第6話 再会
首相官邸に招かれることになるとは想像もしていなかった。
俺は緊張しつつ首相官邸の中を歩く。
松原首相に案内され、格調高い部屋に通されると「ちょっと待っていてくれ」と松原首相が出ていった。
一人きりで手持ち無沙汰になった俺は何気なく外の景色を眺めていた。
今何時だろう。スマホを確認しようとズボンのポケットに手を伸ばす。
するとそこへ、
ドンッ。
とドアが強めに一回ノックされた。
「はい」
俺は部屋の外に聞こえるくらいの声を返す。
だがドアを開ける様子もなければ返事もない。
なんだ?
仕方なくこちらから近付いていきドアを開けた。
そこで俺は固まってしまう。
なぜなら俺の目の前に立っていたのは、
「よう結城、元気にしてたかっ」
異世界で俺とともに魔王退治の旅をした仲間、新木レイナだったからだ。
☆ ☆ ☆
「新木っ……お前なんでこんなところに?」
「あははっ、なんだよその顔。あたしがいてそんなに驚いたかっ?」
新木は俺の顔をじろじろ眺めつつ豪快に笑う。
「そりゃ驚くさ。新木がこっちの世界に戻ってきてたことも知らなかったし、お前たしか北海道に住んでるとか言ってただろ」
新木レイナ、十九歳。
俺と同じくこの世界から異世界召喚された人間だ。
俺が勇者だったのに対して新木はポーターとして呼び出されていた。
「結城が召喚術師に飛ばされてからあたしもすぐにこっちの世界に飛ばしてもらったんだよ」
「なんだ、そうだったのか」
異世界で新木と初めて会ったのは四年前。新木がまだ中学生だった時だ。
その頃の新木は今と比べて背も低く、俺に敬語を使うおとなしい奴だったのだが。
魔王退治の旅を通して新木は心身ともに図太く、たくましくなっていった。
そして今では、
「それにしても結城、久しぶりだなっ」
「いててっ。こら放せって」
「いーや、駄目だねっ。あはははっ」
俺にヘッドロックをかますくらいに元気が有り余っている。
なまじ異世界で修行しただけあって力もそれなりに強い。
おそらく俺を除けば地球上で最強の人間だろう。
「二人は仲がよさそうで何よりだね」
俺と新木がじゃれ合っているとでも思ったのか、新木の後ろから松原首相が顔をのぞかせ言った。
「松原首相っ……おいこら、新木いい加減にしろっ」
「わかったって、怒るなよ」
新木を振りほどくと襟を正して松原首相の前に立つ。
新木も俺にならって俺の隣に直立した。
隣に立つ新木を横目で見て、最後に会った時よりまた背が伸びたように感じる。
俺の身長は百七十六センチだが、この分だと新木に抜かれるのも時間の問題かもしれない。
「結城くん。きみの話は新木くんから聞いたんだよ。初めは信じられなかったが新木くんの身体能力をこの目で見たから信じることが出来たんだ。それにダンジョンが現れた以上疑う余地もないしね」
「あの、松原首相は新木とはどういう?」
俺は気になっていたことを訊ねてみた。
新木も俺と同じでごく普通の一般家庭の人間のはず。
松原首相とのつながりがあるとは思えなかった。
すると、
「あたしが異世界に召喚されたのって中学生の時だろ。だからうちの親が捜索願とか出して結構大変だったらしいんだわ。その関係で松原首相もうちの親に何度か会ったこともあるんだってさ。んであたしがこっちの世界に戻ってきたら北海道では大ニュースでさ、今までどこにいたんだとか、四年間もどうやって生きてきたんだとか、いろいろ質問されたわけよ」
松原首相ではなく新木が代わりに答える。
さらに続けて、
「あたし嘘つけない性格だろ。だから異世界にいたって正直に話したんだけど誰も信じてくれなくてさ、そんな時松原首相だけはあたしの言うことに耳を貸してくれたってわけなんだ」
新木は俺の顔を見た。
「つうか結城、ニュースくらい観ろよ。東京でもそれなりに報道されてたはずだぞ、あたしのこと」
「そ、そうなのか」
知らなかった。
まさか新木なんぞにニュースを観ろと注意される日が来るとはな。
「ありがとう新木くん。まあ、そういうわけなんだよ結城くん。だからだね、異世界でとても強くなった二人に日本国民の代表としてお願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
「ああ。二人にはね、日本各地に現れたすべてのダンジョンの探索を任せたいと思っているんだよ」
松原首相は真剣な面持ちで言葉を発した。