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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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5 グレイス vs マリア

「はじめてグレイス様。マリア·ラッセルと言います。これから宜しくお願いしますね。」


ダリウスがタンドゥーラ公爵家を訪れてから1週間後、グレイスは再び王宮を訪れていた。

王姉であるアリエスタ·ロドファン公爵夫人の公務を引き継ぐ為だ。

今までの事は父であるロドリス·タンドゥーラ公爵に話した。

父も再三国王陛下に呼び出されている様で、アリエスタからの公務代行については、フェアノーレ王国の危機だということで、半ば諦め加減で了承することになった。

王太子であるアーレンとの3年間の契約婚に関しては、グレイスに一任されることになった。

そして、早くも公務を行っているグレイスの前に突然現れた女性。

アーレンの想い人のマリアだ。

その後ろの方からアーレンがニヤついて付いて来ているのが分かる。


「ラッセル男爵令嬢、その様なお声掛けは不敬です。お下がりください。」


グレイスについている王宮の侍女がマリアを窘める。


「え?ではどうやって挨拶すればいいんですか?」


マリアは不満げに侍女に意見する。

グレイスはそんなマリアには目もくれずアーレンの元へ向かう。


「王国の次なる太陽、王太子殿下に、グレイス·タンドゥーラがご挨拶申し上げます。」


そう言ってグレイスはアーレンの目の前で、見事な(カーテシー)の姿勢をとる。


「タンドゥーラ公爵令嬢、王宮に来てくれて嬉しいよ。」


アーレンはそう言うとグレイスをエスコートすべく手を差し出す。

グレイスは礼の姿勢を解き、アーレンの手をとる。


「アーレンっ!」


アーレンの態度にマリアが焦った様に呼び掛ける。


「マリア、これが正しい作法だ。覚えて。さぁ行こう。」


アーレンはそう言うと、グレイスをエスコートしながら、庭園のガゼボに向かう。

マリアは不満げにその後に続く。

ガゼボに着き、アーレンはグレイスの為に席を引く。

マリアには侍従が付き、同じように席を引く。


「アーレンが優しくないわ。」


思わずマリアが愚痴を溢す。

言われたアーレンは何故かニコニコ顔だ。


「私は挨拶したのに、グレイスさんは挨拶してくれないの?」


不満をグレイスにぶつけたことで、一瞬場が冷える。


「これでは学園にいた頃と何も変わらないわ。仲良くしようと思っても、相手がこの態度じゃ無理よ。」


マリアはアーレンに訴える。


「ではラッセル領へお帰りなさい。」

「え?」

「無理と思うなら、王宮から出ていきなさい。」

「ひどい·····。」

「自分で言ったのでしょう?私とやっていく事が出来ないと思うなら、出ていきなさい。」

「それはおかしいわ。私はアーレンの妻になり、いづれ王妃になる身なのよ。王宮から出ていける訳ないじゃない。それに態度を改めるのは貴方の方じゃない?」

「貴方が王妃になるといつ決まったの?アーレンの妻になると言うなら、アーレン共々この王宮から出ていきなさい。」

「何言ってるの?アーレンは唯一の王太子なのよ。代わりはいないわ。」

「代わりはいます。安心して。」

「え?そうなの?アーレン·····。」

「ああ。」


アーレンは苦笑いをする。


「どうするの?アーレン。これしきの事で噛みつかれたのでは、先行き不安だわ。今、ここで気持ちを決めるべきよ。貴方はこの国を背負っていく気があるの?無いなら廃嫡の旨、陛下に進言すべきよ。」

「廃嫡?!」


マリアが驚きの声をあげる。


「貴方はアーレンとの楽しい生活よりも国政を優先出来るのですか?因みに、私が楽しい生活を優先するなら、こんな所にいる訳がないでしょう?」

「それはダリウスの事があるから·····。」

「そもそも私がダリウスの意志を聞いて、それを受け入れるなら、別にアーレンの元へ来る必要はないわ。私の力で対処します。それに今私がここにいるのはアリエスタ·ロドファン公爵夫人の要請に応じてです。貴方とアーレンの結婚の為ではないわ。時期が来たら王宮を去るつもりよ。結婚は自分達の力で頑張って。いいわね、アーレン。」

