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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
25/93

25 仮面の魔導師と聖女の妊娠

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

グレイスの魔法により、病が完治したスティナが晴れ晴れとした笑顔で帰っていく。


「グレイス····そなたは凄いな。毎日家事を手伝いながら、魔法の鍛練と勉強は怠らない。透視魔法もかなり精度が上がっていたね。闇の魔法もあのように応用するとは。何より病が治せるようになるとは思わなかった。これで世界が変わるかもしれないよ。」

「私はこの魔法を使い、赤い目を持って生まれる、闇属性の魔力を持った者達の地位の向上になればいいと思っています。」


そうグレイスが言うと、サルマは目を丸くして驚いていた。


「そこまで考えていたなんてね。やはりグレイスは王妃に相応しい器だね。そうでなくとも、そなたを追いやったフェアノーレは大層な痛手だろうよ。」

「国王陛下と王妃陛下は私を気遣って下さいました。お二人に弓を引く真似は致しません。」

「そうかい。」


「それで皇帝陛下からのお手紙は何と?」


グレイスは嫌な予感がしていてので、思わず尋ねてしまった。


「西の国境に大型の魔獣が出現した。その討伐命令だ。」

「サルマ様が行かれるのですか?」

「リーヴァの護衛だね。リーヴァも結婚したばかりだというのに。平気で戦地へ送りたがる。」


そのサルマもかなり歳を取っている。

討伐など激しい環境は身体に堪える。

それが分かっていて依頼してくるとは、相当なものだ。


「サルマ様、私もお連れ下さい。魔力も安定していますので、お力になれるかと。」

「グレイスの存在が公になるのは、不味いんじゃないかい?」

「サルマ様の弟子という事で顔も隠して参りますから。」

「その美しい顔は隠しきれないだろう?」

「仮面を用意します。酷い火傷の痕があるとでも言って下さい。」

「·····戦いに出るのは避けてきたんじゃないのかい?」

「環境が変わりましたから。そこで命を落とそうが、今の私には背負うものはありません。何よりリーヴァがいるのです。別の敵が潜んでいるかもしれません。」


「·····分かったわ。私がまだ立てる内に、グレイスは実戦経験を積んだ方がいいかもしれないね。」

「有難うございます。サルマ様はいつもどなたを連れて行かれるのですか?」

「ドイナーとモランだ。ドイナーが前衛で私の詠唱を助ける。モランは私の護衛だ。」

「お二人だけで?では私は足手まといにならない様に頑張ります。」

「ドイナーとモランの戦い方や動きを知っておいた方がいいだろうね。何度か練習しておくといい。」

「承知しました。」



ドイナーは30歳の武人だった。

長い黒髪を1つに結び、背も高く、褐色の肌で、筋肉が隆々とした体躯の男だが、身体中深い傷跡があった。

生まれて直ぐ、赤い目だった為に捨てられ、孤児院で保護されていたが、そこでも酷い扱いを受け、奴隷商に売られ、闇の闘技場で戦士として働かされていた。

ある日魔力暴走を起こし、そこをサルマに助けられこの屋敷に連れて来られた。

元々不法な闘技場だったこともあり、魔力暴走で破壊しても、追って、罪にされることはなかった。

ドイナーはその能力の高さから、直ぐにサルマの前衛を任せられ、サルマと共に多くの戦場に赴いていた。


モランは茶色の髪で色白の痩身の男だ。

元々貴族の家に生まれたが、やはり赤い目という事で、生まれて早々貴族籍を抜かれ、サルマに預けられていた。

歳は35歳になる。

料理が好きで、この屋敷の食事を任せられている。

闇の魔法の他に、独自の剣術を身に付けた努力家でもある。


「グレイス様とご一緒出来るとは光栄です。」


柔らかい笑みを浮かべるモランは気遣い屋さんだ。

それに比べドイナーは、この半年殆ど会話をしたことがない。


「以前買い出しに街まで行った時、フェアノーレから来た旅の商人から、勇者ダリウスに雰囲気が似ていると言われたのを気にしてるんですよ。」


ドイナーの話をしていた時に、ニケにそう教えてもらった。

ドイナーにも、グレイスの事情は話している。

ダリウスに似ていると言われ、気にしているのだろう。

確かに色の事を抜きにして、その特徴だけ言えば、2人は同じようによく当てはまる。

ドイナーの方が、どちらかというと無骨というか····。

自分を気遣って避けてくれているドイナーと、これを機会に仲良くなれればいいと思うグレイスだった。



◇◇◇



グレイスは未だ行方不明だ。

ルダリスタン帝国のタンドゥーラ家の騎士団とフェアノーレ王国の王家からの騎士団合同で捜索している話は聞いた。

当初は慌ただしかった王宮も、今は静かだ。

それが不気味とさえ思っていた矢先、突然フィーネの養父であるルクスト子爵が拘束された。

グレイスを襲撃した野盗は、ルクスト子爵が雇った傭兵だと分かったからだ。

子爵は否定したが、タンドゥーラ公爵家と王家の合同捜索隊に提示された証拠により、逃れる事は出来なかった。

そして最も懸念していた、聖騎士2人の遺体については、人物が特定出来ないからと保留になった。

保留になったとはいえ、疑惑が無くなった訳でもなく、神殿と俺を含め聖女、聖騎士達に向けられる目は厳しかった。


そんな時、ルダリスタン帝国へ行っていた商人からある話を聞く。

ルダリスタン帝国の西の国境に、大型の魔獣が出現したと。

その討伐に第3皇子が行くことになったが、その討伐隊の中に、とてつもない魔力の魔導師がいたらしい。

騎士達が手こずる中、魔導師の強力な魔法により拘束。

その間、騎士達が斬りかかり討伐出来たらしい。

またその帰り、小型の魔獣が大量に出現し、囲まれ、身動きが取れなくなっていたが、その魔導師により、一瞬の内に灰にしてしまったと。


灰····。


フードを被り、仮面を着けていたので、顔も年齢も分からないが、唯一、輝くように美しい銀髪が見えたらしい。


銀髪····。

グレイスなのか?


