11 王都へ
不定期投稿です。
鳥の囀りで、夢から引き戻される。
ゆっくりと目蓋を持ち上げると、目の前にはダリウスの温もりがある。
少しはだけた胸元に片手を差し入れ、抱き締める様にして頬擦りをする。
幸せだわ。
ダリウスの匂いを確かめるように、深く深呼吸をする。
そんな事をしていると、どうしても口付けたくなって、ダリウスの腕枕から頭を浮かせ、ダリウスの顔を覗き込む。
「·····朝から積極的ですね。」
「起こしてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ。」
「ダリウス、口付けても?」
「ふっ·····俺もあなたとしたい。」
グレイスはダリウスの身体に乗るようにして起き上がり、両手でダリウスの顔を挟み、ゆっくり口付ける。
ダリウスは片手でグレイスを抱き締める。
口付けは深くなり、やがて体勢は変わり、2人は愛し合った。
「ダリウス、子供はまだ駄目ですか?」
「·····来月、王都に行こうと思っている。」
「王都に?」
「アーレン様が国王になられて1年の祝いに御前試合を行うそうで、そこに呼ばれた。」
「試合をするの?」
「ええ、そこでもし勝てたら、子供が出来ても子供に胸を張れる気がするんだ。そうしたら····もう避妊は止めよう。」
「ダリウス····。」
「グレイス、いつも俺を支えてくれて有難う。試合を見ていて欲しい。」
「·····勿論よ。楽しみにしているわ。」
そう言って2人は抱き合う。
感じる互いの温もりが、何より幸せの証だった。
2人が結婚して2年の歳月が過ぎていた。
◇◇◇
「2人は知っていたの?」
執務室でハルとタッカに問いただす。
「半年前位でしょうか、グレイス様が王都の屋敷に所用で1週間程滞在されていた時に、国王陛下から手紙を受け取られ、その内容が来月行われる御前試合についてだったそうです。それからダリウス様は、冒険者の方々と魔獣討伐に行かれ、義手、義足で実戦経験を積まれていたそうですよ。」
「もしかして2、3日かけて領地を見て廻ると言って外出しているのは、魔獣退治に行っていたという事?」
「そうですね。」
ハルは事も無げにそう言う。
「俺は直接ダリウス様から話を聞いて、よく鍛練に付き合っていますよ。俺だけではありませんが。」
「タッカも鍛練に付き合っているの?」
「ええ、毎回ではありませんが。俺の剣術は型通りではないですからね、ダリウス様に気に入ってもらってます。」
「ダリウスは本気なのね。それでどうなの?タッカから見たダリウスは。」
「そうですね。全盛期とは異なりますが、あの鞭を使った攻撃は正直強いと思いますよ。」
「あなたが言うならそうなのでしょうね。」
「ダリウス様だから義手、義足の適応は早かったと思いますが、それでも義手、義足といった物自体が以前と比べ断然品質はよくなったと思います。今なら立ち回りも問題なく出来ると思います。」
「そうなのね、ダリウスも自信がありそうだったわ。それに約束してくれたの·····御前試合で勝てたら、子供を作ろうと。」
「漸くですか。」
「タッカ。」
「いや、だって避妊し続けて、ダリウス様は後継をどうするおつもりなのか心配していた所ですよ。」
「避妊薬はお身体に負担がかかりますから、飲まなくてよくなるなら幸いです。」
「2年も子供が出来ないと周りに思われると、また側室にと売り込む者が出てくるでしょうから。あ、王都に行った時は要注意ですね。」
今のダリウスは義手、義足を感じさせない程、安定した体躯だ。
御前試合に出たダリウスは、きっとまた話題になるだろう。
「そう言えば聞かれましたか?『聖女』の噂。」
「聖女?」
「王都から遠く離れた、西の国境の村で、『聖女』と呼ばれる少女が現れたそうです。」
