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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
16/93

16 離婚

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

ダリウスが帰らなくなって、半年が過ぎようとしていた。

グレイスは1度領地に帰るも、再び王都に戻っていた。


「こちらが届いております。」


王都に戻って早々、侍従長のギルスがグレイスに見せたのは、観劇の招待状だった。


「どちら様から?」

「聖女フィーネ·ルクスト様からです。」

「聖女様から?」


その招待状を見るなり、タッカが怒りを顕にした。


「どうしたの?」

「この観劇は、聖女と勇者の恋物語です。内容はずっと噂されている、聖女が手足を失った愛する勇者に、命をかけた魔法で元通り復活させたことで、2人は愛し合うのですが、勇者の妻が邪魔をして2人は悲恋に終わるというものです。」

「悲恋ね·····。」

「おまけに、勇者が手足を失ったのは、妻が無理難題を言って、危険な旅に行かせたからだそうですよ。実際、ダリウス様が古竜を倒されて帰還された時は、勇者が妻を娶る為に試練に挑んだ、といった美しい物語が出回っていたというのに、この変わり様。酷いですよ。」

「観劇が出来るという事は、聖女と神殿に警戒している貴族達の意識を軟化させる為でしょうね。特に若い世代は取り込みやすい。」

「噂が出回った時もそうでしたが、こういった事が、やけに早くないですか?誰かが意図的に行っているとしか思えません。」

「話の出所は聖騎士と神殿。噂をばら蒔いているのは、どこかの貴族でしょうね。聖女様はそんな観劇を私に見せようと?」

「性悪ですね。」


更にギルスの話によると、グレイスが領地に帰っている間、聖女はダリウスにエスコートされ、様々な夜会に出席しているとの事だった。


聖女フィーネとダリウスは、最早公然の仲となっていた。


「5日後は、王妃様のお誕生日の夜会が開かれるから戻って来たのだけど、ダリウスは私をエスコートする気があるのかしら?」

「グレイス様、その件はこちらの手紙に。」


ギルスが渡してくれたもう1通の手紙は、ダリウスからだった。

グレイスはそれに目を通す。


「·····ダリウスは聖女様をエスコートするそうよ。」

「夫婦で出席する会ではなかったのですか?」

「·····ここまで蔑ろにされるとは思っていなかったわ。」


そう言って、グレイスは寂しげな笑みを浮かべる。


「グレイス様·····。」


ハルとタッカは心配そうにグレイスを見つめる。


「エスコートは出来ないが、夜会には参加して欲しいと。」

「まさか、それで夫婦で参加したことにするんですか?」


沈黙が流れる。


「しかしグレイス様、ダリウス様はいつまでこの状態を続けるおつもりなのでしょうか?」


ハルが心配そうにそうグレイスに問いかける。


「·····ハル、このままダリウスが帰って来たとして、私達は同じ気持ちで過ごせるかしら?」

「グレイス様·····。」

「·····ふふ、まだ半年しか経っていないのに、弱気になってしまったわ。ねぇハル·····少し抱き締めてくれる?」

「·····グレイス様、失礼します。」


ハル達の前だから見せる、悲しげなグレイスに堪らなくなり、ハルはグレイスを強く抱き締める。


「お優しいダリウス様ですので、なかなか離れる機会を失っていらっしゃるのでしょう。大丈夫ですよ、あんなに愛し合っておられたではないですか?」

「そうね·····。」


「グレイス様。どうぞこちらにも。」


抱き合っているグレイスとハルの横で、タッカも腕を広げている。


「私はいつも準備が出来ています。」

「ふふ····どうしようかしら。」

「タッカ、お前にはまだ早い。タッカの前には、グレイス様を生まれた頃より存じております、私がおりますから。」


ギルスもそう言って微笑む。


「有り難うみんな。」