第3皇子と言えば、タンドゥーラ公爵家が後ろ楯になっているリーヴァ皇子。

グレイスと共にルダリスタン帝国で生活を共にしていた事もある。

何より弟の様に可愛がっていたと、グレイス本人から聞いている。

そのリーヴァ皇子も権力争いで、命を常に狙われている存在である。

グレイスが生きていて、姿を隠し、リーヴァ皇子の傍にいてもおかしくない。




「国王陛下にご挨拶申し上げます。」


王宮を訪れた際、アーレン国王陛下に謁見を申し出る。

しかしなかなか許可が下りないので、待ち伏せすることにした。

声をかけるのは不敬ではあるが、公爵という立場を利用して願い出る。

さすがに無下に出来ないと思ったか、陛下は執務室について来いと言い、そこで話を聞くと言った。


「何の用かな、ダリウス。」


「はい、グレイス·タンドゥーラ公爵令嬢の件です。公爵令嬢は見つかったのでしょうか?」

「いや、確認出来ていない。」

「ルダリスタン帝国で強力な魔力を持った、銀髪の魔導師が現れたと聞きました。その方がタンドゥーラ公爵令嬢なのですか?」

「さあ、どうだろうね。」

「仮面を着けていたそうですが、タンドゥーラ公爵令嬢だと悟られない為でしょうか?」

「····で、それがどうしたの?」

「生きていたなら知らせて頂きたい。」

「なぜ?」

「心配しているからです。彼の方が無事かどうか知りたいだけです。」

「心配?君は心配しているのか?」

「当然です。」


ダリウスのその言葉を聞いて、アーレンの表情は、更に冷たさを増す。


「はぁ、どこが心配しているんだ?聖女は今、妊娠5ヶ月だって?それを聞いて、心の底から驚いたよ。王妃は怒りで倒れたよ。」

「それは関係ありません····。」

「は?何を言っているんだ?ダリウス、君にも近しいタッカやハルといった侍従が死に、グレイスは行方不明だよ。そんな状況でよくあの女を抱けたな?」

「っっ!それは!」

「騎士団で騒いでたらしいじゃないか?灰にされたのは聖女の幼馴染みの聖騎士だと。証拠は上がっていないが、聖女はグレイスの襲撃を知っていたんだろう?だから騒いでいた。」

「彼らなのか確認は取れていません。」

「だが、グレイスを襲わせた女をダリウスは抱いたんだ。お前、凄い精神力だね。グレイスを愛していると言っていたのは嘘だろう?心配もしていないだろう?だってこんな状況で子作り出来るんだからな。お前と同じ立場になったとしても、とてもじゃないが私は抱けない。寧ろ憎むね。殺すよ、そんな女。」

「······。」

「まさかフィーネの力が失われる事を恐れて、機嫌を取ったのか?フィーネの力とグレイス達の命を天秤にかけたか?」

「!」

「神殿とお前達聖騎士の頭の中で、どんな計算をしたか分からないが、それで世界の為にいい事をしているとでも思っているのか?」

「······。」

「聖女はあの日、いや、1週間で何人手足を回復させた?フィーネの魔力量ではせいぜい1人だろう?ではあの日、何人死んだ?襲撃させた者達も含めると30人以上だ。フィーネの力で1人回復させる為に、そんなに多くの人間が死ななきゃならないのか?割に会わないな。何を考えてるんだ?」


ダリウスはアーレンの言葉に何一つ反論出来ず、身体を震わす。


「それにその目の隈。フィーネを抱くために媚薬でも飲んでいるのか?あれも毒の1つだ。服用し過ぎれば身体に不調を来す。まぁ、薬まで使って、誰に唆されているかは知らないが、お前への信用は欠片も無くなった。例えグレイスの情報が入ったとしても、お前に教えることはない。顔も見たくない。下がれ。」


アーレンはダリウスに退出を促す。

ダリウスは何も言えず、執務室を後にした。

するとそこには聖騎士のマルス·スタードがダリウスを待っていた。

アーレンの声が外に漏れていたのを聞いたのか、マルスの顔色は悪い。


「何だ?」

「聖女様がお呼びです。妊娠中の為か精神が不安定な様で。今日はこのままお帰りになりたいそうです。ダリウス様と屋敷にてお休みになりたいとの事。」

「優雅な生活だな。·····お前は幻覚の魔法が得意なんだろう?お前自身に俺に見える魔法をかけ、俺の代わりにフィーネの傍にいたらどうだ?」


マルスは何も答えない。


「お前が嫌なら、フィーネを信奉している者達から選んで魔法をかけろ。そうやれば、フィーネは寂しい思いはしないだろう。俺は傍にいるのは····もう無理だ。」


「フィーネ様のお腹の中には、あなたのお子がいるのです。無責任では?」

「子は育てる。フィーネは····無理だ。」


「ダリウス様·····。市井では、聖女と勇者の子が生まれると、喜び、期待しています。皆の期待を裏切らないで下さい。」


皆の期待····聖女と勇者·····

ダリウスは自分の気持ちとは、かけ離れた所で語られている物語に、憎悪すら感じるようになっていた。




数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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