第45話 二本松
内閣総理大臣秘書官の佐藤さんのおかげで二本松の居場所がわかったので、俺と新木は早速向かうことにする。
新木は乗り気ではなかったが、俺が説得したことでなんとか同意してくれた。
「じゃあ、佐藤さん行ってきます」
「はい、お気をつけて」
佐藤さんに別れを告げると俺たちは【ゲート】で新木が住んでいるというマンションまで瞬間移動した。
☆ ☆ ☆
「へー、ここが二本松が住んでいるマンションか。すごいな」
「あいつ、こんないいとこに住んでやがるのかよ」
大きく立派なマンションを見上げ俺と新木が口をそろえる。
「たしか2011号室だって言ってたよな」
佐藤さんから聞いた部屋番号を頼りに早速マンションへ入ろうとする。
とその時、
「おや、そこにいるのはレイナくんじゃないのかいっ?」
斜め後方から聞き覚えのある声が飛んできた。
俺たちのよく知る声だった。
振り返り、
「おお、二本松っ」
「に、二本松、やっぱてめぇか……」
俺と新木は半年ぶりに二本松の姿を目にする。
日本に戻ってホストの仕事を再開したのか、二本松は白いスーツを身に纏っていた。
胸ポケットには赤いバラが刺さっている。
「レイナくん、どうしてここにいるんだい? もしかして僕に会いに来てくれたのかな? だとしたら光栄だね」
「鳥肌が立つからキザったらしいセリフを吐くなっ」
新木はしかめっ面で二本松をにらみつけた。
だが二本松はそんなことではへこたれない。
「相変わらず美しいねきみは。どうだい、僕と今夜ディナーでも?」
「てめぇも相変わらずだな。ったく」
二本松は胸ポケットのバラを新木に差し出すも、新木はそれを無視して「けっ」と吐き捨てる。
「おやおや、レイナくんのような美しい女性がそんな言葉遣いはいけないな。僕がレッスンしてあげよう」
「うっさい、黙れ。おい結城、やっぱりあたしこいつ嫌いだわ。さっさと帰ろうぜ」
二本松の言動に嫌気が差したのか、新木が俺に顔を向けた。
俺からすればどっちもどっちなのだがな。
しかしまあ、このまま新木と二本松だけで話をしていてもらちが明かなそうなので、とりあえず俺が割って入ることにする。
俺は二本松に視線を飛ばし、
「二本松、久しぶりだな」
と声をかけた。
すると二本松は今俺に気付いたとばかりに「やあ、結城くんじゃないか。きみもいたのか」と言葉にした。
女好きな二本松のことだ、俺のことなどまったく眼中になかったのだろう。
「二本松、急なことで悪いんだがちょっと頼まれごとをしてくれないか。お前じゃないと無理そうなんだ」
「僕に頼みかい? はて、一体なんの用なんだい?」
「実は俺と新木は日本政府に頼まれてダンジョンの探索をしてるんだが、どうしても開かない扉があって先に進めないんだ。どうやらその先にはモンスターがいるらしくてな、そいつのうなり声がうるさくて近隣住民が眠れないんだとさ」
俺は出来るだけ丁寧かつ簡潔に説明する。
「なるほど、そうなのかい」
「だからお前の力を借りたいんだが、どうだ?」
「ふーん」
と考え込む二本松。
「礼ならもちろんするぞ」
「ふーん、そうだなぁ……」
悩む二本松。
その姿を見て、
「もったいぶってねぇで、さっさとやるって言いやがれっ!」
こらえ性のない新木が二本松の胸ぐらをつかみ声を荒らげる。
「おい新木、手は出すなよ」
「こいつ次第だっ」
新木にすごまれつつそれでも二本松は平然と、
「まあ引き受けてもいいけどね、条件があるかな」
不敵な笑みを浮かべた。
交換条件か……。
その可能性もあるだろうとは思っていたが。
「なんだ、条件って? こっちには日本政府がバックについているからな、どんな条件でも聞いてやれるぞ」
「ありがとう結城くん。でも僕の願いはそう難しいものじゃないよ」
そう言った二本松は新木の目をじっとみつめ次のように口にした。
「レイナくん、僕とデートをしようじゃないか」