第41話 近隣住民
ダンジョンのある方へと俺と新木が歩いていくと何やら人だかりが出来ていた。
遠巻きから眺めてみるにどうやら近隣住民らしき人たちと自衛隊員たちが揉めているようだった。
「なんなんだ? あれ。結城、早く行ってみようぜっ」
好奇心の強い新木がそう言ってまたも駆け出す。
野次馬根性全開の新木を放っておくと厄介なことになりかねないので、俺は仕方なく新木のあとを追った。
☆ ☆ ☆
新木と俺が近寄っていくと、自衛隊員たちの制止を振り切り近隣住民たちがダンジョンの入り口まで押し寄せていた。
近隣住民たちは「どうにかしてくれよっ!」とか「毎日怖くて眠れないのよっ!」とか「責任者を出せっ!」とか自衛隊員たちに向かって口々に言葉をぶつけている。
そんな中、新木は人ごみをすり抜けて自衛隊員たちのもとへとたどり着くと、
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
一人の自衛隊員に話しかけた。
「ちょ、ちょっときみっ。勝手に入ってこないでっ。今調査中だから家に戻ってくださいっ」
「おいおい、勘違いするなよ。あたしは松原首相に頼まれてここに来たんだぞっ」
近隣住民だと思われた新木が反論する。
と、
「えっ!? き、きみがもしかして政府から派遣されてきた調査員なのかいっ?」
驚きの表情で自衛隊員が返した。
「そうさっ。あともう一人はそこにいるぞ」
言うなり新木は手を上げて、
「おーい! 結城、こっちだこっち! 早く来いって!」
大声で手招きする。
それを受けて俺は、周りにいた人たちの注目を浴びながらいそいそと人ごみを抜けた。
「お前は地声が大きいんだからいちいち叫ぶな。あと俺の名前を呼ぶな」
新木の隣に立った俺は新木に声を降らすが、当の本人は俺の言葉など聞く気がないようで、
「んなことよりさっさとダンジョン探索しちゃおうぜっ」
と周りの人たちに聞かれるのもお構いなしでのたまう。
「お前、馬鹿なのか? ダンジョン探索は秘密のはずだろ。もっと小声で話せよな」
俺は新木の耳元でそうささやいた。
「あ、そっか! すっかり忘れてたわっ、あっはっは」
「とにかくだ、俺たちがダンジョンに入るところを大勢の人に見られるのは都合が悪い。ちょっと人払いしてもらおう」
新木に言い置くと俺は自衛隊員に向き直った。
「すみません。話は通っていると思うんですけど、俺たちダンジョンの探索にやってきました」
「は、はいっ。存じてますっ」
「それでですね、これは一般の方には秘密の任務なのでここにいる方たちをどこかに移動させてもらえるとありがたいんですけど……」
「わ、わかりましたっ。では早急に対処いたしますっ」
妙にかしこまった態度の自衛隊員はほかの自衛隊員たちに呼びかけると、全員でその場にいた近隣住民たちをダンジョンの入り口が見えない位置まで誘導してくれた。
そして、
「こ、これでよろしいでしょうかっ」
急いで戻ってきた自衛隊員が口にする。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「サンキュー」
こうして俺たちは、自衛隊員に感謝の意を伝えてから板橋区のダンジョンの中へと足を踏み入れるのだった。