第20話 ミルスの槍
地下五階。
ここに来るまでに俺はスキルを消耗し【デスフレイム】二回と【ファイナルソード】一回を残すのみとなっていた。
だがそんな俺たちにもいいことはあった。
というのはつい先ほどミルスの槍という武器を手に入れたからだ。
異世界では割とポピュラーな武器の一つであるミルスの槍は、軽くて小ぶりで扱いやすいとされていた。
それを手にした俺はゾンビを警戒しながら新木より前を歩く。
普段なら俺の先を行きたがる新木もゾンビが出るダンジョンではおとなしめだ。
俺の後ろをおっかなびっくりついてきている。
いつもこうなら多少は可愛げがあるのだがな。
『ガァァァ……!』
すると前方の地面から下級ゾンビが這い出てきた。
ゆっくりとした動きでこちらに近付いてくる。
俺は槍を構えると下級ゾンビが間合いに入るまで待つ。
正直言って槍など剣以上に使い慣れてはいないのだが、背に腹は代えられない。
体表面の肉がぐちゃぐちゃのゾンビを素手で殴るよりはよっぽどマシだ。
『ガァァァ……!』
「おりゃっ」
俺は槍を横になぎ払い下級ゾンビの首元を斬りつけた。
だが槍の穂先が短いため首を完全に斬り飛ばすことが出来ず下級ゾンビはなおも向かってくる。
「うえっ、きもちわるっ……」
首がだらんと垂れた下級ゾンビを見て俺の後ろで新木がえずいているが知ったことか、俺はもう一度槍を横に振って今度こそ下級ゾンビの首をはね飛ばしてやった。
その一撃で下級ゾンビの動きが止まり地面に倒れてゆく。
「おい新木、見てみろよ。このゾンビ何か手に持ってるぞ」
俺は地面に横たわる下級ゾンビの手元に何かがあることに気付いた。
それを新木に教えてやる。
だが新木は、
「どうでもいいってそんなの。それより早いとここんなダンジョン出ようってば」
鼻と口元を手で覆いそれどころではない様子。
「まあ待てって」
言うと俺はその場にしゃがみ込み、下級ゾンビの手の中からそれを取り出した。
「ほら、こいつエーテルなんて持ってたぞ」
「うえっ……結城、あんたよくそんなもの持てるな。信じらんねぇ……」
「いや、俺だって好きでやってるわけじゃないけどさ。これも高く買い取ってもらえるかもしれないだろ」
エーテルとはボトルに入った液体で、これを飲むと十時間分の睡眠とほぼ同じ効果が得られる。
休みなしでダンジョン探索するにはもってこいのアイテムだ。
エリクサーが五百万円だったのだからこれもそれなりの金額をもらえるはず。
俺はうきうきしつつそれを新木に手渡そうとする。
「やめろよっ。それ、あたしに近付けんなっ」
「わかったから、じゃあマジックボックス出してくれよ」
「まったく、金の亡者かよ……」
つぶやきながら新木は【マジックボックス】を具現化した。
俺はその中にエーテルをそっと入れる。
「そんなこと言うならこれを売ったお金は俺が独り占めしてもいいんだな?」
「そんなわけないだろ。あたしだって半分もらう権利はあるんだからな。絶対に半分こだからなっ」
新木にぎろりとにらまれてしまった。
まったく、どっちが金の亡者だ。