第55話 帰還
「ところで魔王くん、きみは世界間の移動は出来るかい?」
話がまとまったところで二本松がそんなことを口にした。
『な、なぜだ?』
「僕たちはもとの世界に戻りたいと思っているんだけどね、召喚術師がなかなかみつからないんだよ。だからきみに出来るのなら僕たちをもとの世界に戻してもらおうかなと思ってさ」
『ふ、ふむ、そうか……だが我に異世界に移動する能力はない』
「そっか、残念」
ちっとも残念そうに見えずに二本松が言う。
『だが、我の部下に召喚術を使える者がいる。その者に命じようではないか』
「本当かい? それは助かるよ」
『では呼んでくる』
魔王はそう言って謁見の間をあとにした。
魔王の背中を見送りながら、
「そいつ、ここに来るまでに結城がすでに倒しちまってたりしてねぇといいけどな」
縁起でもないことをさらりとのたまう新木。
仮にそうだとしたら俺たちはもとの世界に帰れなくなってしまう。
だが俺の心配は杞憂に終わる。
しばらくすると魔王が人型のモンスターを引き連れ戻ってきたからだ。
魔王は、
『こやつが召喚術の使い手だ。名をベリウムという』
後ろに控えていたモンスターを俺たちに紹介した。
ベリウムとやらは、
『……』
無言で俺たちをにらみつけてくる。
「ん、なんだてめぇ。なんか文句でもあんのかこらっ」
「こら新木、やめろ」
すぐ喧嘩腰になる奴だ。
これではどちらが悪いモンスターだかわからない。
『ではベリウムよ、早速で悪いが――』
「あ、ごめん、その前にもう一つだけいいかな?」
魔王の言葉を遮って二本松が口を開いた。
ベリウムの目つきが一層鋭いものになる。
『なんだ?』
「魔王くん、質問なんだけどさ、今僕たちの世界にはダンジョンがいくつも現れているんだよね。これってどういうことかな? 魔王くん何か知ってる?」
『ふむ、なるほどな。そういうことであればそれは我が復活した影響かもしれぬな』
と低くしゃがれた声で魔王が答えた。
「ふーん、そう。わかったよ、ありがとう」
それだけ言うと二本松は満足したとばかりに明後日の方を向く。
『ふむ。ではあらためて、ベリウムよ、この人間たちをもとの世界に戻してやるのだ』
『……かしこまりました』
ベリウムは納得していない様子ではあったが魔王の命令に首を縦に振った。
そして、
『……』
ぼそぼそと呪文をつぶやいたと思った次の瞬間――俺たちは黒く丸い球体に包まれ、もとの世界へと送り返された。