「『聖女』は確か、治癒魔法が特に優れた者を言うとされるけれど、どう言った能力だったのかしら?」
「ええ、何でも村が魔獣に襲われ、多くの者が大怪我を負っていた所、少女が祈っただけで周りにいた全ての者達の怪我を治したそうです。更に腕を欠損していた者の腕が元通りに再生したとか。さすがに再生させた時には魔力切れで倒れたそうです。その事が神殿に伝わり、少女に『聖女』の称号が与えられたそうです。」
「祈るだけで1人のみならず、周りの人間の治療を行うなんて·····それも無詠唱。『聖女』様は大変な魔力をお持ちなのね。」
「その『聖女』様が、丁度国王陛下即位1周年の祝いの式典で、紹介されるらしいですよ。」
「まあ。」
「御前試合も見に来られるんじゃないですかね。もしかしたら、ダリウス様の手と足も治してくれるかもしれません。」
「ダリウスの手、足·····。」
ダリウスはこの事を知っているだろうか。
もしダリウスの手、足が再生されるなら、ダリウスにとってこの上ない喜びだろう。
グレイスは 『聖女』との対面を密かに期待するのであった。
◇◇◇
あれからあっという間に1月が過ぎ、ダリウスとグレイスは王都の屋敷に来ていた。
来て早々、待ち構えていたかの様に王宮から呼び出しがあった。
「久しぶりだね。私の即位式以来か。あの時は、式典が終わり次第早々に帰っていただろう。寂しかったよ。」
「あの時陛下は、各国の大使や他国の王族に囲まれていましたから、遠慮させてもらいました。」
「今回はゆっくりしていってくれよ。私もマリアも気を許せる相手がいなくてね。ストレスが溜まってばかりだよ。」
「そうよ。王都に滞在している間は、私の傍にいていいんですからね、グレイス。」
「ふふ、マリア様もつつがなく公務をこなされていると伺ってますわ。喜ばしい事です。」
「グレイスが整えてくれた組織が上手く回っているのよ。」
そう言って、マリアは苦笑いする。
「そうだ、『聖女』の話は聞いたかな?とてつもない治癒魔法の使い手が現れた事を。」
「少しだけですが。何でも祈りだけで、周りの人間を治癒したとか。おそらく魔方陣の概念もなく、魔力操作の訓練もしていないとなると、神力に位置づけられるのでしょうか?」
「そうだな。神殿は聖女を神の使いとして崇め、囲いこんでいるよ。神殿が力を持ちすぎると厄介なんだ。国の政策に口出しするようになるからね。こちらとしては、聖女個人といい関係を築いておきたい所だ。だが聖女を守る聖騎士団が新たに編成されていて、王都に乗り込んで来ていてね、奴らは既に大きい顔をしているよ。」
「聖女様はどのようなお方なのですか?」
「年齢は16歳で、田舎の孤児院で過ごしていたような子だ。常に何かに怯えている感じで、聖騎士にベッタリだ。容姿も普通。聖女だと言われなければ気付かないだろうな。」
「それでしたら、お堅い貴族よりは、マリア様のような方に心を開くのでは?」
「そうね。神殿の道具にされない様に、寄り添ってあげたいとは思っているわ。」
「早々に王都に呼んだのも理由があるんだ。良ければ、ダリウスの手足を聖女に見てもらおうと思ってね。明日の御前試合にも招待しているから、顔合わせ出来たらと思っている。」
グレイスはそっとダリウスを伺う。
「とても有難いお言葉です。手足を治療するのに、無理難題を言って来るようなら、多くは望みませんので。」
そう言ってダリウスは視線をグレイスに向ける。
それでいいか?と聞いているようで、グレイスはダリウスに頷いて見せた。
「分かった。とにかく明日の試合を楽しみにしているよ。」
話ながら無意識に手を取り合っているダリウスとグレイスを見て、アーレンは眩しそうに目を細めるのだった。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




