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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
17/93

17 竜の血の呪い

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

ダリウスから離婚を告げられてから、グレイスの環境は一変した。


数日後には、聖女フィーネの養父になっているルクスト家の人間が王都のノーラ公爵邸を訪れ、ダリウスから離婚の手続きの代理人を任されている事を報告された。

見せられた委任状には、確かにダリウスの署名があった。


夜会後、グレイスから事の次第を聞いた使用人達は、一様に驚きを見せていたものの、何よりグレイスの心情を察してか、騒ぐ事はなかった。

王都の屋敷の使用人達は、グレイスの実家のタンドゥーラ公爵家から来た者達が多かったが、その使用人達は皆、タンドゥーラ家に戻ることになった。

それは領地に於いても同じで、引き継ぎを含め数人が一時的に残ることになったが、それが済めばタンドゥーラ家に戻る事が決まった。


◇◇◇


「見て、あの馬車、タンドゥーラ公爵家の馬車だわ。」

「まあ、本当だわ。さすがね、重厚さが違いますわ。あの方向ですと、王城に向かわれるのでしょうね。」

「中に乗っていらっしゃるのはグレイス様かしら?あの噂はご存知?」

「ええ、母上から聞きましたわ。何でもルダリスタン帝国へ行かれるのだとか。」

「行かれるというより、戻られるという感じかしら。本当にノーラ公爵様と離婚なさったのですね。」

「聖女様はお喜びになるでしょうね。」

「そうね·····観劇を見た後は、聖女様と公爵様の恋の成就を願ったけれど、母から王妃様の誕生日を祝う夜会での話を聞いたらね·····。お祝いする気持ちも失せてしまったわ。」

「夫婦で参加する夜会に、グレイス様はお一人で、公爵様は聖女様をエスコートして入場したらしいですわ。王妃様がその事を咎めると、聖女様は公爵様にグレイス様との離婚を迫ったらしいですわ。」

「それを聞くと、観劇の聖女様と公爵様の印象が変わりますわね。これでは、単に聖女様はただの我が儘なお人になりますわ。」

「公爵様は本当に聖女様を愛していらっしゃるのかしら?ただ単に、魔法で手足を元通りに治してもらったから、仕方なく言うことを聞かざるを得ない様に見えますわ。」

「本当に。ここだけの話ですけど、公爵様に命をかけて力を使ったと言ってますけど、2日ほど寝て、元気になられたそうですわ。命をかけたというのは偽りではないかと言われてます。それに、そういうことなら、グレイス様は公爵様が竜の呪いを受け、解呪の魔法をお使いになった時、命を削られたそうですよ。」

「何だか、話を聞けば聞くほどグレイス様がお気の毒に思えますわ。治療をしてもらったら、何でも聖女様の言うことを聞かなければならないのかしら?」

「夜会の際に、聖女と公爵様の態度があまりにも酷かった為、聖女様は公爵様と暫く会うことを禁止され、奉仕の仕事以外は謹慎を言い渡されているらしいですわ。毎日泣いてお過ごしだったらしいですけど、どこからか、公爵様がグレイス様と離婚された話を聞いて、今では随分ご機嫌らしいですわ。」

「聖女様の目が公爵様に向いているからいいですけど、自分の夫や婚約者に向いていたらと思うとぞっとしますわ。」

「王家よりも強いと言われている、グレイス様のご実家のタンドゥーラ公爵家を怒らせたとなると、ただでは済まないでしょうね。」


市井では、聖女と勇者がとうとう結婚することになったと、どちらかというと好意的に受けとめられていたが、貴族の間では醜聞になりつつあった。




「王国の太陽、アーレン·ロスタリウス·フェアノーレ国王陛下と王国の月、マリア·フェアノーレ王妃陛下にグレイス·タンドゥーラがご挨拶申し上げます。」


その日グレイスは、2日後王国を離れる前に、アーレンとマリアに別れの挨拶をすべく、王宮を訪れていた。

あの日以来、久しぶりに訪れたその姿は、少し痩せていた。


謁見室で玉座に座る2人は、グレイスを悲痛の眼差しで見つめていた。


「·····グレイス行くのか?」

「はい。国王陛下と王妃陛下の御代がこれからも光あらんことを、心よりお祈り申し上げております。」

「グレイス、力になれなくてごめんなさい。あなたに恩を返せなかったわ。」


マリアはそう言って涙ぐむ。


「ふふ···。私が選んだ事です。ルダリスタン帝国にはソフィア様がおられるのをご存知でしょうか?」

「ソフィア様·····。」

「ソフィア様は今、あちらで侯爵夫人としてお過ごしです。お子様も2人もおいでです。私もあちらでソフィア様と、このフェアノーレ王国の繁栄を願っておりますわ。」


グレイスはそう言って微笑む。


「グレイス·····ダリウスと君を繋げた事を後悔しているよ。私達の犠牲にしてしまった事、本当に申し訳なかった。君が、ルダリスタン帝国で本当の幸せを得る事を、心より願っている。身体も····大切に。」

