第26話 【リフレッシュ】
「「リフレッシュ……?」」
新木の父親と母親がオウム返しをする。
「おい、新木……」
「頼む結城っ」
新木が俺に向かって頭を下げた。
そんなことは今までずっと一緒にいて初めてだったので俺は面食らってしまう。
だが新木の両親の手前その話を大っぴらには出来ない。
俺は周りが見えなくなっている新木の腕を掴んで病室から連れ出した。
廊下にて、
「お前な、親たちの前でそういう話はするなよな」
新木を咎めるも、
「いいからリコにリフレッシュを」
と言って聞かない。
「わかったよ。やるよ、やるけどさ、正直言って癌を治せるかなんてやってみなきゃわからないからな」
そうなのだ。
【リフレッシュ】は状態異常を治すスキル。
毒や麻痺などは治したことがあるからいいとして、癌なんて試したことがないから治るかどうか確信がない。
治すと約束して「出来ませんでした」じゃ目も当てられないからな。
ちなみに【ヒール】は体力の回復や怪我の治療にしか効果がないことは体験済みだ。
「ああ、それでいいからやってくれっ! 頼むっ!」
病院の廊下だってのに大きな声を上げる新木。
よほど妹のことが心配なのだろう。
「じゃあお前の両親を部屋の外に出してくれよ。さすがにスキルを使うところを見られるのはまずい」
俺の【リフレッシュ】は使用時、黄色い光を放つ。
そんなものを見られでもしたら説明できない。
「お、おう、わかった! ちょっと待っててくれよっ」
「さりげなくだぞ」
俺の言葉が届いたのか新木はうんうんとうなずきながら病室へ入っていった。
しばらくして内側からドアが開けられ、中から新木と新木の両親が出てくる。
どんな説明をしたのか、両親は首をかしげつつ廊下に並んで立った。
「じゃあ結城、やってくれっ」
「……あいよ」
小さく返事をして俺は一人で病室に入った。
ベッドにはすやすやと眠るリコちゃん。
眠っててくれて助かる。
俺はベッドの横に立つとリコちゃんに向け手を伸ばした。
そして、
「リフレッシュ!」
小声で唱えた。
リコちゃんの体が黄色い光によって包まれる。
廊下の方まで光が漏れそうだったので俺は即座にベッド横のカーテンを閉めた。
しばらくして光が消えていき、リコちゃんの寝息がはっきりと聞こえてくる。
さて、これで俺のやれることはやった。
あとは祈るのみだ。
病室を出て廊下にいた新木に目配せすると新木と新木の両親が再び病室に入っていく。
俺はその様子を見届けてから同じ階の休憩スペースに移動した。
☆ ☆ ☆
二時間ほど椅子に座って待っていると、新木が廊下の向こうから走ってやってきた。
その勢いのまま俺に飛びついてきたものだから危うく椅子ごと後ろに倒れそうになる。
「うおっ、なんだよっ。どうしたんだっ」
「治った! リコが治ったんだよ! あはははっ!」
「本当かっ?」
思わず声が裏返る。
「ああ、さっき検査したら癌細胞がすっかりなくなってたそうだぞっ!」
「おおっ、そりゃあよかった」
「結城のおかげだっ! ありがとう結城っ!」
「わかった。わかったからちょっと離れてくれ」
パジャマ姿のおじいさんが俺と新木が抱き合っている様を興味深げに眺めている。
かなり恥ずかしい。
半ば強引に興奮している新木を引きはがすと、
「せっかくだから今日は家族で過ごすといい。俺は先帰るから」
とその場を立ち去ろうとした。
その背中に新木の声がぶつかってくる。
「この礼はあとで必ずするからなっ」
「ああ、帰りは自分で帰って来いよ」
「わかってるって。じゃあな結城!」
俺は手を軽くひらひらさせて、新木と別れた。
後日、リコちゃんから俺宛てに手紙が届いた。
新木が両親とリコちゃんに俺のことをどう話したのかは知らないが、手紙には[結城さん、どうもありがとうございました。]とだけ書かれてあった。
第二章完です。
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