グレイスは心が安らぐのを感じながら、微笑むのだった。


◇◇◇


「王妃陛下、本日はおめでとうございます。これからも王国と両陛下の御代に、光あらんことを。」


王妃の誕生日を祝う夜会に、グレイスは結局1人で入場することになった。

それもこの夜会が、夫や妻がいる者は、夫婦で参加するという決まりがあるに他ならなかった。

これはマリアがこの誕生日会を利用して、いくら政略結婚と言えども、互いを尊重する様にという意図で設けられたものだったからだ。

主に愛人の存在に悩まされている夫人方にとっては、自身の名誉を守る場として、とても指示されていた。


「·····グレイスが1人で入場するとはどういうことかしら?この夜会の決まりをダリウスは破ったという事ね?それに、伴侶がいる場合は夫婦でという決まりがある限り、グレイスが他の者をエスコートすることはないと分かった上でかしら?」


1人で会場入りしたグレイスを、皆同情の眼差して見ていた。

観劇を見て浮かれていた令嬢達も、さすがに意味が分かってか、顔が青ざめていた。


その内、聖女フィーネとダリウスが遅れて入場してくる。

フィーネは以前は聖女を意識してか、ローブに近い衣装だったが、今回はダリウスの瞳の色を意識してか、緑色のドレスを着ていた。

会場が一気にざわつく。


「聖女の奉仕の仕事に時間がかかってしまい、遅れました事、誠に申し訳ありません。本日はお誕生日おめでとうございます。」


2人はそう言って礼の姿勢を取る。

ダリウスは顔を上げ、グレイスの姿を見とめると、少し驚きの表情を浮かべた。


「2人共有り難う。でも今日はどうしてノーラ公爵は聖女をエスコートしているのかしら?この会の主旨は知っているでしょう?」

「私がお願いしたのです。ダリウスを責めないで下さい。」

「私はノーラ公爵に聞いています。答えなさい。」

「聖女たっての願いを断る事が出来ませんでした。罰は謹んで承ります。」

「では、今すぐ夫人をエスコートなさい。私はこの会をある意図を以て開催しています。それは周知させているはず。それに反する行動は、私に対する侮辱と取られても仕方ありませんよ。」


マリアがそう言うと、フィーネは青ざめた表情で跪く。


「お許し下さい、王妃様!市井での私とダリウスの噂はご存知でしょうか?皆様、私達が夫婦になることを望んでいるのです。ですから、このような場で、姿を見せれば、皆様の気持ちも幾分満たされると思ったのです。」

「満たされる?」

「はい、ダリウスはもう結婚していて、今の私が妻として振る舞うことは出来ませんから。せめて形だけでも。それに今日はグレイスさんにお願いがあって来てもらいました。」

「フィーネ、あなた何を言っているの?」


暴言とも取れる言いように、さすがのマリアも困惑する。


「私とダリウスの結婚を許して下さい。グレイスさんは、国王陛下の側妃だったと聞きました。だったら、私がダリウスの妻になってもいいですよね?私は領地経営なんて分かりません。そういった仕事はグレイスさんがしてもいいですから。」

「それは出来ないわ。」

「どうしてですか?意地悪ですか?」

「そうではない、フィーネ。私は神殿で妻は1人だけだと誓ったんだ。誓いを破る事は出来ない。」

「そんな·····どうしてそんなことを誓ったの?酷いわ。」


フィーネはそう言って大粒の涙を流す。


「聖女様、こういった私事はこの場には相応しくありません。後日日を改めて話しましょう。取り敢えずお立ち下さい。」


「駄目です·····皆がいる間にはっきりしないと。ダリウス、その誓いをないものに出来ないのですか?」

「·····離婚しない限り無理だ。」


ダリウスの発言にグレイスもさすがに驚く。

まるで、グレイスとの婚姻が枷になっているような言い方だ。


「離婚すればいいの?じゃあ離婚して、ダリウス。約束して、私を妻にすると。」

「フィーネ·····。」

「どうして?グレイスさんはあんなに美しくて、何でも持ってるのよ。私は見目も良くないし、この力しかない。グレイスさんなら、ダリウスでなくても、他の人でもいいはずよ。私にはダリウスしかいないんだから。こんなに愛しているのに!」


