8_side:王国聖騎士団②
【リタ視点】
「一体、君は何をやっているんだ?騎士団を舐めているのかな?」
ベルナルドは、抑制された口調であったが、芝居がかった風に、あくまで冷徹にボクにそう言った。
「副団長、申し訳ございません。貴様!!頭を下げないか!」
そのガイストの言葉にボクは嫌々頭を下げたのだった。
発端としてはこうだ。
ガイストの隊の若手がまた辞める、という噂が立ったのだ。これで四人だ。それに関して、当事者と少し親交のあったボクに相談を持ちかけられたので状況を聞こうと思ったのだ。
その中でガイストの隊の酷いマネジメントの状況が明らかになり、悩んだボクはこれ以上、心を壊すくらいなら辞めた方がいい、とアドバイスしたのだ。具体的な辞める方法に関しても。
その情報がどこからか漏れ出し、この度問題となって、呼び出されたという訳だ。
本来、ボクがガイストの隊のマネジメント状況を改善するよう働きかけられれば一番良かった。だが、ガイストは数日前に謎の昇進を果たし、騎士団役員兼六番隊隊長ということとなった。
それで先に隊長になったボクにも上から来れる訳である。
「貴様!何だその態度は!若い団員が辞めていくことが問題となっていることくらい、知っているだろうが!!」
ボクは下を向きつつ内心呆れそうになった。
いや、問題が起こっているのは主にガイストの隊なのだが。
「……すみませんでした」
「貴様ぁ!!声が小さいんだよ、声が!!」
ガイストが一際大きい声でボクを叱責する。どうもこの男は大きい声を出せば物事がうまく進むと思っている気がする。
「まぁまぁガイスト君、彼女も反省しただろうし、もういいではないか。彼女もまだ若い。本来もう少し経験を積む必要があった、ということだよ。初の女性隊長という苦労もあるだろうし」
ベルナルドは今度はねちっこい視線を僕に向けつつそう言った。暗に、史上No.2の速さで隊長になったボクの経歴と性別に関して、ケチをつけたい、ということはその芝居がかった語調でよく伝わってくる。
「では、君の処分は一週間の寮での出勤停止処分とする。異論はないな?」
ベルナルドは決めつけるようにそう言った。
「……異論はありません」
異論ありまくりだよ、と思いながらそう言った。
そもそもこの二人はいつも、何かにつけてボクを目の敵にするのだ。エイス先輩は「やっかみ」だって言ってたけどそうなのかなぁ?
ボクは寮の部屋で一人、孤独に過ごしていた。部屋の灯りをつける気すら起きなかった。
この先、王国聖騎士団はどうなってしまうのだろう?正直、ずいぶん滅茶苦茶になってきているのは間違いない。
一番の理由はエックハルト団長の衰えがここ数年、著しく進み、騎士団への干渉度が明らかに減っている点だろう。そして、直近の理由としては……明確にエイス先輩の追放だ。
先輩なら今回のような問題に対しても、うまく解決に導いていたんだと思う。いや、もし解決できなかったとして、こういう風に、ボクが傷ついたときに、いつも優しく話を聞いてくれていたのは先輩だ。先輩は聞き上手で有名なのだ。誰でも10分間話せば、先輩に自分のことをわかってもらえた、という気分になる。
そう、誰が話したとしても、だ。ボクだけがそうなのではない。そう思うと胸が締め付けられて、切なくなった。
「先輩に会いたい……」
そう言葉にして呟いた途端、ボクは泣き出しそうな気持ちに襲われた。
そういう風に感情がブレると、ボクは眠りにつきたくなる。そして、ボクは何かに殴られて気絶したかのように眠った。
目が覚める。
だめだ!とりあえず散歩くらいは謹慎中でも許されているから外に行こう。騎士団としての活動をしなければいいだけだし。
ボクはとりあえず寮を出ると、城下町に向かって歩いた。
と、ボクは物陰に人がいるのを見つけた。二人だ。その二人はどこかに向かっている。話しながら移動しているようだが……。
この声、聞き覚えがある。というか明らかにベルナルド副団長とガイスト隊長だ。
ボクは何となく気配を消して尾行した。
◇
辿り着いた場所は、最近発見されたと言われるダンジョンの一階層だった。
非常に不思議だった。
そのダンジョンの一階層にセーフティスペースがあり、そこの前に二人が集まっていたのだ。そして、誰かを待っているようだった。
そこに、その誰かが歩いて現れた。
見るからに怪しい。
フード付きローブを着用して、顔がわからないようになっている。何者だ?見たことがある気もするが、ここからではわからない。
てか、何でダンジョンで人と会うんだ?
