第13話 ホブゴブリン
『グギギッ』
『グギギギッ』
ホブゴブリンに前後を挟まれるも俺と新木は動じない。
剣を手にじりじりと近寄ってくるホブゴブリンを見据えて、
「新木、俺は前の奴をやるから後ろの奴頼む」
「ああ、任せときなっ」
俺たちはゆっくり構えを取る。
『グギギギッ!』
『グギギッ!』
俺は剣を振り上げ襲い来るホブゴブリンに対して身じろぎせず動きをよく見る。
その上で剣撃を紙一重で避けるとホブゴブリンのお腹にパンチをお見舞いした。
『グギャァッ……!』
ホブゴブリンは体がくの字に折れ曲がり地面に沈む。
もう一体の方はと振り返ると、新木がホブゴブリンの頭部をホブゴブリンが持っていた剣ではね飛ばしていた。
「怪我してないか? ヒールで回復してやるぞ」
「あたしを舐めるなよなっ。ホブゴブリン程度に怪我させられるわけないだろっ」
「それもそうだな」
顔を見合わせお互いの無事を確認する。
まあ、新木じゃないがホブゴブリン程度の攻撃では俺も新木も傷一つつかないだろう。
「この剣はどうする? 一応持って帰るか?」
新木が言うので、
「いいよ。ホブゴブリンクラスが持っている剣じゃ大した切れ味じゃないだろうし。お前のはホブゴブリンの血がべっとりついてるだろ」
俺が返すと、
「そっか。それもそうだな」
と新木はおもちゃに興味をなくした子どものように持っていた剣をひょいと投げ捨てた。
☆ ☆ ☆
その後も俺たちはダンジョン探索を続け、ゴブリンやホブゴブリンを返り討ちにしていった。
しかしながらみつけたアイテムはいまだ帰還石一つだけ。
やはり俺はついていないのだろうか。
そして気付けば俺たちは地下十階にたどり着いていた。
「薬草でもなんでもいいから落ちてないかなー」
俺の先をずんずんと歩きながら言うのは新木だ。
薬草なんかじゃ政府に買い取ってもらえたとしてもたかが知れているだろうが、ないよりはマシ。
新木はきょろきょろと首を動かしつつめぼしいものを探して歩く。
そんな新木の後ろを五歩ほど離れて俺はついていく。
異世界においては勇者の俺とポーターの新木とでは世間的に俺の方が立場が上だったが、途中から仕切っていたのは実質新木の方だった。
宿屋が一部屋しか取れなかった時などは新木がその部屋を使い、俺は廊下で寝たこともあるくらいだ。
さすがにその時は宿屋の主人に「なぜ勇者様が廊下で寝ておられるのですかっ?」と驚かれたが。
「なぁ結城っ」
「ん、なんだ?」
新木が振り返り後ろ歩きを始めた。
緊張感のない顔を俺に向けている。
「また異世界に戻りたいって思ったことないか?」
「うーん……まあ、なくはないな」
本当は異世界に未練たらたらだったが、そう言ってしまうと女々しい奴だと思われそうなのでやめておいた。
「結城も思ったことあるんだな。実はあたしもなんだ」
「へーそうなのか、意外だな。お前いつも妹の話ばかりしてただろ。今は妹と一緒に暮らしてるってわけじゃないけど会おうと思えば会えるんだから、こっちの生活が気に入っているのかと思ってたよ」
「別にこっちの生活が気に入ってないわけじゃないぞ。誤解するなよっ。ただ……なんていうかあたしの青春は向こうにあったんだよなぁって思ってさ」
そう言うといつになく新木がしおらしい表情を作ってみせた。
俺はなんとなくそれを見てはいけない気がしてつい目をそらした。
とその時だった。
『グガアッ!』
「きゃあっ……!」
モンスターの叫ぶ声と新木の悲鳴がして、前に向き直るとそこには新木の頭を鷲掴みにして軽々と持ち上げているキングゴブリンの姿があった。