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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
42/93

42 謁見の間にて ①

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

王宮は朝から騒然としていた。

魔族討伐隊が王都に帰還したからである。


王都の注目を集めたのは、今回の討伐がルダリスタン帝国の援軍を受けての事だったからだ。

特に貴族の間に広まっていた、銀の仮面の魔導師の存在があった。


側妃を務め、その後勇者ダリウスの妻でもあったグレイス·タンドゥーラ公爵令嬢への襲撃は、フェアノーレ王国内で不穏を生んだ。

聖女と神殿、勇者に対する疑いの目は、未だ解消することなく水面下でくすぶっている。

国王アーレンからは同行していたグレイスの従者と騎士11名の死亡、そしてグレイスが行方不明という内容だけが告げられ、それ以降、情報を発信することはなかった。


そしてある時期から、ルダリスタン帝国に突如現れた銀の仮面の魔導師。

騎士団と連携を取りながら、圧倒的な強さで、魔獣や魔族を倒していく話は、フェアノーレでも有名になっていた。

そして銀の仮面の魔導師が叙爵され、グレイス·ヴァーバル公爵という名が知れ渡ると、行方不明の公爵令嬢と結びつけない者はおらず、聖女や勇者に復讐するだろうという話が、真しやかに噂されるようになっていた。


そして王都を訪れたルダリスタン帝国の討伐部隊。

騎士の多くをタンドゥーラ公爵領に留め置き、ルダリスタン帝国の代表として、銀の仮面の魔導師とその護衛騎士達が現れた。

漆黒のローブに同じ色の仮面をつけた魔導師が2人。

そしてまた同じ色の騎士団が、魔導師を厳重に警護している。 見た目にも感じる圧力に、皆一瞬息を飲んでしまうほどだった。



「おや、ダリウス殿、そなたも謁見の間に向かうのか?」


謁見の間に向かう途中、国王陛下の相談役を務めるエルファト侯爵に声をかけられる。

エルファト侯爵は、グレイスが側妃だった頃、外務卿を務めていた人間だ。

タンドゥーラ公爵家とも親しい。


「ご無沙汰していますエルファト侯爵。私も未熟ながらこの国の公爵を名乗っている身ですので、ルダリスタン帝国からの使者を迎えない訳にはいきません。」

「貴殿がそう思ってもなぁ。今回の討伐の成功は、ルダリスタンからの討伐隊がいてこそだと聞いている。そなたが顔を出す事で、先方の機嫌を害さねばよいが。まさか聖女も連れてきているのではあるまいな?」

「聖女は、本日神殿におります。こちらに顔を出すことはありません。」

「もし顔を出して、ルダリスタンの魔導師に焼き殺されても文句は言うなよ。」

「焼き殺すなど·····聖女を罪人のように言うのはお止め下さい。」

「そなた達の罪状は、本日明らかになるやもしれぬ。覚悟しておく事だな。」

「罪状とは·····ゴフッゴフッ···。」

「ダリウス殿、風邪でもひいたか?聖女を妻に持ちながら体調不良とは。聖女の名誉の為にも身体は気をつけられよ。」


エルファト侯爵はそう言い捨てて、謁見の間に入っていった。


罪状か·····。

恨み言を言われるのは覚悟している。

噂の銀の魔導師グレイス·ヴァーバル公爵が、グレイス本人だという事を、ただこの目で確かめたくて、こうして足を運んでいる。

許されるなら言葉を交わしたいとさえ思っている。



謁見の間に入ると、皆の視線が自分に集中しているのが分かった。

居心地が悪いのはいつものこと。

やはり、銀の仮面の魔導師が来るとあって、いつにも増して人が多い。


皆が揃った所でアーレン国王陛下が入場された。

マリア王妃も一緒だ。

アーレン様は日に日に体調が悪化している。

痩せられ、顔色も悪い。

痛みを押して公務を続けられている。

通常治癒魔法は、怪我に効果があるもので、病には効かない。

病にに関しては、せいぜい痛みを和らげる程度だ。

それに対してフィーネの魔法は違う。

神殿はフィーネの祈りが手足の再生だけでなく、他にも発揮すると考えている。

しかしそんなフィーネがアーレン様の治療を試みるも、全く回復しなかった。

寧ろ、それ以降ベッドに伏せる事が多くなった様に思える。

神殿は、彼女の気持ち次第で発動する魔法だと言っている。

アーレン様の時は、その気持ちが伴わなかった?

ならば、それはそれで罪に問われそうだ。

やはり フィーネが原因なのだろうか?

アーレン様だけでなく他の患者の中でも、フィーネの魔法での治療後、悪化し体調を崩した者がいる。

その説明に神殿も対応に困っているようだ。


アーレン様は、結局マリア王妃とお子が出来なかった。

にもかかわらず、側妃もグレイス以降置いていない。

ゆえに次の王位を巡って、様々な憶測が飛び交っている。

そのせいかマリア様も今は体調を崩しがちだという。


謁見の間に立ち込める重苦しい雰囲気に、フェアノーレの衰退を垣間見た気がした。





「ルダリスタン帝国討伐隊グレイス·ヴァーバル閣下ご入場!」


扉の前に立っていた騎士がグレイスの入場を声高らかに告げる。

扉に一斉に視線が集中する中、一旦閉じられていた重い扉が大きく開く。



第2騎士団副団長を務めるウォーレン·ロドリス卿が先導して現れたのは、漆黒の一団だった。

漆黒のローブと仮面を身につけた魔導師が2名。

その2人に続く護衛騎士の内、最側近と思われる3名は赤目だった。

そして見覚えがあるのは、同じ赤目ではないが、最側近の位置で従う男、ルダリスタン帝国第3騎士団団長のスルーガ卿だった。


噂通りの迫力に、謁見の間は静まりかえる。


先導していたウォーレンが止まり、アーレン様に一礼し、横に控える。

ローブを着た魔導師がフードを取り、仮面を外す。

1人は癖のある金髪に女性かと思うほど柔らかで、整った顔つきの若い男性。

珍しくその瞳は紫水晶を思わせる神秘的な色だった。

さらに皆がざわついたのは、その耳が尖っていたからだ。


エルフなのか?


