ボッチな私が陽キャな彼女に話しかけられたけど相手も陰キャだった話
小学生のとき、祖母が死んで最初に思ったのは泣かないといけないという焦りだった。
良くしてもらったし、私自身も慕っていた自覚があった。悲しくてたまらなくなるはずだった。実際話を聞いたときは、頭が白くなった。もう会えないのかと悲しい思いもした。
だけれども、実際に再開しても私は泣けなかった。
何も思っていないわけではなかったけど、さめざめとなく母や親類のように感情を表に出せなかった。
ただ幼さゆえに、そういう出来事を理解できなかっただけかもしれない。よく言えば切り替えが早かったのかもしれない。
けれどもその時から、私は他の人間と同じものを見ているかが不安になって、誰かと一緒にいるのが嫌になった。
■
高校二年生の春。進級してクラスが変わったからとはいえ私自身何か変わったことはない。
ただ年を重ねただけ、関わる人間が少し変わっただけ、何も変わらない。
クラスで楽しそうに話している人たちを尻目に私はいつものように図書室へ行く。高校に入った時から変わらない行動だ。
自習したり本を読んだりこっそり見つからないように携帯いじったり。時には何もせずに窓から空を眺めたりするのも楽しいものだ。
人と関わらないでただただ無為に過ごすことにも慣れてしまった私には、今更誰かと楽しく過ごすなんてやり方も忘れてしまったのだと思う。
だけどそれでいい。
きっと誰とどう過ごしたって真に楽しさを分かち合える日はこないだろうから。
だから今日も私は一人で図書室の一角に、人目に付きづらい場所に籠っていた。
今日は放課後に自習勉強をしていた。といっても1時間程度したら家に帰る、冬場で日が落ちるのが早ければそもそも図書室にはいかないが。
ほとんど私専用と化した机で教科書を広げていると、ノートをめくった拍子に消しゴムが床に落ちた。
私は消しゴムが机から落ちるのが嫌いだ。
拾いに行くのが面倒だし、場合によっては弾んで遠くまで転がっていく。何より静かな図書室に椅子を動かす音が発生するのが気分的に大変よろしくない。
ため息をついて、今日はもう消しゴムを拾って帰ろうかと考えていたとき、視界の外から消しゴムを差し出された。
「はい、落ちたやつ」
「あ、ありがとう……」
消しゴムを受け取り、お礼を言い、失礼とわかっていながら相手をジロジロと観察する。
同じクラスの秋谷空という女。髪を染めて明るく常に誰かと楽しそうにしてる、とても図書室になんかいそうにない人物だ。
「……えっと白星さん、だっけ? 私がここにいるのを不思議に思ってる?」
「正直に言うとここに来るような人に思えない」
「あーははは、そっかー。まあそう思われても仕方ないかもね」
ヘラヘラしながら自然な動きで秋谷は私の目の前に座った。名前がうろ覚えの人間相手に用事でもあるのだろうか。
「何か用でも?」
「別にないけど、白星さんと話したことないなって。せっかくだからちょっと駄弁ろうかなぁとか思ってたんだけど」
「……図書室よ?」
「今日は今のところ人いないし平気だと思うけど」
私の勝手な決めつけだけど秋谷は車も人もいなかったら赤信号を赤で渡るタイプに間違いない。
念のため私たち以外に真面目に図書室利用している人がいないか確認して私から話を再開する。
「それで、何か話すネタでもあるの?」
「うん、ないよ。だから自己紹介でもしない?」
「互いの名前を知っているなら十分じゃない、お見合いじゃあるまいし」
「正直に言うとアタシ白星さんの下の名前知らないから知りたくて……」
クラスが同じでも話したことない相手の名前何てわからなくてもおかしくないのだ。私も苗字くらいしか知らない相手が割といる。
「別に苗字でも私だってわかるからそれでいいけど。そうね、秋谷さんは何で図書室に?」
「アタシみたいなのは勉強もせず、遊んでばっかりで活字も読まないという偏見でもあるの?」
「正直に言うとそうね、追加すると私のことなんて記憶にないと思ってたわ」
「そうだねぇ、実際本読まないし今日来たのは気まぐれだけど。でも白星さんはいつも一人で何かしてるから君が思ってる以上に人目についてるよ」
