第29話 休憩
地下四階、地下五階とオークを倒しながら危なげなく下りていき、それとともにアイテムもいくつか拾うことが出来た。
地下四階ではハイポーションとシャムシールとバックラーを、地下五階ではエレメントと世界樹の葉とカエルの涙を手に入れていた。
ハイポーションはポーションの上位互換バージョンで、シャムシールとバックラーはオークが装備していたものを新木が奪い取ったものだった。
シャムシールもバックラーも俺と新木には必要ないが、換金できるかもしれないので一応新木が【マジックボックス】に収納した。
地下五階でみつけたエレメントと世界樹の葉とカエルの涙だが、エレメントは宝石に似た鉱石で異世界ではお金の代用品として用いられていた。
また、世界樹の葉は食べると一時間以内なら死んでも一度だけよみがえることが出来るという不思議なハーブだ。
そしてカエルの涙は石化状態を解くことが出来るというアイテムだった。
エレメントとカエルの涙に関しては政府は欲しがらないかもしれないが、これらも一応持ち帰ることにする。
☆ ☆ ☆
順調に階下へと歩みを進め、ダンジョンに入ってから三時間が経過した頃、俺たちは地下十三階まで到達していた。
「ちょっと休むか?」
俺が提案すると、
「そうしよう。お腹もすいてきたしな」
と新木がこれに同意する。
そこで適当な場所をみつけると俺と新木は地面に腰を下ろした。
地下二階で手に入れていたオークの肉を生でいただく。
「うんうん、最高だなこれっ」
オークの肉に舌鼓を打ちつつ新木が目を細めた。
俺もオークの肉を口に運び、
「ああ、美味しいな」
これを堪能する。
喉の渇きはハイポーションで潤した。
そのおかげで体力も回復し心身ともに疲れが吹き飛ぶ。
オークの肉を食べ終えた新木がスマホを取り出し何やら操作し出したので「何やってるんだ?」と訊くと妹からのメールを眺めていると言う。
なんとも妹大好きな新木らしい行動だ。
「そういえばリコちゃん、その後具合はどうなんだ?」
なんとなく気になっていたことを訊ねてみた。
「絶好調だぞ。癌が体にあったなんて嘘のように元気だ」
「そっか。そりゃよかった」
「あ、そうそう。リコが結城に直接会って話がしたいって言ってたぞ」
「ふーん、なんだろうな」
「さあな。あたしもそこまでは聞いてないよ」
リコちゃんの癌を治したのは俺だが、そのことを知っているのは新木だけのはず……だよな。
「なあ新木。この前俺がリコちゃんの病室に一人で入った理由を両親とかリコちゃんにはなんて説明したんだ?」
「あー、あれか。あん時はな、結城は有名な祈祷師の家系で生まれ育ったから祈祷が出来るんだって言っておいた。父さんも母さんもリコも結城の祈祷の力で癌がなくなったって思ってるはずだぞ」
自慢げに新木が言う。
「我ながら上手い説明だろ」
「どこがだ。祈祷なんて誰が信じるんだよ、怪しすぎるだろ俺」
「そうかなー。三人とも信じてたけどなー」
「嘘つけ」
立場が逆だったら俺は絶対に疑ってかかるぞ。
「まあ、んなことよりとにかく一度リコに会ってやってくれよ。頼むわ」
「面倒くせ~」と言いたいところだが妹大好きの新木にそんなことを言ったら延々とわめき散らしそうなので「ああ、機会があったらな」とだけ返しておいた。
「さてと、そろそろいくか新木」
「おうっ。そうしよう!」
こうして充分休憩をとった俺たちはダンジョン探索を再開するのだった。