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9_思惑

「山羊。無事なの?」


翼を生やした女が現れ、山羊と呼ばれた男にそう尋ねた。


「セイレーンか。ゲゲゲ、無事ではないなぁ。もうすぐ元に戻るけど」


山羊はそう答えた。


「何があったの?」


「いやね。面白いヤツが現れたんだって!で、ソイツが俺をこんなにしたんだよ!」


「ああ、彼。ここに来るときにちょっと見かけたわ。そう言えば彼って確か『白狐(びゃっこ)』のお気にいりじゃなかったかしら?なんでか忘れたけど」


「そうなのか?白狐も手が早いなぁ。ゲギャギャ!!しかもアイツの得物……たぶん第一次人魔大戦の最終魔導兵装シリーズのうちの一つだった」


「イヤ、それは嘘でしょ?アレを使える者が、万が一存在したとして、我らに敵対する筈がないわ」


「それが起こったから面白いんだって」


セイレーンと呼ばれた女は、ふぅ、とため息をついた。

そしてあたりの状況を見渡す。


「この様子だと『屍肉』を使うところまではしたのね?」


「ああ、使ったよ。まぁそんな訳で今回の降魔の儀は、正しいプロセスでは出来なかったよ。この迷宮の魔獣を増やしただけになった」


「まぁそもそもが、失敗の可能性の方が高いからね」


「と、いう訳でまた『屍肉』を見繕ってよ」


「簡単に言ってくれるわね。アレはSSRクラスの呪物よ、一応」


「ま、オレ達なら余裕でいけるだろ?」


「まぁ、ね。では行くわよ。元気そうで良かったわ」


セイレーンはそう言うと飛び立った。

それから暫く、その階層に山羊の笑い声が響き渡るのであった。



【エイス視点】


あれ?ここはどこだ?

見覚えがあるぞ。


「エイス先輩!!目が開いた!やった!起きましたよ!せんぱーい!」


誰かが泣きながら、抱きついてきた。うぷ。

あれ?リタじゃん。


「あれ?リタがいる?ということは、ここは」


「ここは、騎士団の来客用宿舎です。エイスさんは本来いるとマズイですけど、まぁそこはボクが揉み消すんで」


コイツ、サラッと悪いことを言うようになったな。こんな娘だったか?まぁ助けてもらったからしゃあないが。


「俺はどうなってたんだ?」


「道端で倒れているのを見つけたんですよ。良かったですね。魔獣に見つかる可能性もあったし、もし見つけたのが三番隊の隊員とかだったら、逆に危なかったですよ」


まぁ……そうだろうな。正直運が良かった。


色々と疑問が残っている。

まず、あの山羊とフードの連中は何なのか?そして、何を行っていたのか?なんであのダンジョンなのか?何故フードの連中は魔獣になったのか?


そして俺が疑問を抱いたのは、あの連中に対してだけではない。

急に、ディアがまた喋りだしたのは、まあいいとして。

問題は、あのとき発動したふざけた力だ。


極光銃とか言ってたか?山羊が放った最上位クラスの、高密度の火炎魔法を飲み込んだ、異形の光。最高位の火炎魔法を燃やす火。


おそらく俺はアレの発動の際の魔力的な負担で倒れてしまったのだ。ダンジョンの外までは根性で逃げたが。


てか大半がミスリルで出来ているといわれるダンジョンの壁に大穴を空けるだと?常識外としか言いようがない。


俺は思う。

何となく宝箱に入っていた武器を拾って、ああ強いなー、凄いなー、使えるなーとか思って使っていたが、もしかしたら世界レベルのとんでもない、何かを俺は手にしてしまったのではないか、とアレを見て思ったのだ。


