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短編集【不思議】

きみのとなりに ×

作者: ポン酢

空から舞い降りる、雪を見ていた。


雪を見ると、何かを思い出す。

それが何かは思い出せないのだが、温かい気持ちになる。


子供が「ハムスターを飼いたい!」と駄々をこねた事があった。

ハムスターを見た瞬間「あっ!」と声が出た。

私は多分、ハムスターを飼った事がある、そう思った。

なんで忘れていたんだろう??

けれど、父も母もそんなモノは飼っていなかったという。

友達が飼っていたのを勘違いしているのかもしれない。


ハムスター??

ハムスターだったっけ??

もっともふっとした長めのしっぽがあったような…。

リス??

どちらかと言うとリスよりもヤマネのイメージが近い気がする。

いやでも、ヤマネを飼っている友達なんかいなかった。

と言うか、そんなに小さかっただろうか…?

もっと大きかった気がする。

首に巻けるぐらい…いや、包み込む布団ぐらい……??

小さい時から動物は好きだったし、テレビで見た事が記憶の中であべこべになっているのだろう。


私はマフラーやストール、スヌードやティペットが好きだ。

巻いていると大切に包まれているみたいで安心する。

家の中でもつけてたりする事が多いくらいだ。

それは子供の頃からのようで「ゆきは薄着のまま外に飛び出していっちゃう子だったけど、マフラーだけは絶対してた」と母親に言われた。


最近、よく星を見る。

都会から少し離れたここは星がよく見えるからだ。

子供の頃、必死に覚えて誰かに教えていた。

旦那にも同じように教えたけど、面倒がってはいはいと流されていた。


都市部から少し離れると、意外と都市部付近にこんなところがあるの??と言う場所がある。

そういったところは別荘地や定年後にゆっくり暮す目的の人をターゲットに開発に力を入れていたりする。

便利な都市部と完全に離れる事に不安を覚える、古民家を買って自給自足みたいな度胸と覚悟が決まらない中途半端な定年者に密かに人気だ。

そして私と旦那ももれなくそんなタイプだった。

都市部ともそこまで離れてないから、たまに子供たちも孫を連れて遊びに来てくれる。

でも孫も大きくなったから、殆ど顔を見なくなったけれど……。


夫が亡くなってだいぶたった。

それは本当に突然で、なのにやらないといけない事が山のようにあってとても忙しかった。

やっと色々な事が片付いて、ふと気づいたら、それまで忙しかった分なのか急にゆっくりした時間が訪れた。


思えば人生、ジェットコースターの様だった。

はじめはゆっくりゆっくり進んでいたのに、ある時から物凄いスピードで走り出し、あっちにこっちに振り回されて振り落とされないよう必死にしがみついていた。

そして走り出した時と同様、急にゆっくりになった。

はじめは今までが早くて激しかった事もあり呆けてしまっていたが、慣れてくると時間は本来、こういったゆっくりしたものなのだと思えた。


「ふふっ。私ももう、お迎えが近いのかもね~。」


まだまだ元気なつもりではいるけれど、最期なんてどうなるのかはわからない。

子どもたちは心配してくれるが、身体的に大丈夫な間は、夫と最後の時間を過ごしたここで、もう少し穏やかな日々を感じていたかった。


雪が降っている。


今年に入って初めての雪だ。

年々降る事も珍しくなってきたけれど、やはり冬に雪が一度もちらつかないというのも何か寂しい。

勝手なものだ。

仕事に子育てに追われていた時は天気予報に雪マークがつくと、車や電車の事を考えて頼むから降らないでくれと願ったというのに。


窓を開ける。

雪の日特有の静けさが冷気とともに私を包んだ。


この静けさが好きだ。

聞く必要のない突き刺すような言葉も何もかも。

そういったものからいったん距離を作って、私を守ってくれる。

状況が変わらなくても、そうやって安全に隔離された時間が心や思考を正常に保ってくれる。

心と頭が平静になれば、どうするべきか、どうしたいのか、見失わないでいられるから。


吐く息が白い。

手先がちりちりと冷気に焼かれる。

窓を閉めると、ガラスに映った自分の頬が寒さで赤くなっていた。

子供の頃の写真を思い出す。

寒さの中、平気で外を走り回る私の写真は、いつだってリンゴのように真っ赤だった。

思い出して笑ってしまう。


ふと、首元が暖かくなった。


それによって、体が冷え切っていた事を自覚させられる。

子供の時に調子に乗って上着も着ないで外を走り回った後、いつもこの感覚がした。


「……あれ??私…なんで泣いているんだろう……??」


その温かさを感じ、止めどもなく涙が溢れた。

懐かしくて大切なぬくもり。


夢を見た。


雪の中を真っ赤な傘をさして、小さな私が意気揚々と歩いている。

雪が嬉しくて仕方がなかったのだ。

可愛いミトンの手袋もお気に入りだ。


そして目を留めた。


小さな私だから視界が低くて、子供だから好奇心旺盛でそれに気付いた。


雪に埋まる、小さな小さな生き物?に。


手ですくい上げる。

凄く弱々しい何か。


自分を見つめるそれを、私は見つめ返した。



「…………あ…。」



夢を見た。

小さい頃の夢だった。


それは久しぶりに雪が降った夜の事だった。


まだ暗い中、布団から身を起こす。

いつもなら冷えきった空気に身震いするのに、私の周りはとても温かい気がした。





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【関連作品】

「きみのマフラーになりたい」

「きみのそばにいるよ」


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