第37話 休日
とある日曜日、コンビニでお気に入りのお菓子を買ってから家に帰ると玄関に見覚えのない、いや見覚えのある靴が脱ぎ捨ててあった。
脳裏をよぎる嫌な記憶。
俺はゆっくりとリビングに近付いていった。
すると、
「よう、おかえりっ」
俺の顔を見るなり椅子に座っていた新木が手を上げた。
「うぉいっ。なんでお前がいるんだよっ」
「遊びに来たからに決まってんだろ」
新木はさも当然のごとく椅子にふんぞり返って言う。
リビングには妹もいて、
「お兄ちゃん、うるさい」
と顔をしかめていた。
「せっかくレイナさんがうちに遊びに来てくれたんだからもっと嬉しそうな顔できないわけ? わたしはすっごく嬉しいよ」
「サンキュー、ミキっ」
などと妹と新木は楽しそうに口にする。
「遊びにってなあ――」
「それよりお兄ちゃん知ってた?」
俺の言葉を遮る妹。
そのまま話し続ける。
「レイナさんって妹さんがいるんだって。しかもわたしと同学年の」
「……ああ、知ってるよ」
異世界にいた時にはシスコンの新木に嫌というほど妹の話を聞かされたからな。
「わたし会ってみたいなぁ。レイナさんの妹さんだから絶対に可愛いに決まってるし」
「リコもミキに会ってみたいって言ってたぞ」
「ほんとですかっ? わぁ、嬉しいー。でもレイナさんの実家って北海道なんですよね? 東京からだと結構遠いですよねー?」
「なあに、飛行機ならあっという間さ」
「そうなんですかっ」
妹と新木が俺の存在を無視し始めたので俺は早々に退散することにした。
きびすを返して廊下へと戻り階段を上がって自室へと向かう。
部屋に入ると念のため内側から鍵をかけた。
階下からはまだ妹たちの声が聞こえてきている。
「はぁ~、たまの休みの日くらいゆっくりさせてくれよ」
毎日新木と一緒にいるんだ。
休日くらいは一人になりたい。
別に新木のことが嫌いというわけではないが、人間一人の時間も必要なはずだ。
俺は買い物袋を机の上に置くと、ベッドに飛び乗った。
天井にある小さなシミをみつめてからゆっくり目を閉じる。
するとそこへ、
ガチャガチャ。
外側から俺の部屋のドアを開けようとする音が聞こえた。
「あれ? お兄ちゃん鍵かけてる?」
妹の声もする。
さらには、
「なんだよ。いちいち部屋に鍵なんかかけてんのかっ?」
と新木のでかい声も聞こえてきた。
「おーい結城っ。ちょっと中に入れてくれっ。話があるんだっ」
俺にはない。
頼むからほっといてくれ。
ガチャガチャガチャ!
とさっきよりも大きな音。
おそらく新木がドアノブを回している。
「おい結城、いるんだろっ。とりあえずここ開けろって」
ガチャガチャガチャガチャ!
新木のことだ。ドアを壊してでも入ってきかねない。
そう感じた俺は仕方なくベッドから起き上がるとドアを渋々開けてやった。
「……なんだよ」
「やっと出てきやがったか」
俺の顔を見てにんまりとする新木。
無性に腹立たしい。
「ミキと話してたんじゃなかったのか?」
「してたさ。んでもってついさっき二人で話し合って決めたんだ」
「……何を?」
訊きたくないが一応訊いてみる。
すると新木は清々しい顔でこう口にした。
「今から三人で北海道に行こう!」