およそ1000前に、この世界から姿を消したと言われる種族。

強力な古代魔法は、エルフがいなくなった事で失われたと言われている。

その中には聖属性の魔法も含まれる。


そしてもう1人の魔導師がその後、ゆっくりとフードを取る。

輝く様な癖のない銀色の髪が顕になる。

続いて仮面を取る。

自分を含め、皆が息を飲んだのが分かった。


透き通るような白い肌。

金髪の男に劣らない美貌。

そして水気を帯びたような水色の瞳。


あの頃の、いや久しぶりに見るからだろうか、記憶の中の彼女よりも更に美しくなった気がした。

神々しくもある。


ああ、グレイスだ。

間違いない。

彼女は生きていた。



「アーレン·ロスタリウス·フェアノーレ国王陛下にグレイス·ヴァーバルがご挨拶申し上げます。」


凛とした通る声。

普通令嬢は、従者に囁き、従者がそれを下の者に伝えるのだが、グレイスは誰に話すにも、自身の言葉で直接伝える事をよくしていた。

ふとその時の様子が思い出された。


「よく来てくれた、ヴァーバル公爵。この度の魔族の討伐での活躍は聞いている。我らフェアノーレだけでは、全ての魔族を倒すことは出来なかっただろう。心より感謝する。」


アーレン陛下の言葉を受けて、同じく感謝の意を伝えるべく、並び立つフェアノーレの重臣他、皆が頭を下げた。


「皇帝陛下より、力を尽くすようにと命を受けておりましたので、無事討伐を成し得たこと、心より安堵致しております。我らルダリスタン帝国は、アーレン·ロスタリウス·フェアノーレ国王陛下の御代が平穏であらんことを心より願っております。」


そう言ってグレイスも頭を下げる。


「話したい事も多々ある。今宵は慰労の意味を込めて宴を用意している。この後ゆっくり楽しんでもらいたい。」

「お心遣い感謝申し上げます。」


この後、ルダリスタンの討伐隊をもてなすパーティーが用意されていた。

この謁見の間に来ている者達は、その際、グレイスと話したいが為に来ていると言っても過言ではなかった。

勿論、それは自分もそうなのだが·····。


皆が、会場を移動しようとした時だった。


にわかに入り口の扉が騒がしくなった。


「お待ち下さい、聖女様!」


警備兵の声だろうか、焦る声が会場に響き渡った。


「私はこの国の聖女です。公爵と同じ立場です。このような時に、謁見の間に呼ばれないなんておかしいわ。それに私には確かめねばならない事があります。どいて!」


次に聞こえてきたのはフィーネの声だった。


何故フィーネが?

神殿から出さないのではなかったのか?

態度次第では不敬にとられ、罰せられてしまう。

焦ったら俺は、取りあえずフィーネの元へ向かう。

「聖女フィーネ、騒がしいぞ。それに貴方はこのような場に相応しくない。下がられよ。」


宰相であるスタンダール侯爵がフィーネを注意する。


「今日そこに来ているのはグレイスさんなのでしょう?私は確認しなければならない事があるので来ました。皆様にとっても大事な事です。彼女はこの国を恨んでいます。だから呪いをかけたのよ。それを解いてもらわなければなりません。」


フィーネはいつにない厳しい表情をしていた。


「マルス·スタード、これはどういう事だ?」


フィーネに付き従う、聖女を護衛する聖騎士のマルスに質問が飛ぶ。


「申し訳ございません。本日、グレイス·ヴァーバル公爵が王宮にお越しと聖女様がお知りになり、どうしても確認したい事があると。今後のフェアノーレ王国にとって重要な事だと強く申されまして。不敬と承知しながら参じた次第です。また聖女を守る神殿としても1つお聞きしたい事がございます。」

「面会を申し込めば済む話ではないのか?このような場で騒ぐなど不敬にも程がある。」


スタンダール侯爵が強く非難する。


「まあ、宰相殿、聖女様も非難される事を承知で来られたのでしょう。とにかく話だけでも聞いてみられては?」


老齢のラルス伯爵が聖女を擁護する発言をする。

確か、騎士団に席を置いている伯爵の孫が、魔獣にやられ失った足をフィーネに再生してもらっていた為、その恩か。


ラルス伯爵の言葉を受けて、まだ許可も得ていないのにフィーネは話を続ける。


「連れてきて!」


フィーネの呼び掛けに、聖騎士は1人の子供を連れて来る。


連れて来られたのは、4、5歳の幼い黒髪の少女だった。

痩せていて、着ている服は布地はシルクなのだろうが、飾り気もないワンピースだった。

痩せているからか、大きな目だけがやたら誇張して見える。

そしてその瞳は赤色だった。


皆の目に晒されているからか、少女は小刻みに震えていた。

汚れたぬいぐるみを胸で抱き締めている。


「この子は私とダリウスの間にできた子です。見て下さい。どちらにも似ていない上、この目、赤目よ。呪われているわ。呪いをかけたのは、私達を恨んでいるグレイスさんだって分かっています。私とダリウスが子供を作ったから嫉妬したんでしょう?子供に罪はないのに酷い人。お願いだから子供の為に、その呪いを解いて!」


そう言う、フィーネの声が謁見の間に響き渡った。

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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