第22話 ミノケンタウロス
『グオオオォォォーー!!』
体長五メートルほどのミノケンタウロスは大きな槍を高々と掲げ、振り回す。
そして馬のような下半身でもって突進してきた。
俺と新木は左右に散らばって避ける。
ミノケンタウロスは新木の方に向きを変え新木を追い立てた。
素早く槍を突き新木に猛攻を仕掛けるミノケンタウロス。
息もつかせぬ連続攻撃を新木はバックステップで見事にかわしていく。
執拗に攻撃を続けるミノケンタウロスに新木は防戦一方に見えた。
だが新木ならばミノケンタウロス程度のモンスターは問題ないはず。
俺はあえて助太刀はせず遠くから見守った。
するとミノケンタウロスが右腕を後ろに引いてためを作ったかと思うと、今まで以上のスピードで槍を突き出した。
しかし新木はこれを紙一重で避けると地面を蹴ってミノケンタウロスの顔の前に跳び上がった。
勢いそのままパンチをミノケンタウロスの顔面に繰り出そうと――したまさにその瞬間、
『ブハーーーーーッ』
ミノケンタウロスが口を大きく開けピンク色の息を吐いた。
「くっ……!」
正面にいた新木はその息をまともに浴びてしまう。
着地した新木に、
「大丈夫かっ?」
声を飛ばすと、
「ああ、ちょっとびっくりしただ――ぅぐっ……!?」
新木がよろめいて地面に膝をついてしまった。
「どうした新木っ」
「か、体が……痺れて……う、動けな……」
息も絶え絶え新木が口にする。
その隙を逃さずミノケンタウロスが新木に追撃を仕掛け出た。
ミノケンタウロスの槍が新木の顔めがけて迫り、新木は思わず目をつぶった。
ブシュゥッ!!
『グオオオォォォーー……ッ!!』
ミノケンタウロスが再度雄たけびを上げた。
だがこれは勝利の雄たけびではなく、断末魔の叫び声だった。
ミノケンタウロスの槍が新木の顔に突き刺さる前に、俺が投げたミルスの槍がミノケンタウロスの心臓を貫いていたのだった。
大きな巨体を揺らしながら地面に倒れ込むミノケンタウロス。
その衝撃で地面が大きく揺れる。
「新木っ」
俺は駆け寄ると地面にうなだれている新木に向かって声を降らした。
「……は、早く、リ、リフレッシュを……」
「ああ、待ってろ。リフレッシュ!」
俺が唱えると黄色い光が新木を包む。
徐々に新木の呼吸が正常に戻り、
「うっく……も、もう大丈夫だ」
新木はすくっと立ち上がった。
「ミノケンタウロスの奴、麻痺効果のあるブレス攻撃が使えたなんて知らなかったぞ」
「ああ、俺も初耳だ」
これまではミノケンタウロスに反撃のチャンスなど与えずにさっさと倒してしまっていたからミノケンタウロスにそのような特技があることを知らなかっただけなのか、それとも地球に現れたダンジョンのモンスターは異世界にいたモンスターとはどこか異なっているのか。
俺たちはミノケンタウロスの死体を見下ろしながらそんなことを考えていた。
☆ ☆ ☆
結局地下十二階が最深階だとわかり、俺と新木はもと来た道を戻ることに。
地下十二階にはめぼしいアイテムが落ちていなかったので、代わりと言ってはなんだがミノケンタウロスが持っていた槍を持ち帰ることにした。
高く買い取ってもらえれば儲けものだと思ってのことだ。
ちなみに帰りの道中もゾンビの群れ相手に新木が逃げ回っていたことは……今さら言うまでもないか。