが、それよりも不十分な王太子妃教育のせいで、他国の来訪者の前で無知を露見させ、我が国に恥をかかせるような真似だけはなさらないで頂きたいわ。」

「そうですわ。王太子妃としてやるべき事を蔑ろにする等、王太子妃として失格ですわ。」


学園に在籍していた頃に、他の女子生徒と度々衝突し、言い返していたのが仇となったのか、親睦を深める為の会だというのに、マリアは孤立していた。


「まあ、こちらは賑やかですわね。」


マリアと令嬢達が睨み合っていた所に、静かな声がかかる。

声の方へ皆注目する。

そこには薄いグレーの詰襟のドレスを着たグレイスが立っていた。


「「「グレイス様·····。」」」


皆が一目見て、グレイスの美しさに息をのむ。

ドレスの型は夜会だというのに、普段とほとんど変わらないものだが、銀糸の刺繍がふんだんに施され、グレイスの銀髪と相まって1つの宝飾品の様だった。額のヘッドアクセサリーと揃いの蒼色のサファイアを使ったイヤリングがとても印象的で美しい。

そして水気を帯びた様な美しい水色の瞳は、とても優しい。


「話を少し伺いましたが、お諌めのお言葉はその位でご容赦下さいませ。王太子妃が民に人気があるというのは、王家にとって喜ばしい事なのですよ。でも皆様が心配なさる事はその通りですわ。今のお言葉はマリア様は重く受けとめられたと思います。我が国の恥にならない様に、私がマリア様の側に立ち支えて参りますので、ご安心下さい。もし私と並んで側妃となり、マリア様を支えて下さる方がいらっしゃいましたら、どうぞお声掛け下さい。私から王太子殿下にお話致しますわ。」


とても穏やかに微笑み、今しがたのギスギスした雰囲気を一掃したグレイス。

まさに未来の王妃に相応しい姿に、皆言葉を失う。


『私と並んで側妃となり、マリア様を支えて下さる方がいらっしゃいましたら、どうぞお声掛け下さい。』


グレイスはそう言ったが、マリアと並び立つというよりも、美しく、非の打ち所のないグレイスと並び立つ方が、相当な勇気がいる。

令嬢達は先程の勢いを失い、皆押し黙る。


「皆様の国を思うご忠心、陛下がお知りになったら、さぞ喜ばれるでしょう。今後とも未熟な点があれば、お諌め頂きたいですわ。今後とも宜しくお願いします。」

「「「こちらこそ宜しくお願いします。」」」


グレイスの言葉に興奮したのか、皆頬を赤らめ、グレイス達に礼をし、離れていった。


「グレイス、有難う。面倒だったから助かったわ。」

「マリア様、言われたら言い返す強い所はマリア様のいい所ではありますが、多くの敵を作るでしょう。1度対立してしまったら、味方にするには多くの労力を必要とするでしょう。上手になって下さい。私が貴方の盾になれるのは後1年。お分かりですね。」


グレイスという盾を失う·····。


その事が、一際マリアの心にのし掛かる


「今日はあなたが主役です。王太子妃教育で身についた分だけで構いませんから、自信を持ってパーティーを楽しんで。」



それから3時間後。


「酔い潰れた?」

「はい、勧められるがまま楽しそうにグラスを空けていたそうで·····。結局足元が覚束なくなった王太子妃様を王太子様が抱える様にして退出されました。」


パーティーが始まって顔を出してからすぐに自身の執務室に戻っていたグレイスの元に一報がはいる。


「そう·····。またうるさく言われるわね。お酒の飲み方はマナー教育の中にあったはずだけど。アーレンは戻れそう?」

「それが30分経ちましても部屋からお出になっていらっしゃらないので、侍従がグレイス様に報告に参った次第です。」

「そう。時間も頃合いだから、今から行くわ。残っている高位貴族に挨拶をして、会を閉めましょう。」


グレイスはそう言って席を立ち、パーティー会場に戻って行った。



酔ったマリアが俺を離そうとせず、共にベッドに入り抱き締めていたら、いつの間にか寝てしまっていた様だ。

パーティーを放ったらかして来てしまった。

不味い。

平民には人気のマリアも貴族にはそうではない。

マリアの良さを分かってもらおうと企画した夜会だったが、これではまた何か言われるな。


アーレンは重い気持ちのままベッドを降り、部屋を出る。

外には侍従が控えていた。


「どのくらい寝ていた?」

「2時間程。」

「は?そんなにか?」

「はい。」

「パーティーはどうなった?」

「グレイス妃殿下が会場にお戻りになり、上手く挨拶をされ、会を閉められました。その後も残って飲んでいらっしゃる方々もおりましたが、休憩室をご利用の方以外はほとんどお帰りになられたかと。」

「そうか、グレイスなら上手くやってくれただろう。」


そう言って深いため息をつき、アーレンは自身の宮殿へ向かう。


ふとグレイスの執務室がある方へ目を向けると、まだ灯りがついている。


「グレイスはまだ働いているのか?」

「はい、3日後のルノール王国との会談のご準備の為です。それから幾つか陳情書の中で急ぎ対応しなければならない件があるとかで。その件で明日、王太子殿下にご相談されるとおっしゃっておられました。」

「そうか····。陛下もこのところ体調が思わしくない上に、后妃もおられぬからな。グレイスに仕事が一気に回る訳だ。·····グレイスがいなくなったらマリアは上手くやれるだろうか?」

「グレイス妃殿下は入宮当初から優秀な人材を確保され、マリア様を補佐する組織作りを行っておられます。」

「そうか·····さすがだな。」


グレイスは着実にこの王宮をさろうとしている。


今日の様な日は珍しくない。

その都度、グレイスがフォローしてきた。

グレイスがいなくなることへの不安感に苛まれるアーレンであった。


「それよりも王太子殿下、古竜討伐に行っておりますダリウス·ノーラ卿についてですが····。」

「定期連絡か?」

「はい、準備が整ったので3度目の討伐を決行されるとの事です。」


古竜が住処としているエルディア王国にある島には、一際標高が高い山があり、そこに古竜がいると言われている。

古竜と戦うには先ず、高山に身体を慣らさねばならず、土地を調べあげ、討伐の作戦を練らねばならない。

戦いも他国からの参戦者も含めた者達との連携を練習しなければならない。

始めの1年は、そういった準備に時間を費やした。

そして2年目から試みた討伐。

今の所、気象条件等が噛み合わず上手くいっていないらしい。

そして今回で3度目。


ダリウスは上手くやれるだろうか?

成功しようと失敗しようと、グレイスの為に戻ってきて欲しいと願うアーレンだった。


そしてダリウスの安否は、フェアノーレ王国に直接もたらされる定期連絡より早く、3日後に行われた、隣国ルノール王国の王太子との会談で明らかにされる事になった。









数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。


現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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