最強俺TUEEEの予定が、転生先は悪役令嬢!?
我が国の才媛、レオナ・グラスフィールドの使用人はこう語る。
「まぁ、レオナ様についてですか?それはもう才に溢れたお方ですよ」
「剣を持てば並み居る騎士を相手取り、杖を持てば宮廷魔術師の方々を震い上がらせ、更にはご勉学にも励み、先日は五カ国交流の場で多言語を操って他国の研究者とも活発な議論をお交わしになったとか」
「そのようなお方ですのに、わしらのような使用人たちにまでお優しい」
「学院でも幅広く有能な人材を集めたサロンなどを開き、人脈づくりに精を出したり、入学規則の改革にも乗り出したりしていらっしゃるとか。ほんに見習いたいものです」
「あのようなお方がいらっしゃるなら、この国は安泰だろうと思いますね」
◇
………なんで転生先が悪役令嬢なんだよーーーーー!!!!!!!!!!
俺は草野玲央。最もそれは前世の名前だが。
俺は生まれつき体が弱く、基本病院通いの不健康優良児だった。普通の子供がやる運動も厳しい制約付きで、有り体に言うとめちゃくちゃに暇だった。窓から見える公園で同じぐらいの年のやつらがボールを追って走り回っている間、俺はコミュニティルームの児童書を読破していた。
「玲央、誕生日プレゼントだよ」
いくつの誕生日か、親からタブレットを貰った。その前の面会で読む本がないと溢したからか、そのタブレットには沢山の本のデータが入っていた。俺はその電子の本を読み、読み、…読み尽くす前に「ネット小説」というものの存在を知った。
結論から言うと、そこそこハマった。今まで読んでいた本とは毛色が違うが、これはこれでアリだと思う程度には自分にとって面白いものだった。
「ふんふん、最近はこういうのが流行りと。……皆ストレス抱えてんだなぁ…、ん?あ、これ女性向けの方か」
ランキングを見ている最中、悪役令嬢、というジャンルの小説を誤ってタップしてしまったようだ。別に特定のジャンルしか読まないわけではないので、そのまま読んでみた。
「なるほど、断罪からいかにして逃れるかっていうのがこの系統のテンプレなんだな」
いわゆる乙女ゲームには、というかそもそもゲーム自体詳しくないが、自分が死ぬかもしれない状況をどう解決していくのか、という筋立てはわかりやすくていいなと思う。
「玲央くん、そろそろ消灯時間だよ~」
「あ、はーい」
随分と時間が経っていたようだ。慌ててタブレットを片付けて、ベッドに潜り込む。パチ、と電気が消えて、目を瞑った視界は真っ黒に塗りつぶされた。
でも、自分ならやっぱり純粋な俺TUEEEをしてみたいかな。…走り回れもしない体だから、思うがままに動けたら、きっとさぞや気持ちいいだろう。
そんなことを考えていると、少しずつ意識が解けていく。最近は小康状態だし、そろそろ一時帰宅ができるかな。…そこまで考えたあたりで、俺は完全に意識を手放した。
――――ピピピピピ!
「……せい、先生!!!駄目です、意識状態戻りません!」
「そんな、最近は安定していたのに…!!」
そのまま、俺は、草野玲央は、どうやら短い生涯を終えたらしい。
◇
「………あうあー?」
「あらあら、レオナったらどうしたの?きょとんとした顔しちゃって」
例えば、めちゃくちゃ美人な女の人が、俺を抱っこしていたりだとか。
「おうじ、さま?」
「そうだよ、レオナ。君の婚約者様だ」
きらきらな王子様と自分が婚約したりだとか。
「まぁ、レオナ様!噂通り本当にお強いのですね!」
「…えっと、ありがとう?」
「さすが僕の婚約者だね」
「これなら次期王位も安泰だろうな、王子様」
純粋そうな美少女に自分の魔法を褒められたりだとか。更にそこにきらっきらに成長した王子様だとかその騎士が常にくっついていたりだとか。
「………もしかして、俺、悪役令嬢だったり…?」
…したとして、ヒロイン(暫定)にはなんかすっごい懐かれてるし、王子様との関係は普通に良好だし、他の攻略対象(仮)たちとは特に仲良くも悪くもないって感じだし。
「……うん、まぁ、いいか」
それより、剣術と魔法の訓練だ。自分の思い通り、いや、なんなら思い通り以上に動くこのハイスペックな体、思ってた以上に楽しすぎる!!
「ある意味これも俺TUEEE………?」
「レオナさまー?火竜退治行きましょうよー!」
「…あ、リリー!今行きますわ!」
うん、俺、この人生も楽しめそう!