第43話 大きな扉
結論から言うと板橋区のダンジョンにはリビングボムしか出てこなかった。
落ちているアイテムも爆弾石や時限装置、爆弾化の杖やボマーの鎧などの爆発に関連したアイテムのみだった。
そんなダンジョンを俺たちは危なげなく階下へと進んでいき、気付けば地下十七階に到達していた。
スマホで時刻を確認するとすでに日が移り変わっていて、午前零時二十分だった。
それを見た俺は、
「とりあえず、少しここで仮眠をとるか?」
と新木に提案する。
「そうだな。さすがにあたしもちょっとだけ眠いし、そうしようぜ」
新木はそう言うと【マジックボックス】を具現化させ、中から寝袋を取り出した。
そしてさっさとそれに体を滑り込ませた。
「おい、まだどっちが先に仮眠をとるか決めてないぞ」という暇もなく、新木はもうすでにすやすやと寝息を立てている。
○び太くんか、こいつ。
☆ ☆ ☆
一時間して新木を起こすと今度は俺が眠りについた。
そしてさらに一時間後、俺たちはダンジョン探索を再開した。
地下十八階。
下りた瞬間、異様な感覚に襲われる。
これまでとは明らかに空気が違っていたので、
「ここが最深階だろ、結城っ」
「ああ、多分な」
俺たちは顔を見合わせうなずいた。
襲い来るリビングボムたちを俺と新木は自爆される前に一撃で粉砕しながら、先へと進んでいく。
そしてリビングボムたちを蹴散らしながら進むこと十五分、俺たちの目の前には大きな扉が立ちふさがっていた。
しかもその扉の中からは、今までに聞いたことのないモンスターのうなり声のようなものが聞こえてきていた。
「おい結城、この先に絶対何かいるよなっ?」
「それは間違いないだろうな」
近隣住民たちが夜な夜な聞いていたという声はおそらくこれだろう。
この扉の先にうなり声の主が待ち構えているということか。
「あれっ? なんだこの扉、全然動かないぞっ」
俺が一人考えを巡らせていると、新木が扉に手をかけつつそんなことを口にした。
「開かないのか?」
「ああ、びくともしないんだ。なんだこれっ?」
と新木は首をかしげる。
おかしいな。
新木は俺ほどではないものの、人間としては限界を超えて充分すぎるくらい強いはずなのだが。
その新木が開けようとしてびくともしない扉があるなんて。
「なら、俺がやってみる」
新木と入れ替わりに俺は扉の前に立った。
そして扉を動かそうと手に力を込める。
「ん~、ん~~っ!」
だがやはりびくともしない。
扉から手を放して、
「な、なんだこれっ……マジかよっ……!?」
思わず俺は天を仰いだ。
「なんだ、結城でも駄目なのか?」
「あ、ああ。全力でやったつもりなんだけどな……」
「へー、じゃあ壊すしかねぇなっ」
言うなり新木がこぶしを握り締めた。
「うおりゃーっ!」
半ば放心状態の俺をよそに叫び声を上げながら扉を殴りつける新木。
ドゴオオォォォーーン!!
だが――大きな扉は壊れるどころか、傷一つついてはいなかった。
「げっ、嘘だろっ!?」
と新木が目を丸くする。
俺も同じような反応をしていたことだろう。
いくら頑丈な扉だろうとも、新木が全力で殴って傷一つつかないなんてことは考えられなかったからだ。
「くっ、結構ショックだぜっ」
扉を見上げつぶやく新木。
その気持ちはよくわかる。
「仕方ねぇな……結城がやってくれ」
新木は扉から離れると俺に目線を飛ばしてきた。
新木としてはそれなりにプライドを傷つけられたのだろう、いつになく素直に俺に頼ってくる。
しかしながら、新木がまったく歯が立たなかった扉を俺が破壊できるのかどうか正直言って自信がない。
ここで俺も扉を壊すことが出来なかったらこれまでの異世界での四年間が全否定されるんじゃないか、そんな気さえする。
「結城、どうしたんだよ、早くしろよ」
「あ、ああ」
もうなるようになれだ。
俺は覚悟を決めて扉の前に立ち、
「くらえーっ!!」
全力のパンチを思いきり扉に打ち込んだのだった。