「……そうでしょうね」
変なのは騒がずとも目に留まるものだ。それで私が損をしているわけでもない、秋谷が名前を知らない程度の知名度なら気にすることもない。
「どこか目指してる大学でもあるの?」
「別にないけど」
「ええー! 目標もないのに誰とも仲良くせずずっと図書館に籠ってるの?」
「別にいいでしょう、そんなの」
大学だって本音を言うと行くのかわからない。曲がりなりにも進学校だからそういう進路を想定してるだけ。目標もないからとりあえずで勉強はする。それだけ。
「別に、学生なんだから勉強できないよりできたほうがいいでしょ」
「それはそうだけど、青春の無駄遣い感あるなって思ったの。楽しいそれ?」
秋谷は初めて話す相手に対して遠慮というものを知らないで踏み込んだ言葉を差してきた。楽しいかどうかだって、そんなの。
頭の中で答えが思いつかないうちに口から出まかせを吐く。
「好きでしてるのよ」
「そっか、邪魔して悪かったね。またね、白星さん」
秋谷は遠慮がちに笑うとそのまま去っていった。
本を借りに来たわけでもないのに何しに来たのか。
よもや私に言いたいこと言いに来ただけなのか。いや考えすぎか。
とはいえ二度と話すようなこともないだろう。
■
「やっほー元気?」
「また来たの……」
秋谷は翌日の放課後もまた私の前に現れた。
「あなた暇なの?」
「お互い様でしょ。今日は何、数学? よくやる気出るよね。アタシこういうの苦手なんだよね、やる気が持たないっていうか」
彼女は自然な動作で私の体面に座ると勝手にノートをのぞき込んでわざとらしく苦い顔をする。
「白星さんは会いたくなかった?」
「別にどっちでも。ただ来るとは思ってなかっただけ」
昨日の邂逅は偶然のもの。何か私に面白いところでも見出したのか、あるいは隅にいる人間をからかいに来たのか。どちらも同じか。
「実はね、白星さんのことを知っているの」
「同じクラスだからね」
「それはイエスだけどノー! アタシはあなたのこと一年の春からずっと知ってのさ」
「はぁ、そうなの。同じ学校だもの、顔くらい見たことあるでしょう」
「ええー、なんかノリが悪いなぁ。ここは運命! みたいなロマンティックを感じてくれればいいのに」
「私が感じる要素ないのに無茶言わないで」
思わず数学の問題集を閉じて秋谷に苦言を呈する。
ひょっとして距離感おかしいのかこの女。それとも世にいう陽キャというのはこういうもなのか。さすがに前者であろうな。
「去年の春、白星さんを図書室で見たの。今と同じでつまないでーすって顔で一人過ごしてたのが印象に残ってる」
遠い昔の思い出を語るように秋谷はゆっくりと話を進めていく。急に浸って声を作るものだから鬱陶しさがすごい。
「びっくりした、だって春よ? 出会いの季節で友達作ったり作らなかったり、何かと希望に満ちた人が多い中でこんな人いるんだって二度見した」
「それで、一年ぶりにそのことを思い出して声をかけたと?」
やっぱりからかいに来たんじゃないの。別にいいじゃない、一人が好きな人間なんていくらでもいるでしょ。
「だって、白星さんみんなのこと羨ましそうに見てるから」
「は?」
私が、周囲の人間を羨ましそうに眺めているだと。どうみたらそう見えるんだ。
「ふふ、まあ別にどうでもいいことだね。ただアタシはあなたに興味があったの。昨日はたまたまきっかけがあったから声をかけただけ」
「何、ニヤニヤして気味が悪い」
「……本当に嫌ならもう来ないけど、どう?」
「私に選ばせるないでほしいわ、そういうの」
答えはノーに決まってた。考えるまでもない。
だけど目の前で期待に目を輝かせる秋谷を見るとそう口にするのが憚れるような気がした。
そもそも常に側にいられるわけでもないし、嫌ならはっきり言うか私がどこか行けばいいだろう。
ダメだ、断らない理由を探した時点で私の負けだ。
「まあ、別にいてもいいけど、その、何もないわよ」
秋谷にとって私は楽しいやつではないだろうから、すぐに飽きるだろうという思いも確かにあった。
「話題作りなんて無理にしなくても流れでできるから平気だよ」
「へー例えば?」