ぽろぽろと涙を流すフィーネは憐れに見えるが、皆、一様に引いていた。

呆れた様子のマリアがフィーネに告げる。


「聖女フィーネ、退出を命じます。またこの会を乱した罪と、ノーラ公爵夫人に対する不敬の罪で謹慎を言い渡します。また聖女の護衛から聖騎士を外します。聖騎士を拘束しなさい。そして神殿から神官長を呼んで来るように。ノーラ公爵は夫人と共に別室にて待機しなさい。」


「王妃陛下、私事でこの場を乱してしまい、誠に申し訳ありません。謹んでお詫び申し上げます。」


グレイスは深々と礼の姿勢を取る。


「グレイス、いくら聖女がダリウスに再生の力を使ったとしても、あなたが不当に扱われる筋合いはありません。」


マリアの怒りは相当だった。

グレイスはそれを聞いて、どこか救われていた。

それと同時に、ダリウスに対する信頼を失っている自分に気づいた。



別室にグレイスとダリウスは待機していた。

夜会は続いている。

2人を気遣って、軽食や飲み物が用意されていたが、手をつける気になれなかった。


王宮の侍女や騎士が控えてはいるが、久しぶりのダリウスとの時間。

しかしグレイスにとって、喜びを感じる事はなかった。

2人には気まずい空気が流れていた。


「あなたは何を見たの?」


沈黙が続く中、グレイスはずっと気になっていた事を聞いてみる。


「あなたの心の中は、その事で支配されている様ね。」


「·····フィーネが俺に力を使った時、彼女の記憶が流れて来た。両親を魔獣に殺される場面から、預けられていた孤児院で、慰問に訪れた貴族の令嬢達から虐待を受ける姿や、そこから仲間と逃げ出して、泥水を飲むような生活をしている場面。漸く仲間とまともな生活が始められた矢先、移住先の村が魔獣に襲われ····酷いものだった。仲間を助けるため覚醒した力が聖女の力だ。あの力は彼女の気持ちにしか反応しない。治したいと思わないと発動しないんだ。そして今、俺といる時は、安定的に発動している。俺がいると、幸せを感じるからだそうだ。今、離れれば、あの力は失われるかもしれない。」


「·····あなたも彼女を愛しているのですか?」


「·····フィーネの心は無垢だ。思った事、感じた事、喜びも、悲しみも、怒りも、嫉妬も、何も隠す事はない。俺に向ける愛情は、真っ直ぐだ。それを拒む事を心苦しいと思っている。」


「·····いつまでこの状態を続けるつもりです?聖女様のあの様子だと、あなたから離れるつもりはない様だけど?」


「グレイス·····離婚しないか?」

「っ!」

「グレイスが今、俺たちのせいでどんな目に会っているか知っている。·····これ以上、辛い想いはさせられない。」

「本気で言っているの?」

「ああ。ずっと考えていた。今まで言い出せなかったのは、グレイスを手放す勇気が無かったからだ。本当にすまない······。グレイス、あなたは美しい····。俺が離れれば、あなたを望む者も多いだろう。」



「·····私の気持ちなど、何も考えないのですね。」

「っっ!」


「いいでしょう、それがあなたの望みなら。叶えて差し上げましょう。」


グレイスはそう言い、優雅に微笑む。

ダリウスはその瞬間、グレイスとの間に厚い壁が出来た様に感じた。


「グレイス·····。」


ダリウスが思わずグレイスに呼び掛けるも、グレイスはダリウスと目を合わせる事はなく、そのまま立ち上がり、扉に向き直る。


「という事です、アーレン国王陛下、マリア王妃陛下。」


グレイスの言葉に驚いてダリウスが扉の方へ目を向けると、そこにはアーレンとマリアが立っていた。


「ダリウス、お前は·····。」


アーレンは頭を抱え、マリアは呆然としていた。


「色々、お気遣い下さったのに申し訳ありません。私達は離婚する運びとなりましたことを、ここにご報告致します。」


グレイスはそう言うと、深々と(カーテシー)の姿勢を取る。

そしてその頬には、一筋の涙がこぼれていた。


数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします

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