第30話 オークキング
――地下十四階。
俺と新木はそれぞれがオークキングと対峙していた。
オークキング。
それはオークより一回りも二回りも大きく非常に気性の荒いモンスターだ。
当然オークより手ごわいので、俺は正面のオークキングに注視しながらも新木のことも気にかける。
俺と背中合わせになって立つ新木はオークキングとは戦ったことはない。
というのも異世界では新木はあくまでもポーターとして俺の旅のサポート役に過ぎなかったからだ。
モンスターが一度に大勢現れた時をのぞいては新木は基本戦闘には参加していなかった。
だが新木の性格上それではやはりストレスが溜まっていたのだろう、日本でのダンジョン探索においてはむしろ俺より新木の方が戦闘を楽しんでいる気がする。
もちろん新木の強さは世界最強クラスだろうが、それは対人間の話であって、モンスター、特に強力なモンスター相手にどこまで通用するのかは正直わからない部分もある。
新木も俺と同じくレベルは999とカンストしているが、良くも悪くも新木はポーターだ。
勇者として召喚された俺とは根本的に違うのだ。
『ブファ、ブファー』
『ブファ、ブファー』
鼻息荒く比較的浅い呼吸を繰り返しているオークキング。
手には大きな剣、ライトシャムシールを握り締めている。
「新木、気をつけろよ。オークとは強さが段違いだからな」
「へっ、あたしがこんな豚野郎なんかに負けるかよっ」
強気に返す新木だがごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
おそらくこれまで戦ってきたモンスターとはまた違う、異質な強さを肌で感じているのだろう。
『ブファァァー!』
俺と相対していたオークキングが剣を振り上げ襲い掛かってきた。
俺は新木に注意を払いつつオークキングの剣撃をこぶしで弾き返す。
『ブファァァー!』
さらになおも襲い来るオークキングの連続攻撃をかわすことなくこぶしで打ち払っていく。
下手に避けてしまうと後ろにいる新木に当たってしまう恐れがあるからだ。
『ブファァァー!』
「このっ」
次の瞬間、俺のパンチの威力に耐え切れなくなったライトシャムシールが砕け散った。
『ブファァァッ!?』
その機を逃さず俺は跳び上がりひるんでいるオークキングの顔面を右こぶしで打ち抜いた。
俺のこぶしはオークキングの顔面に深くめり込み、オークキングは声にならない声を発して後ろ向きに地面に倒れた。
着地した俺は後ろを振り向く。
すると新木がオークキング相手に苦戦しているように見えた。
大きな体に似合わず素早い剣撃を繰り出してくるオークキングに防戦一方という感じだった。
「新木、大丈夫かっ?」
たまらず俺は声を飛ばすが、
「大丈夫に決まってんだろっ。心配すんなっ」
やせ我慢なのか、それとも本当に自信があるのか、新木は語気荒く俺の言葉を打ち消す。
そう言われてしまっては俺もうかつに助太刀できない。
今後のダンジョン探索のことも考えると新木との関係性を壊すわけにはいかない。
松原首相からはダンジョン探索は必ず二人一組でと念押しされているからだ。
それにこれからもっと強力なモンスターが出てくる可能性もある。
新木がどの程度戦えるのか知っておきたい。
最悪新木が怪我を負っても俺の【ヒール】があれば問題なく治せる。
自分にそう言い聞かせるようにして自身を納得させると、俺は新木とオークキングの戦いに視線を送り続ける。
『ブファァァー!』
「ブヒブヒうるせぇぞ、豚野郎っ!」
新木はオークキングの足元にしゃがみ込むと、オークキングの足を払った。
オークキングがよろけてその拍子に剣を落とす。
地面に落ちた剣を新木が拾い上げ、それを振りかぶった。
『ブファァァー!』
「終わりだ、豚野郎っ!」
新木の振り下ろした剣がオークキングの胸を斬り裂いた。
鮮血が噴水のように噴き出る。
『ブ、ァ、ァァ……!』
がくがくと体を揺らしながら一歩二歩と後退したオークキングは、そのまま地面へと沈んだ。
「ははっ、どんなもんだっ」
新木はオークキングの返り血で染まった顔を俺に向けて自慢げに言う。
そんな新木を見て、なるほど、オークキング相手でも無傷で倒せるのか……上出来だな、と新木の強さを再確認する俺だった。