「その問い自体が話題じゃない? え、違う?」
「確かに、ちょっと難しく考えすぎてたかもしれないわ」
と、まあ。私はつい秋谷と話をしっかりとしてしまった。
昨日は人がいなかったし短時間なのもあったけど、今はつい内緒話の大きさを超えてしまっていたらしい。
「ちょっと、さっきからどこだと思ってるんですか! 図書室では静かにしてください!」
図書委員か一般の利用生徒かわからないが、横から知らない人に怒られた。
「あ……すみません。気を付けます」
やっぱり来てもいいと言ったのは取り消そうかな。
■
世の中で大事件が起きたとしても、自分に影響がなければ結局大したことではないと話は終わってしまう。身近な小さな出来事のほうがよほど影響がある。
昼休みも放課後も適当に本でも読んで時間をつぶして、家に帰れば家族と他愛ない話をしてテレビを流し見して、部屋では飾った多肉植物の手入れをする。植物はいい、喋らないし私に共感を寄せることもない。
変わらない日常の中で不安定な他人で自分が傷つくことはない。疎外感を感じて一人に戻るなら、最初から一人のほうが楽でいい。
この閉じた世界が、私に一番あっているのだから。
秋谷は放課後以外に私に声をかけることはなかった。視線をもらうことはあるが、会話らしい会話をするのは放課後だけ。
まったく秘密の関係じゃないんだから。
私が図書室で時間をつぶしているとあの女はいつの間にかやってきてペラペラと話すこともあれば、ただ近くで本を読んでいるだけのときもある。
こんなことに貴重な青春を使って空しくないのだろうか。
来ない日もある。そのときはもっと時間を有効利用しているのだろう。
いつしか私は、いつ来るかわからない彼女を気にかけ始めていた。
■
あれ、今日は来ないんだ。
そう心の中で呟いたころには本一冊ちょうど読み終わっていた。下手したら部活やってるやつらもそろそろ帰るのがいるだろう。
私もさすがに帰らなければ。最近、秋谷が時間の基準になってたせいでつい没頭してしまった。
こういう日はさっさと帰宅するに限る。そう学校を出るまでは思っていたが、追っている漫画の最新刊が発売だったことを思い出して書店へと足向きを帰ることとなった。
漫画を買いに町の中心部に寄った帰り道、まっすぐ家に帰ろうかと思ったところで反対側の歩道にに秋谷を見つける。
「私のところに来ないで何してるのかしらね」
興味本位であいつが何をしているかとジッと目を向ければと隣を歩いているのは同い年くらいの男だ。仲良く話してる。
え、彼氏かな。いや普通いるか彼氏くらい。私がそういうのと縁がないだけだ。
つい足を止め二人の姿を追いかけたがやがて見えなくなったので家に帰ることにした。
気が付いたら家に帰っていた。母から普段と比べてずいぶん遅い帰宅だと心配されたが、書店に長居してしまったと言い訳をする。
その後、偶然にも好物が食卓に並んだ。しかし理由はわからないが、胃がむかむかして食事がのどに通らず母に心配された。
夏バテかもしれないと何も考えず結論付け、夜にベッドに入るころに帰りに見た秋谷がふと頭に浮かんだ。
あの後どこまでしたのだろうか。何もしなかったのかもしれないが。
私は次あいつと会うとき普通に顔をしてあっていいのだろうか。わからない知らない。答えをくれるやつは一人もいない。
私の知らないあいつがいるのは当然の話だ。
いいや、さっさと寝よう。何で私があいつのことで名不足にならないといけないのか。やがて腹が立って来たので無理矢理体を布団に押し込んで目を閉じた。
「やっほー白星さん。今日は、ってあれ? 何かあったの?」
「寝不足……」
「ちゃんと寝ないと体に悪いよ? 徹夜すると体に悪いことが置きまくるってきいたし、まあ聞いただけだけど」
誰のせいだと思っているんだ。私のせいだけど。
結局、秋谷はすんなり私のもとへとやってきた。私が一人で悶々としていただけだからすんなりもひっそりもないわけであるが。
「秋谷さん、昨日あなたを見たけど、彼氏いたのね」
「え、うん。というか見てたなら声かけてくれてもよかったのに」
「推定デート中の知り合いに声をかける勇気はないわよ」
