第35話 キラーコング
新木の悲鳴が聞こえた俺はその方向へと走る。
長い通路を駆け抜けてたどり着いた先には大きな空間が広がっていた。
そしてその中央付近ではモンスターに首を絞められている新木の姿があった。
「新木っ!」
「うぐっ……」
まともに返事が出来ない様子。
それもそのはず新木の体を両手で絞めつけているのはキラーコングだったからだ。
キラーコングは体長が五メートルほどもある大型のモンスターだ。
だがその巨体もさることながら注目すべきはその腕まわりだった。
直径一メートル以上もある上腕二頭筋から繰り出すパワーは半端じゃない。
俺だってまともにくらえばそれなりのダメージは受けるだろう。
その太い両腕に胴体を掴まれて絞めつけられているのだから苦しいに違いない。
新木でも勝てる相手だとは思うがおそらく油断でもしていたか、それともワープして移動した瞬間に首を掴まれたか、とにかく助け出さないと。
俺はすぐさま地面を強く蹴って、
「新木を放せっ」
キラーコングの頭を横から蹴飛ばした。
『グオッホッ……!』
その衝撃でキラーコングが地面を派手に転がる。
だがキラーコングは新木の首を掴む手を放してはいなかった。
やはりキラーコングの腕の力だけはすさまじいものがある。
これは直接腕を叩くしかないか。
そう考え、俺はキラーコングの巨大な丸太のような腕を思いきり殴りつけた。
『グオオオォォォーーッ……!!』
その一撃でキラーコングの腕の骨が折れたらしく変な方向に曲がった。
それと同時に力が緩んだのだろう、新木がキラーコングの手から抜け出た。
「新木、大丈夫か?」
「ごほっ、こほっ……あ、ああ。大丈夫だけどよ、この筋肉ダルマは許さねぇ! あたしがぶっ倒すからもう手ぇ出すなよっ」
腕を押さえ悲鳴に似た声を上げているキラーコングをにらみつけ新木が声を飛ばす。
かなり頭に血が上っているようだ。
こういう時の新木には何を言っても聞かない。
俺は「……あいよ」とだけ返すとおとなしく一歩後ろに下がった。
「筋肉ダルマ、よくも不意打ちしてくれやがったな! 結構苦しかったじゃねぇか! ぜってぇ、殺すっ!」
『グオオオォォォーーッ!』
新木の言葉を受けたキラーコングも腕が折られたのはお前のせいだと言わんばかりに新木をにらみ返している。
一触即発。
だが勝負はこのあと一瞬でかたがついた。
素早く移動しキラーコングの背後に回った新木が、キラーコングの首を両腕で抱え込んで力いっぱい回したのだ。
それによってキラーコングの首は二百度近く回って折れ曲がり、キラーコングは何も発さないまま絶命したのだった。
「へっ、あたしをなめるとこうなるんだ。わかったか!」
キラーコングの死体に向かって吐き捨てると新木は緊張の面持ちで俺のそばまでやってくる。
そして、
「まあ、あれだ、い、一応礼は言っておく……助かった」
そっぽを向いてぼそぼそっとつぶやいてから新木は俺から離れていった。