と、このとき俺は大事なことを思い出した。


「ってあれ?もう一人女の子がいただろ?その娘はどうなった?」


「ああ、そちらは身元不明っぽかったので隊員に預けましたよ。別の場所で休んでます。半分裸みたいな服装でしたけど、どういう御関係で?」


リタがジト目でこちらを睨んできた。

なんだろう。この冷たさを孕んだこの目つきは。回答を間違えられない気がする。


「いや関係も何もダンジョンで怪しげな奴らに捕まってたのを保護しただけだよ」


まぁ、凄いヤバい奴らに好き放題された挙句、殺されかけていたことまでは言わないでおこう。リタも女の子だしあんまり言いたくない。


「ああ、そうなんですか。ただ意識は戻ってるっぽいんですけど、まだ会話はできないみたいですね……」


まぁ、そうかもしれないな。かなり意識に影響がある魔法か薬かを使われているような感じがした。


沈黙……。

リタが考え込む俺の様子に気づき、話題を切り替えようとした。


「ていうかエイス先輩、その後どうなったんですか?冒険者になったって噂も聞くけど魔力病治ったんですか?」


「ん?いや、治ってないよ。でも何か紆余曲折を経て闘えるようにはなって、冒険者でCランクまで上がった」


「Cランク!?どんだけ出世早いんですか……。それに紆余曲折って……。てか闘えるなら騎士団に戻ってきて下さいよ」


「え?嫌だよ?」


俺がそう言うと、あからさまにリタは傷ついた顔をした。しまった。言葉足らずだったか。


「前も言ったけど、俺は追放された側だからさ。戻りたくても戻れないんだよ」


――実はもう、あまり戻りたくなくなってきているのは事実であるが。


「いや、そうかもしれないけど、それは一部の人の論理ですよ。実際、エイスさんが抜けて六番隊はガタガタになってますからね」


「うーん、まあ、とはいえ副団長が追放って言ってるんだから仕方ないんだよなぁ」


「……わからずや」


リタはボソッと、そう言った。あーあ、またスネちゃったよ。わからずやは副団長なんだが……。


「いや、別に俺はもう騎士団は好きじゃないけど、リタは別だぞ?」


「え?」


それを聞いてリタはちょっと驚いた、動揺したような顔をした。


「別って?どういうこと?」


リタは俺の目を真剣な眼差しで覗き込んだ。いつも天真爛漫な感じでうるさいリタに少し俺は動揺した。敬語じゃなくなってるし。ん?何この感じ?


「え?いや、まぁ。アレだ」


「……アレじゃわからないです」


真剣なトーンをリタは崩さない。


「……好きじゃない連中、の中にリタは入っていない」


俺は慎重に答えを選んで言った。


「……へえ。わかりました。でも、否定系の文法を使わないで言ってください」


……なんで急に文法に制限をかけるんだ?

ふう、何でだろう。ちょっと緊張するわ。


「ま、お前は特別だ」


「っ!!」


リタの顔が、ぱっと赤くなって明るくなった気がした。

そして、その直後に急に下を向いて目を逸らした。


そして、なんとなく甘い感じの沈黙が、その部屋の空気を彩った気がした。


ん?なにこれ?なんかそういう雰囲気になっちゃってないか?俺の回答は是だったのか?それとも否だったのか?


そんな俺にはよくわからない空気感の中で、空気を読まない奴が現れた。


「リタ隊長!!保護した女性が目を覚ましました!」


心なしか、またリタがジト目で、隊員を見た気がしたが、まぁ隊員は悪くない。


「リタ、行こう」

俺はそう告げると、立ち上がった。





俺としては複雑な気分だった。


あの山羊頭がこの子にやりたい放題やっている場面を静観していたので、本当はもっと早めに助けに入るべきだったのでは、とか色々思うと、申し訳なくなったのだ。


その娘は既に起きていた。

まだ、体調は万全ではなさそうだし、目も虚ろな感じはあったが、意識はありそうだった。


あのときはあまり注意を払っていなかったが、やはり美しい娘だな、このときに思った。女性らしい肢体に、はっきりとした目鼻立ちが印象に残る。


「もう大丈夫なのか?」

俺はとりあえずそんなところから声をかけてみた。


「は、い。大丈夫です。もう」


「君の名前は?」


「フィリアです」


「そうか。フィリア。とりあえず、俺側から見た出来事を話すと、とあるダンジョンの15階層で君が怪しげな団体に囚われているのを助け出したんだ。何か覚えてるか?」


「うーん、あんまり覚えてない・・・です。正直なところ、わたしは歓楽街で働いているんですけど、そこで最後のお客さんを相手にしてから記憶がないんです」


そうか。なるほどね。記憶に干渉する魔法を使ってるのか何なのか。


「最後のお客さんのことは覚えてる?」


「たぶん……騎士団の人だった、ような気がする」


「え?」


リタがあからさまに驚いた顔をした。

多分、騎士団員が、そういう場所を使用しているという段階から驚いている気もしたが。まあ、俺も行ったことはあるしな。あんま性に合わなかったけど。


「そのとき、何か危害を加えられた?」


「ううん、まあ普通だった。でも最後の方は覚えてない」


なるほど。


「どんな人だったか覚えてる?」


「うーん。お兄さんくらいの年齢の人で、まあ普通の人だったくらいしか覚えてない。」


俺ではないので、誰だろう。

俺くらいの年齢の人間は多いからなあ。


「どう思う?リタ」


「騎士団がダンジョンにいた怪しげな連中に関与していると?」


「うーん、そこまでは言い切れないよな。多分時系列的に結構前の話のような気がするし」


「……」


俺は少し考えた。なにか非常に危険なことに首を突っ込んでる気がしてきたのだ。

リタにこの問題に深くは関与させたくない。もうこれ以上、聞くのはやめよう。この娘も幸い記憶を失っている。


だが、リタは何かを考え込んでいた。


「リタ?」


「エイス先輩はどうするつもりなんですか?」


「ま、冒険者活動をしつつ、情報収集ってとこだろうな」


「ボクも心あたりを当たってみます」


ああ、やっぱり。


「リタ。絶対にリスクは犯すなよ。頼むから」

俺は以前から言っていることをまた、リタに言ったのだった。


「ふふ、そのコメント、久しぶりに聞けて嬉しいです」


リタは理解したのかどうか分からなかったが、笑ってそう言ったのだった。

お読みいただいた方に大切なお願いです。


現在、底辺作家と呼ばれる範疇におりますので、なにか少しでも目を引く点がございましたら、ブクマ・評価・感想など、頂けましたら凄く嬉しいです!!


そもそもシステム上読まれることが奇跡だと思っていますが、ここまで読んで頂いた稀有な読者様には是非お願い致したく。完結まで走り切るためにも……。


どうぞ下の☆☆☆☆☆を全て★★★★★にしていただければ感無量です。

よろしくお願いします!


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