第23話 【ゲート】
「「失礼します」」
佐藤さんの案内で首相官邸のいつもの部屋に通された俺と新木は挨拶をして中に入る。
だがそこに松原首相の姿はなかった。
「あの、松原首相は?」
「申し訳ありません、現在松原首相は公務についておりましてこちらにはいらっしゃっておりません」
と佐藤さんが深々と頭を下げた。
「あ、そうなんですか」
まあ、考えてみれば一国の総理大臣だからな。
いつもいつも俺たちの相手は出来ないか。
「ですが持ち帰って頂いたアイテムの査定などは私が一任されておりますので、その点はご心配なく」
その言葉を受けて新木が、
「マジックボックス」と唱えた。
直後、巨大なクーラーボックスのようなケースが現れる。
その中から俺と新木は今回のダンジョンの戦利品を取り出していって、大理石で出来たテーブルの上にそれらを置いていく。
・薬草
・ポーション
・エリクシール
・エーテル
・ミルスの槍
・ミノケンタウロスの槍
「今回は前回と違って数が多いですね」
「ええまあ」
異世界のダンジョンではこれの倍は手に入っていたのだが……わざわざ言う必要はないか。
「こちらのハーブのようなものはなんでしょうか?」
「ああ、それは薬草です。食べると体力を回復したり怪我を治したりと……」
初めて見るアイテムを前にして佐藤さんが驚きの表情を浮かべながら一つ一つ質問してくる。
俺はそれらに丁寧に答えていった。
ちなみにその間新木はふかふかの椅子に背を預け首をコキコキ鳴らしていた。
「……それでは、最後にこちらの大きな槍はなんでしょうか?」
「それはミノケンタウロスが持っていた槍です」
「ミノケンタウロス?」
「ええ、今日潜ったダンジョンの番人のようなモンスターだったんですけど。ついでなんで持って帰ってきちゃいました」
「あーなるほど……」
言いつつ困惑したような顔になる佐藤さん。
いくらで買い取ればいいのかわからないといったところだろうか。
「えー……少々お待ちいただけますか? 一、二本電話をかけさせて頂きたいので」
「構いませんよ」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
佐藤さんは俺たちに会釈をするといそいそと部屋を出ていった。
おそらく電話で誰かと相談するのだろう。
「おい新木、起きてるか?」
「んー? 起きてるぞ」
薄目を開けて俺を見返す新木。
自分の家のごとくくつろぎやがって。
「佐藤さんがちょっと待っててくれだってさ」
「ふーん。っていうかお腹すいたなー。帰りに何か食べて帰るかっ?」
新木に言われ俺も今日は朝からろくに食べていなかったことに思い至る。
部屋の時計を確認すると時刻は午後六時四十分。
「そうだな。何か食べて帰るか」
「おう、そうしよう」
その後焼き肉にするかそれともお寿司にするか、はたまたラーメンにするかなどと話し合っていたところに佐藤さんが戻ってきた。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。それではですね、こちら六品合計で三千万円で買い取るという形でいかがでしょうか?」
「うおっ、三千万!? マジっすかっ?」
これは俺ではなく新木の声。
見るといままで椅子にもたれかかっていた新木が立ち上がっている。
現金な奴め。
「はい。よろしいでしょうか?」
「いいよなっ? 結城」
二人にみつめられ、
「ええ、もちろんです」
俺は一も二もなく返答した。
「それではお二人の口座に千五百万円ずつ振り込んでおきますので」
「はい、お願いします」
「いえーい、千五百万っ」
はしゃぐな、恥ずかしい。
「それとですね、一つこちらからお願いがあるのですが」
佐藤さんがそう前置きする。
「今後、アイテムの受け渡しはシェイリトンホテルの最上階で行うということにしていただけないでしょうか?」
訊いてきた。
「別に構いませんけど……何か問題でもあったんですか?」
「問題というほどのことではないのですが、毎回お二人が首相官邸に足を運ばれるというのはいささか人目が気になるのではないかと思いまして。記者たちの目もありますし」
「あー、そうですか」
首相官邸に政府となんら関係なさそうな若い男女が頻繁に出入りしていたらたしかにまずいか……。
「わかりました、いいですよ」
俺がそう答えると新木が割って入ってくる。
「ちょっと待った結城っ」
「なんだよ」
「あんたゲートが使えるんだから直接この部屋に移動してくればいいんじゃないの?」
「……あ、なるほど」
それは頭になかったな。
「すみません、ゲートというのはなんでしょうか?」
と申し訳なさそうに佐藤さん。
「ゲートっていうのはですね、俺のスキルで、距離を無視して瞬間移動が可能な扉を創り出せるんです」
「そ、そんなことが出来るのですか……?」
「はい。なのでもし佐藤さんが許してくれるのならばダンジョンを抜けて地上に出たら、すぐに直接ここに移動してこれますけど」
「それは……そうですか。うーん、そうですね。ではそうして頂けますか? そうすればこれまで通りこちらの部屋で会うということで」
「わかりました。じゃあダンジョンを出たら連絡してからこちらに直接移動してきます」
「はい、お願いいたします」
こうして俺と新木は今まで通り首相官邸で佐藤さんと会うということで落ち着いた。
「じゃあ記者の人たちに見られないように今日からゲートを使いますよ」
言って俺は手を何もない空間に向け【ゲート】と唱えた。
するとやや大きめの扉が現れる。
「これがゲートですか……?」
「はい。じゃあ佐藤さん、失礼します」
「佐藤さん、どうもー」
俺と新木は扉を開け通過――
――気付けば目の前には俺の家が見えていた。