そんな風に動けるなら私はここで一人で腐ってなんていやしない。
「ま、いいわ。別に。秋谷さんが何しようと関係ないもの。私を放ってどこまで楽しんだのかしらね」
「え、拗ねてるの?」
「拗ねてませんが」
秋谷が誰と会っていても今まで関係なかったのだ。これからも別にその程度のことで拗ねたりするわけがない。
そんなことも知らないでいつものようにニヤニヤ笑う。その口からは私をからかう言葉が続くのだ。
「んふふ、そっかーアタシがいなくて寂しかったかぁ」
「別に、いい読書日和だっただけよ」
「ふーん、まあそういうことにしておいてあげようか」
「うざ」
今日は無視してやろう、私はそう思った。
本に目を移して読書を始めると秋谷も口を閉じた。少しだけ気になって横目でちらりと覗けば子どもでも見守るかのような微笑みで変わらずこっちを見ていた。
「……ねえ、どうしたの。怖いんだけど」
「え! なんか変なことしてた?」
「孫にあったおばあちゃんみたいだった」
「老けて見えるって、こと……?」
「ふっ。気持ち一回りそうかもしれないわ」
実際そんなことはないけど、たまにはからかわれる側に回るといい。まあ効果も知れてるしだからなんだという話だ。
「まーそれくらいならアタシの魅力が溢れてしまっただけだしいいけど」
「一理あるかもしれないわね」
「でしょー? というか君もこういう会話できるようになってちょっと感動」
「馬鹿にしてる?」
強くにらんでやろうかと思ったが、事実と相違ない部分もあるのでため息をついてごまかす。
「元々かもだけどさ、白星さんと適当な会話できるって何か月か前だったらできなかったもん。絶対途中から無視するじゃん」
「否定はしないけど」
「いやぁついに心を開いてくれかなあって。二人の距離が密接だよ完璧に。親友といっても過言じゃないんじゃないのでは?」
「過言よ。数か月で親友になれるわけないじゃない」
私は少し忘れていたことがある。
元より他人が何を考えて感じているかなんてわからない。意識せず口にしたことが思わぬことになることがある。
秋谷のことをどれだけ知っていたか。知ってたとして何が変わったか。
私の考えだったらこんな発言に対して軽口で帰ってくるはずだった。
「そうだよね」
秋谷は私に知っていたとばかりに、悲しさと納得が同居した顔をしていた。たぶんそれ以外にもあるのだろうが、私にはわからなかった。
私は間違ったこと言ってないはずだ。
あってすぐでそんな簡単に深い友情に至るわけないと思っただけだ。少なくともそれが私の常識だっただけだ。
「……あき」
「あ、ごめん。アタシちょっと用があったの忘れてたから。ごめん今日は帰るね」
慌てて。見せたくないものを隠すために秋谷はそそくさと私の前からさっていった。
私はなんて言えばよかったのか。
そうだね、と一言いえばよかったのか。
それとも否定しなければなんでもよかったのか。
私がお前と仲が良かったとしてもそんな風に言えるような関係じゃないのは明らかだろう。
勝手に近づいて勝手に私のことわかった気になってたのかよ。
「そんなのわかるわけないだろ、バカ……」
本の続きを読み始めたが集中できなかった。
■
翌日、私は何となく私に会ってないときの秋谷を観察してみた。
彼女はいつも誰かと一緒にいたがあまりうまくいってないようだった。
基本的に会話に混ざるのが苦手なようで一言二言話すとすぐに黙ってニコニコしてる置物になる。
私よりもましだけど。
同じ空間で何か月か過ごしたくらいだけど興味がなければそういうものにも気づかないものなのか。
いや、そもそもそういうものも知りたくないと過ごしたのが私だ。知っているほうがおかしかったのだ。
誰かと関わりたくなくて、どうにか一人でいることに必死になっただけだ。
一度真面目にあれと話をしてみるべきなのかもしれない。
連絡先も知らないけど今日の放課後、会えるだろうか。
少しの間だけ嫌な思いをしなければならない。
■
正直に言うと、ただ待っていただけなのに秋谷が私のもとを訪れたのは予想外だった。
誘わないと、いや誘ってもこないと思っていた。
しかしながら、いつも通りというわけではないようで余裕なく視線も泳いでいた。
