第51話 クッキーと魔石(2)
紅茶を入れ、買ってきたクッキーを皿に移す。三人はリリアの作業を眺めながらお菓子タイムをとっている。
「先に食べてていいわよ。しばらく時間がかかると思うし。それにしても硬いわねこの魔石…」
魔石のカット作業を進めるリリア。着実に魔石は切れていき、一個目の上部と下部の切り分けに成功する。その後も慎重かつ迅速に作業を進め全ての魔石が切り分けられた。
「上部はこれで終わり。あとは下部の形を整えたら完成よ」
クッキーを食べ終え、寛いでいるところでリリアの作業も完了した。
「ふぅ、お待たせ。この魔石に水魔法を放ってみて」
渡された五つの魔石に手分けして水魔法を込めてみる。するとリリアの思惑どおり、全ての魔石で水魔法の封入が成功した。
「お~、ちゃんとできたね~。あとは最初に水魔法を込めた、上部の方の水魔法を失くせばいいってことだよね~?」
「ええ、そういうことよ。できる?」
「魔法の効果を打ち消す魔法を使えば可能ですね。…、…これで大丈夫なはずです」
ミカエルは無垢になった三つの魔石をリリアに渡す。
「こうして見ると本当に綺麗ね。これだけで一つ一金貨はするでしょうね」
「リリアお姉ちゃんはこれをどうするの?」
「さっき商談に来てた冒険者居たでしょ?あの人達、一つの魔具で複数の効果を持たせるものをオーダーしてきたのよ。それのためね」
「複数の魔法を入れることもできるんですか?」
「できるわよ。ただ弱い魔法であっても複数入れるとなると、かなり良い魔石じゃないと無理ね。それこそ、この魔石達のようなものが必要になるわけ」
「それじゃあこれから魔法を入れてみるの?」
「いや、私は魔石の調達のみ引き受けたのよ。あとはこれをどうするかは買い手次第ね。失敗して割れてしまったとしても保証しないという条件で交渉成立してるの」
「ふ~ん。ん~?でも私達来てなかったらリリアは魔石採りに行ってたってこと~?」
「さすがにゼストゥス鉱山には入らないわよ。ゼストゥスで売りに出されてる魔石を買いに行ってたでしょうね」
「そういえば売ってるお店あったっけー」
「それで利益になるの~?」
「ならなきゃ魔具屋はやってられないわよ。これでもゼストゥスでは顔が利くから、店頭に並んでない商品を出してもらうこともできるし」
「おー!それじゃ今回はラッキーだね!」
「おかげさまで最上級の魔石が手に入ったからね。本当に三つも貰っていいの?」
「構いませんよ。一つは予備として持ちますし」
「それじゃいつものことだけど、せめてのものお礼させてね」
そう言うと三人の頭を優しくなでる。
「えへへ、ありがとー♪」
「ところでもう一個の魔石には何に使うの?」
「もう一個はワープポータル入れてみたいんだ!」
「ワープポータルも高度な魔法だから、魔石が割れる可能性があるわね。ここでやってみて成功するか試してみた方がいいわ」
促されてアマテラスは魔石に魔法を放す。しん、と静まり返る店内で魔石が無事であることを知る。
「大丈夫みたいね。というか一体どこへ行くためのワープポータルなのよ?」
「街から西に7キロ行ったところの高原だよー」
「なんでまたそんなところに?」
「知り合いのお花屋さんのお姉ちゃんにプレゼントしたいんだー」