「有り難うございます。どうぞお元気で。」


グレイスはそう言い、王城を後にした。



「陛下、お呼びでしょうか?」


グレイスが王都の屋敷を出てすぐ、ダリウスは聖女がついてくる形で屋敷に戻った。

ダリウスの手足が再生した日から、9ヶ月が過ぎようとしていた。

屋敷の使用人はほとんどが去り、代わりにルクスト家の手配で来た使用人に入れ替わっていた。

まるで他人の屋敷に来たようで、ダリウスは戸惑いを見せた。

家具も全て取り替えられていた。

フィーネは喜び、ダリウスと寝台を共にしたがったが、ダリウスは今はそんな気になれず断った。


グレイスとの離婚が成立し、ダリウスの耳にもグレイスがルダリスタン帝国に戻る話が聞こえてきた。


ダリウスはあの日から、何とも言えない焦燥感に駆られていた。

フィーネもそんなダリウスに気付き、不安を抱きつつも、結婚を向かえる日を楽しみにしていた。


そんなある日、ダリウスにアーレンから王宮へ呼び出しがあった。



「ああダリウス、来たか。」


夜会での出来事について、箝口令等は敷かれなかった。

その為、聖女フィーネのグレイスに対する無礼な言動と振る舞いは、瞬く間に貴族に知れ渡り、ダリウスと聖女に対する態度を改める者達が急増した。

フィーネは事の重大さが分かっておらず、ダリウスと聖騎士と離された上、謹慎を言い渡された際は、泣きわめき、一時奉仕活動にも支障が出るほどだった。

ダリウスは聖女の力が失われる事をおそれ、アーレンやマリアに謹慎解除を願い出る為、謁見の申し入れをするが、会うことは叶わなかった。

その内謹慎等が解かれ、厳重注意を受けた聖騎士もフィーネの元へ戻った頃、グレイスとの離婚が成立した。

その事を聞いたフィーネは大喜びで、全ては許されたのかと思っていた。

しかし、今日の呼び出しで、ダリウスは終わりのない苦悩の日々を過ごすことになる。


「謹慎を解いた途端、また大胆な行動を取るようになったみたいだね、聖女は。婚約もしていないのに、早速君の屋敷に移り住んだようじゃないか。ダリウス·····グレイスと別れて、聖女と結婚できる様になって、満足かい?」

「陛下、苦渋の決断だったことはご存知のはずです。」

「は?何が苦渋の決断だよ。市井であらぬ事を言われ、名誉を傷つけられたのは、グレイスじゃないか?君がその事に対して、グレイスを庇うような事をしたかい?何一つしていないじゃないか?まさか、彼女を矢面に立たせるようにしたことが苦渋の決断だったと言うのかい?」

