14 聖女の力
誤字報告有り難うございます。
不定期投稿です。
ギシッ····ギシッ····
真夜中、ベッドが軋む音で目が覚める。
石鹸の香りと共に、しっとりとした指先がグレイスの頬をなぞる。
目をうっすらと開け、その指先に自身の手を重ねる。
「お帰りなさい、ダリウス·····。ごめんなさい、寝てしまっていたわ。」
「いや、起こしてしまったか····パーティーでは先に帰してすまない。」
「いいのよ。今お帰りに?」
「ああ、先ほど。少し湯に浸かっていた。」
「ふふ、石鹸のいい香りがするわ。聖女様のお相手、大変でしたわね。」
パーティーでは、ダリウスは聖女フィーネをエスコートした後早々に、グレイスの元へ戻る予定だったが、フィーネがダリウスを離そうとせず、パーティーの後も結局神殿まで送って欲しいとせがまれ、グレイスとは別行動になってしまった。
「予想以上に子供っぽいお方でしたわね。」
「ああ、正直疲れた。同じ平民の子供でもああはないと思うが。寧ろもっと自立しているものだ。」
「どんなお話をしましたの?」
「生い立ちだな。俺も孤児院出身だから、話していて安心感があるのだろう。彼女が連れている聖騎士数人は、同じ孤児院出身の者達だそうだ。その者達が特に聖女を盲信しているようだった。」
「これから表舞台に立つでしょうから、ある程度礼節を弁えた行動をしないと、聖女のお立場を汚すことになりそうだわ。」
「疲れた····グレイス·····。」
「ええ、本当にお疲れ様。」
グレイスはダリウスの頭を胸に抱き、優しく髪をすく。
ダリウスは気持ち良さそうに表情を和らげ、直ぐに眠りについた。
◇
ダリウスはその後グレイスと話し合い、アーレンの提案通り、指南役の1人として騎士団に席をおくことになった。
また、ダリウスと同じように手足を失った者達にも、義手、義足を装着しての訓練とムチの扱いについて教授することになった。
これにより、領地を家令に任せ、王都の屋敷で多くを過ごすことにした。
そして全ての環境が整い、いよいよダリウスが騎士団で仕事を始めるその日に、それは起こった。
「いよいよ今日からね。」
「ああ、漸くあの日から自分を取り戻せた気がするよ。グレイス、君には感謝してもしきれない。義手や義足、ムチもそうだが、俺を諦めないでいてくれて有り難う。」
「そんなこと·····。貴方が努力したからに他ならないわ。」
ダリウスはグレイスの頬を愛しげに撫で、優しく口付けをした。
「今夜は気持ちが高ぶっているだろうから覚悟をしておいて欲しい。」
「ふふふ。ええ、全て受け止めるわ。」
「愛している、グレイス·····行ってくるよ。」
「はい、お気をつけて」
グレイスはダリウスと軽く抱き合い、見送った。
そしてこの日を最後に、ダリウスはグレイスの元に帰ることはなかった。
◇
「ウォーレン·ロドリス卿が?」
「はい、急ぎお知らせしたいことがあると、お出でになっておられます。」
「騎士団からよね?ダリウスに何かあったのかしら····。すぐ応接室に行くわ。」
その日の夕方、屋敷に王宮からの使いということで、先日の御前試合でダリウスと闘い、更に聖女のエスコートをしなければならなくなったダリウスの代わりに、グレイスをエスコートしたウォーレン·ロドリスが応接室で待っていた。
「先触れも無しに申し訳ございません。早くお伝えした方がいいと思いまして。ご無礼をお許し下さい。」
「大丈夫ですわ、お座りになって。」
「いえ、このままで。取り急ぎお伝えしたく。」
「分かりました。それでダリウスに何かございましたか?」
「はい、本日からノーラ公爵様に騎士団でご指南頂く事になっておりましたが、何処から情報を得たのか、聖女様がご見学に参られました。」
「聖女様が?」
「はい。それでノーラ公爵様のご指導ぶりに感銘を受けられまして、ノーラ公爵様の手足の再生の治療魔法を突然かけられました。」
「何ですって?!魔法を?!」
「はい、詠唱無しでノーラ公爵様の身体に触れ、祈りを捧げられました。すると公爵様の身体が激しく発光し、みるみる手足が元通りに再生しました。」
「それは本当に?」
「はい、私は直接その様子を目撃しました。間違いありません。義手と義足を押し退ける様に、手足が再生していきました。」
グレイスの目から涙が溢れる。
それを見て、ウォーレンは慌てる。
「ノーラ夫人、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい、嬉しくて·····。それでダリウスは今どうしているのですか?」
「それが·····ノーラ公爵様の治療が終わると、聖女様はその場で倒れられ、急ぎ王宮内の部屋へ運ばれました。」
「何ということ····魔力切れかしら。それで聖女様はご無事なのですか?」
「はい、おそらく。意識は僅かにあるようでしたから。それで倒れた聖女様がノーラ公爵様の手を放されないので、公爵様も共にお部屋に。今は傍で見守っておられます。」
「そうですか。それでは私も王宮へ参ります。案内して頂けますか?」
「承知しました。」
こうしてグレイスはウォーレンと共に王宮へ向かった。
しかし王宮にたどり着くと、そこには聖女を守る聖騎士達が待ち構えており、グレイスの訪問を拒絶した。
「聖女様は未だ意識が朦朧としておられます。どうぞお帰り下さい。」
「そうですか····。聖女様が魔力切れでしたら、私の魔力をお渡しする事が可能です。回復も早くなるでしょう。」
「聖女様はあなたを嫌っておられます。不快に思い、反って体調の悪化を起こすかもしれません。どうぞお引き取りを。」
「貴様、夫人に対し、無礼だろう!」
ウォーレンが聖騎士の不敬な物言いを咎める。
「これはノーラ公爵夫人、失礼しました。」
2人の言い争いを聞いたのか、別の聖騎士が仲裁に入る。
「ノーラ公爵夫人、大変失礼致しました。私はこの者と同じ聖騎士のマルス·スタードと申します。大変失礼な物言い、誠に申し訳ございません。この者は、聖女様と幼少期より同じ施設で生活しておりましたので、聖女様に対する想いが人一倍な様で。勝手な事を言い、申し訳ありません。」
「だとしても不敬にも程があるぞ。」
ウォーレンはグレイスの代わりに怒りを表してくれる。
「ジャン、夫人に謝れ。公爵夫人にその様な態度、許されるものではないぞ。」
マルスがそう言うと、ジャンと呼ばれた男は、渋々グレイスに謝った。
「聖女様が倒れられている中、騒ぎを起こそうとは思いません。許しましょう。ですが、私の魔力が必要な場合は、直ぐにお声掛け下さいませ。」
「お心遣い有り難うございます。」
「それで夫はどうしておりますでしょうか?」
「はい、聖女様がうわ言で、ノーラ公爵の名をお呼びになるので、寄り添っておいでです。」
「そうですか·····。ではまた明日伺います。聖女様は主人の手足の再生の魔法をかけて下さったとか。私からも直接お礼を申し上げたく思っております。」
「承知しました。その事を、聖女様が回復されましたら、お伝え致します。」
「宜しくお願いします。」
グレイスはその日、仕方なく王宮を後にした。
しかし、その日以降も王宮に足を運ぶも、聖女にも、更にはダリウスにも面会が許される事はなかった。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。