「それは困るよ、グレイス。」

「まず、ちゃらちゃらしないで、国を背負う覚悟を持てるか考えて行動を決めなさい。頭がお花畑のお馬鹿カップルに、誰が力を貸しますか?誰が国を任せますか?」


不敬極まりない内容だが、グレイスの静かで、しかし通る声で、近くにいた侍従達や護衛の騎士達にも、話している内容は聞こえただろう。

いやむしろ、聞かせたという方が正しいだろう。

侍従達もその動きを止め、場が一瞬で静寂に包まれる。

さぞ緊張が走っているかと思えば、侍従達の顔は納得するかのようにスッキリしている。

彼らも思うことがあったのだろう。

それをグレイスが代弁した形だ。


アーレンはその言葉を受け、納得するかのように目を閉じ考える。

一方マリアの顔は、血の気が引き真っ青だ。

グレイスは静かに出された紅茶に口を付ける。


「このままの気持ちじゃ駄目だよね。」


暫くして漸くアーレンが言葉を発する。


「私達には覚悟が必要だよ。正直王位を継承するという事は、自由を失う事だ。全ては民のためにその身を捧げなければならない。辛い事や難しい局面を乗り越える為に、マリアには支えてもらいたいと思う。その為にマリアには、王妃に相応しい教養と、強い気持ちを身に付けてもらわなければならない。厳しい道だと思うよ。それでも君は私と一緒にいたいと思う?」

「·····もし、アーレンが王位を継がないなら、どうなるの?」

「そうだね、おそらく君の実家に婿入りする事になるかな?」

「え?でもお兄様がいるわ。」

「そうだね。残念だけど、君のお兄さんにはラッセル家を出てもらって、私が継ぐ事になるだろう。」

「え?」

「ついでに言えば、私と君の間に子供は出来ないだろう。」

「どうして?どうやって?」

「余計な王族の血を残さない為だよ。争いの種になるからね。私は薬で子供が出来ない身体にされるだろう。それでラッセル家の後継は、君のお兄さんの子供を養子に向かい入れる事になると思う。」

「子供作れないの?そんな·····。それで貴方が王宮を去ったら、誰が国王になるの?」

「1番目の候補は、ルダリスタン帝国の第3皇子、リーヴァだろうね。母親が父上の妹だ。私の従兄弟になる。2番目はアリエスタ伯母上の息子、ロドファン次期公爵のクリストフだね。そして3番目と4番目がグレイスの兄2人、そして5番目がグレイスだ。」

「え?グレイスさんも王位継承権を持っているの?」

「そうなんだよ。おまけにリーヴァがこの国の王位を継ぐなら、きっと王妃をグレイスにと望むだろう。リーヴァは私達の3歳年下だけど、グレイスにぞっこんだから。だからねマリア、君が今まで通り野山を駆け回り、民に近い距離で生活し、結婚し、子を成し、人生を楽しむならば、私とは離れた方がいいだろう。」

「アーレン·····。」


2人は見詰めあったまま、互いに何かを考えている様だった。

沈黙が続く。


「では、私はまだしなければならない事が山の様にあるから、こちらで失礼するわ。ごきげんよう。」


グレイスはそう言って席を立つ。

アーレンはマリアが変わらない限り、婚姻を結ぶ事は難しい事が分かっている。

ソフィア以上の、王妃という地位に相応しいグレイスに会わせ、自分と比べさせる事でマリアの本当の意志を確認しようとしている。

王妃になるということは、その肩に国民の生活、命が掛かっている事を知るべきだ。


この国の未来の為に、2人には充分考える時間が必要だわ。

2人が本気で頑張ると言うなら、ダリウスの事を抜きにしても、私との婚姻で得る3年という時間をあげてもいいかもしれない。


そえ考えながら、グレイスは執務へ戻っていった。




それから3日後、再び呼び出されたグレイスは、2人からアーレンがこの国の王位を継ぎ、マリアはアーレンの隣に立つに相応しい妃になるために心血を注ぐ事を、誓われたのだった。


それを受けグレイスは、アーレンからの3年間の契約結婚を了承する事にした。


◇◇◇


「ダリウス行くのですか?」

「はい、グレイス妃殿下。必ず古竜を倒して、貴方の元へ帰って参ります。」


ダリウスが古竜討伐の為、エルディア王国へ向かう事になったのは、グレイスがアーレンの側妃になる結婚式の日だった。

結婚式は王宮に召還した神官により、互いの署名を行うだけの簡単なものだった。

そこには国王陛下も、グレイスの父であるタンドゥーラ公爵の姿もない、あくまでも事務的なものだった。

ダリウスはそれを見届ける形で、その後グレイスに挨拶をし、旅立って行った。


グレイスは最後までダリウスの求婚が本心なのか分からないままだった。

彼が帰還して時に、真意は分かるだろう。

ダリウスと彼に付いていく従者数人で構成された小隊を見送りながら、グレイスは彼の無事を祈るのだった。

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。


現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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