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第39話 新木の実家

おしとやか。

リコちゃんにはまさにこの言葉がうってつけだった。

受け答えも丁寧だし身のこなしも雰囲気も上品で女性らしく大人っぽい。

今の時代女性らしいという言葉もどうかと思うが、とにかくリコちゃんは俺の妹とは何から何まですべて大違いだった。

もちろん新木となど比べるべくもない。


「結城さん、どうぞ」


リコちゃんは急須でお茶を淹れるとそれを俺の目の前のテーブルの上にそっと置いた。

俺は「いただきます」と言ってそれを一口口に含む。

こくんと飲み込み、

「うん、美味しい」

自然とそんな言葉が出ていた。


「ありがとうございます。喜んでもらえて嬉しいです」

リコちゃんははにかみながら妹と新木にもお茶を差し出した。

妹はそれを「あっつーい!」と言い、新木は麦茶のごとくがぶがぶと一気に飲み干す。

うーん……やはりリコちゃんとは全然違う。


軽く会釈をして台所の方に戻っていくリコちゃん。

その立ち居振る舞いはとても中学生には見えない。

見た目も目鼻立ちがしっかりしていて背がかなり高いので、ともすれば大学生に間違えられるのではなかろうか。


「なんだよ、リコがどうかしたか?」

俺がリコちゃんの後ろ姿を眺めていたものだから新木が訊ねてくる。


「ん、いや別に」

同じ遺伝子を受け継いでいてこうも違うものかね、と心の中で思いながらも俺は声には出さない。

俺は新木とは違ってガサツではないからな。


台所からリコちゃんがお茶菓子を持ってやってきた。

テーブルの上にそれを置くと、

「どうぞ。こちらも召し上がってください。お口に合えばいいのですけれど」

俺の顔を見て微笑む。


「うん、ありがとう。いただきます」

「おいリコ。あんたも座んなよ」

「うん、わかった」

新木にうながされ新木の隣に腰を下ろすリコちゃん。

俺たちはテーブルを囲んで四人で座る形になった。


「さっきは挨拶を適当に済ませてしまってすみませんでした。あらためましてわたしは新木レイナの妹の新木リコです。どうぞよろしくおねがいします」

しっかりと俺と妹の目を見ながら話す。


「ああ。知ってると思うけど俺は結城ミサオだよ。でこっちが――」

「結城ミキですっ。よろしくねリコちゃん!」

「はい、よろしくおねがいします」

妹とリコちゃんが握手をした。

そんな仲睦まじい様子を新木は嬉しそうに見ている。


「結城さん」

リコちゃんが俺に向き直って真剣な顔をした。


「先日はわたしのために北海道まで足を運んでくださったそうで、本当にありがとうございました。結城さんのおかげでわたしの病気もすっかりよくなりました」

深々と頭を下げる。


「いや、俺別に何もしてないから。そんなかしこまらなくてもいいよ」

「いいえ。お父さんとお母さんから聞きました。結城さんの祈祷の力でわたしの癌を取り払ってくれたんだって」

「あー、うん、まあ……そうだね」


新木が俺が祈祷師の家系だなんて両親に説明したもんだから、妹のリコちゃんにまでその話が行き届いているようだ。

しかも純真無垢なリコちゃんはそれを完全に信じてしまっている。


「わたし、どうしても結城さんに直接会ってお礼が言いたかったんです。なのにまさか、結城さんの方から来てくださるなんて……本当にすみませんでした。本来ならばわたしから出向かないといけないのに」

「いいんだよ。本当に気にしないで。その話は終わりにしよ。ねっ」

いつまでもそんな話をされると妹の手前都合が悪い。

俺の隣では事情が呑み込めていない妹がぽかーんと口を開けて呆けているのだから。


「あっ、そうだ!」

すると突然新木が大声を上げる。


「なんだよ」

びっくりするだろ。


「この前リコのピアノの発表会があったんだよ。そのDVDがあるからみんなで見よう!」

「えっ、お姉ちゃんいいって、恥ずかしいよっ」

「何が恥ずかしいんだよっ。立派に弾いてたじゃないかっ」

「わたしもそれ見たーい!」

とすかさず妹が口を挟んだ。


「だろっ。よし、みんなで見よう!」

「賛成!」

「お姉ちゃんってば」

「DVD! DVD!」

「楽しみー!」

「もうっ、ミキさんまで」

「……」


人見知り爆発でにぎやかな女子たちの会話に全然入っていけない俺。

ここに新木とリコちゃんの父親と母親がいたらと思うと…………俺はぞっとした。

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