第8話 契約内容
佐藤さんとの話の内容は大体こんな感じでまとまった。
・ダンジョン探索の報酬は俺と新木、ともに年間五千万円。
・ダンジョンで手に入れたアイテムは報告、のちに不要なものは政府が高額で買い取り。
・どのダンジョンに潜るかは基本的に自由に選べる。
・ダンジョン探索にかかるもろもろの諸経費は政府が負担。
・単独行動はせず、常に俺と新木の二人でダンジョンに潜ること。
・世間には俺と新木がダンジョンに潜っていることは公表しないこと(諸外国に知られたくないため)。
これらを契約書にしたためると、俺と新木は首相官邸をあとにして各々家とホテルに送ってもらった。
家に帰ってすぐ母さんと妹が俺を質問攻めにする。
だが本当のことは答えられないので、仕方なく適当にごまかすと俺は自室に駆け込んだ。
部屋の外では妹がまだ何やら喋りかけてきているが知ったことか。
俺はベッドに仰向けに倒れ込む。
「ふぅ……疲れた」
初めての場所で慣れないことをしたせいか、どっと疲れが押し寄せてくる。
俺は目を閉じて全身の力を抜いた。
とそこで俺は思い出す。「あ、そういえば薬草があったんだっけ」と。
俺は体を起こすと机の一番上の引き出しを開けた。
そして中に入れておいた薬草を取り出し口に運ぶ。
もぐもぐ……。
相変わらず美味しくはないが、これで疲労が少しは回復するだろう。
薬草というのは異世界ではありふれた食べ物だった。
擦り傷や切り傷を治したり、体力や気力をある程度回復させる効果のある草だ。
ごくんと飲み込むと俺は机の一番下の大きな引き出しを開ける。
するとそこには青く光るゴルフボール大の石があった。
先日ダンジョンの中でスライムが落としていったものだ。
持ち上げ、
「うーん、これってなんなんだろうな?」
見たこともないアイテムを再度じっくり観察する。
赤く光る石や緑色に光る石は異世界で見たことがあるから知っているが、これは俺にもわからない。
結局この石に関してだけは松原首相や佐藤さん、新木にさえも言ってはいない。
「念のため肌身離さず持っておくか」
いつ使う機会が訪れるかわからないが、とりあえず俺はそれをズボンのポケットに忍ばせた。
直後、
ブーン、ブーン……。
スマホが震えながら音を立てる。
俺はズボンのポケットからスマホを取り出して画面を確認した。
メールだった。
相手はついさっき別れたばかりの新木だ。
メールアドレスを交換して早々、なんの用だ?
俺はスマホを操作しメールを開く。
[結城、早速だけどどこのダンジョンに潜るか決めたか?
あたしは決めたぞ。
結城が特に意見がないならあたしの決めたダンジョンにするけどそれでいいか?
あーそれとな、これまでと同じようにダンジョン内で手に入れたアイテムはあたしが全部持つから結城は何も心配しなくていいからなー!]
新木らしい絵文字が一切ないメールだった。
「はいはい、好きにしろよ」
俺は誰にともなくつぶやくと再びベッドにダイブする。
……一応断っておくが、俺は嫌がる女子に荷物をすべて押し付けているというわけではない。
新木が持つ【マジックボックス】というスキルのおかげで、新木はどんなに沢山の荷物だろうと重さも容量も無視して持ち運ぶことが出来るのだ。
それがポーターとして異世界に召喚された新木の能力でもあった。
ベッドの上で天井を眺めつつ、
「さてと、それよりどうしたもんかなぁ……」
家族に自分の仕事について今後どうやって説明するかを考え、俺は久々に頭を悩ませるのだった。