「正直来ないと思ってた」
「……うん、アタシも来る気なかった」
「じゃあなんで来たの?」
「何となく、来なきゃいけない気がして」
いつもみたい素直に答えたことに安心する反面、馬鹿正直であきれてしまう。
これならいけるかもしれない。今まで勇気がなくて言えなかった言葉も。
「ま、でもよかった。ここじゃうるさくなるだろうし。その、一緒に帰らない?」
「え、うん。いいけど」
よかった。断れたら傷がついただろうから。
閉じ込めていた誘いはあっけないほどに快諾された。
「じゃあ帰ろうか家どっち?」
「途中までは同じだよ」
誰かと一緒に下校するなんて中学生以来だ。
学校を出ても、しばらく一緒に歩いてみても私たちは言葉を交わさなかった。
たまたま通りかかった公園のベンチに座って、近くの自動販売機で買った紅茶を飲む。
初夏の時期だからまだ空は明るく、しばらくは心配はいらなそうだ。
「……昔、おばあちゃんが死んだときと周りの人が泣いたり悲しんだりしてたの」
「え? うん、それは、そういうものなんじゃないの?」
突拍子もなく始めた昔話に秋谷は言葉を返してくれた。
「最初は私が薄情なだけで涙が出ないんだって思った。でも当時の友達は似たようなとき泣いたって言ってた」
「そんなの個人差だよ」
「そのとおりだと思う。でもそこから気になるのよ、テレビの話だとか何が好きとか嫌いとか、どんどん嚙み合わなくて気持ち悪くて。最終的に共感できないことが怖くて一人でいた」
結局一人でいるのが寂しくて、秋谷みたいに誰かが来るのを期待してたのかもしれないけど。
「だから私に教えてほしい。昨日なんて言ってほしかったのか」
私にはいい考えが浮かばなかった。意を決して本人に直接聞いてしまえば解決すると。楽をしたかった。
「ハハッ、直接聞かれるのは思ってなかった。乙女心がわからないんだね」
「一応乙女のはずだけど私も」
「確かに、当然そうだよね。うーん、まあ、こっちも少しだけ話していい?」
「いいよ」
私だけ喋るのはフェアじゃないものね。何より突発的昔語りしたのだから私はあまり何か言えるわけじゃない。
「ありがとう。えっとさ、アタシが髪染めたのって最近なんだ、君を初めて見たときは教室の隅にいるような子でさ、友達欲しいし陽キャグループに入りたかったの」
「道理で見覚えないわけね」
「まあね。それで実際頑張って仲間入りしてみたけど全然向いてかなった。距離感もわからないし、頑張って男と仲良くなろうとしたけど友達になるのすら難しかったし!」
大きく声を上げた後、秋谷は魂が抜けたように息をこぼして落ち込んだ。
「向いてなかった……結局、君といるのが楽しかった。楽だった。だから、君もそうだろうって思ったの。アタシがそうであるように白星さんも友情とかあるんじゃないかって。まあ親友は大きく出過ぎたけど友情は示してほしかったかなぁ昨日」
「無理よ、連絡先知らないくらいの中で親友どころか友達も名乗れないわ」
「じゃあ連絡先交換したら名乗れるの?」
「……いや。違う気がするわね。しっくりこないもの」
手元の紅茶を飲んでふと横に座った秋谷を見れば、うるうると目に涙をためて今にも崩れそうだった。
繊細がすぎる、ひびでも入ったのか。
「泣かないでよ、私が泣かせたみたいじゃん」
「六割くらいはそうだと思う」
涙声で鼻をすする声が聞こえるとやっぱりきついものがある。
気持ちを落ち着けるために紅茶を無理矢理喉に流し込んでペットボトルをからにする。
「……あのさ、今から友達始めるってのは間に合う?」
気恥ずかしいけど言葉にすることができた。
「うん、周回遅れだったけどね」
彼女が何を思っているのか私には確信が持てなかったけど少しばかり口角を上げていたのだから、そういうことだといいな。
でも友達って何をするのか私にはよくわからない。
それは秋谷のほうが知っているだろうか。
でもまあ、最初の提案はこれを言おうと思っていた。
「ねぇ秋谷さん」
「なにかな?」
「連絡先を、教えてくれないかしら?」
まずは自己紹介の続きからだ。
最後までお読みくださりありがとうございます!