「····いえ、そういうつもりでは····。」


「今日はね、珍しい客が訪ねて来たから、是非君も共に話を聞いた方がいいと思ってね。彼が誰だか分かるかい?」


アーレンの斜め横に座る男性に目を向ける。

魔導師のローブを身に纏った男はダリウスに軽く会釈をする。


「あなたは·····。」

「ご無沙汰しております、ダリウス·ノーラ公爵様。その後ご健勝でいらっしゃるようで。」


そう話した男は、以前ダリウスが古竜の討伐へ行き、竜の血を浴びた際、王都に戻るまで治療を行ってくれた魔導師だった。

名をルドルフ·ストーンズという。


あの日、グレイスの魔法を見て古代魔法に心を動かされ、帝国で研究を行うため、暫く王国を離れていたらしい。

その男が、ダリウスとグレイスの噂を聞き付け、帝国から一時帰国したとの事。

彼がダリウスを見る目もまた、厳しいものだった。


「王国では強力な治癒魔法の使い手が現れ、公爵様の手足を無事再生させたとの事。大変喜ばしい事です。お祝い申し上げます。」

「有り難うございます。」


ダリウスはそう応えるも、ルドルフのどこか怒りを抑えたような雰囲気に、警戒する。


「ああ、ルドルフ、魔力が漏れているよ。ダリウスが警戒している。」

「申し訳ございません。」

「ダリウス、魔法の研究の為、帝国へ行っていたこのルドルフが、何故このタイミングで戻って来たか分かる?」

「·····いえ。」

「君の復活を祝ってではないことだけは分かるよね。まあ、ルドルフ自身から話してもらった方がいいかな。」

「はい、陛下。では、公爵様、あなたは何故グレイス様と離婚されてのですか?」


ルドルフの口から、グレイスとの離婚の話が出て、驚く。


「グレイスとの離婚を責める気持ちは分かりますが、彼女も納得した話です。申し訳ないが、関係のない方は、この件についてはご遠慮願いたい。」

「ああ、ダリウス、君がグレイスの名を呼び捨てにするのは止めてもらおうか。不快だ。」


アーレンがすかさず注意する。


「っ!····申し訳ありません。」


「あなたは何も思わなかったのですか?グレイス様が命を削って竜の血の呪いを解いた事を。聖女があなたの手足を治した比ではありませんよ?」


命を削って·····それはグレイスがあの魔法を使った時、言われていた事だった。

その事について、グレイスは何を言う事もなく、共に生活を始めてもその影響を感じる事はなかった為、ダリウスがそれを実感することはなかった。


「聖女の力の比ではないとは?」


身体を再生するのは、稀有な力だ。

誰も出来ないから聖女と言われている。

ルドルフの言うそれを凌ぐグレイスの力とは····。


「聖女フィーネの力は確かに稀有なものです。しかし他国にもいないわけではないのです。秘匿されているだけで。しかし私が言っているのは、その能力を言っているのではありません。」

「どういう事ですか?」

「聖女フィーネはあなたにその力を使った時、お倒れになったと伺いました。何日で元気になられましたか?」

「3日目には、庭を散策していました。」

「そう、魔力回復も問題なかったでしょう。ではグレイス様はどうでしたか?」

「私が2日程意識がなく、目覚めた時にはタンドゥーラ公爵令嬢は、私を介抱してくれました。」

「そうですか。さすがグレイス様です。あなたは竜の血の呪いは、どうやって浄化されたと思っていますか?」

「彼女の魔力で押し流した?」

「ええ、そうです。竜の血の呪いは、竜の魔力の核に他なりません。古代の魔法を使いグレイス様の魔力を公爵様に流し、竜の魔力を押し流した。しかしそれは空中に霧散した訳ではありません。グレイス様の魔力、それもグレイス様の魂で包み込んだんです。」

「魂で包み込む?」

「そしてグレイス様の魔力を用いて、一生を懸けて浄化していく。魔力の消耗は大変なものです。それを一生行うのです。」

「そんな様子に見えなかったが·····。」

「誰かみたいに騒ぎませんからね。しかし近しい人は気づいたはずですよ。グレイス様の魔力が、身体の中で常に何かを包み込んでいるのを。その為、グレイス様は簡単な魔法は使えましたが、大きい魔法は使えなくなっていました。」

「魔法が?」

「ええ。あなたを助ける為に、竜の呪いをその身に移したのです。·····当然そんな魔力の消耗を続けていれば、短命にもなります。」


「以前グレイスに聞いた事がある。身体の中に何を抱えているのかと。それがグレイスの魔力を消耗しているように見えたからね。彼女は言ったよ、これが竜の血の呪いだと。もし、彼女が死んだらどうなるか聞いたよ。彼女の魂があの世に共に連れていくそうだ。」

「な·····。」

「その通りです。古代の魔法は、こういった類いのものが多いのです。魔導師が犠牲にならねばならないような。だから強力ですが、失われていったのでしょう。」


そんな素振りを彼女は何一つ見せていなかった。

俺は、俺のために呪いを受けた彼女に離婚を言い渡したのか?

そんな時でさえ、彼女はこの話をしなかった。


「そんな····彼女がもし、その話をしていたら····。」

「していたら何だい?グレイスを選んだのか?グレイスはそんな事は言わなくても、帰ってくると思ったんだろう。見返りを求める関係など望んでいなかったからね。」

「ノーラ公爵、あなたは竜の呪いを甘く見ていた。あなたはその身に受けて、苦しみは理解していると思っていましたが。あの年若いグレイス様が大魔法を使った重大性と偉大さを理解されておられなかった。」


「ダリウス、お前が見たというフィーネの残酷な過去に同情する気持ちは分かる。では同じように過酷な人生を歩んだ者が現れて、フィーネ以上の恩恵をお前に施し、お前を望んだなら、今度はその者と結婚するのか?そうやって、人を選んで、愛情を示すのか?」


「私は·····。」


「グレイスの事を知っている我々は、お前と聖女の幸せを願うことはないだろう。自分が生きていられるのはグレイスのお陰だという事を、一生抱えて生きていくがいい。」

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中でまもなく完結の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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