そして、その三人が互いのことを確認すると、壁に向かって歩いていった。
なるほど、隠し部屋という訳だ。
流石に隠し部屋に入るわけにはいかないので、ボクは壁に耳を当てて、感覚強化魔法を魔力の波が立たないように使った。
〜〜〜
「さて、早速取り引きと行こうか?」
この声はベルナルドの声だ。
「そうね。こちらとしては、さっき緊急事態があったので、取引を迅速に済ませるのは賛成よ。まずは互いの持ってきたものを確認しましょう?」
この声は、あの二人の声ではない。どう考えても違う。女か?背筋が凍るような感じがするけど、やたらと美しい声。おそらくあのフード付きローブの声だろう。
「確かに1億8000万イェン……間違い無いわね。本物よ」
今喋ったのはローブのだろう。ということは、あの二人がその金額を準備したこととなる。
よくわからない。そんな金がどこにある?
「当たり前だろう」
「こちらも鑑定が完了したよ。SSRランクの呪具『洗脳の魔眼』に間違いない」
「!!」
洗脳の魔眼だと?いや、それ以前にSSRランクの呪具?騎士団での所持は完全に禁止の筈だが。
「では、これで今回の取り引きは完了としようか。これで我々の計画に関して、あの方への依存度を少し下げることができるな。スムーズな取り引きに感謝する」
この声はベルナルドの声か……。
あの方?あの方って誰だ?
「ええそうね。ところで取り引き自体はスムーズだったけど、いいの?この取り引き、聞かれてるわよ多分。私としては構わないし、人員を割けないから、放置しているけど」
……え?
「……なんだと?誰だ!?ガイスト!尾行対策をしろと言っただろう!」
「す、すみません。探知魔法を使っていたのですが……。ここまで完全に気配を消されると」
あ、まずい。とってもまずい。だが、誰かまではバレてないな。今のうちに逃げる!!
〜〜〜
「ちっ、逃げられたか。」
ベルナルドは忌々しげにそう呟いた。
「す、すみません。誰だったんでしょうか?」
ガイストは慇懃にベルナルドに尋ねる。
「それを調べるのが貴様の仕事だろうが!!」
感情的になったベルナルドの半ば八つ当たり的な叱責に、ガイストは顔を引き攣らせるのだった。
◇
ふう、危なかった!!
本当に肝が冷えた。
ボクの尾行と盗聴を破れる人間がこの世に存在するとは、正直思っていなかった。
ま、ボクが全力で逃げるのを追いかけて、捕まえられる人間はこの世にいないけどね。
ボクはダンジョンの出口にもう辿り着いていた。
さて、あとはここから寮に帰るだけ。
って、え?
そこは、ダンジョンから少し離れた場所であった。人が行き倒れている。二人だ。
一人は男、もう一人は、殆ど裸みたいな格好の綺麗な女の人。
なんだろう?駆け落ちして行き倒れ?それにしても女性の格好がおかしいし、倒れている場所もおかしい。急いでるけど、放っておくわけにもなぁ。
ボクは近づいて、二人の生死を確認しようとした。
まず、うつ伏せになっている男を仰向けに戻して、と。
「あ」
その男は、数時間前に心が焦がれるくらいに会いたい、と思っていた人だった。
だが違う。ボクは会いたい、とは思っていたもののこういう状況で、では断じてない。
「この色魔が!!!」
ボクは自然とそう口にしていた。
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そもそもシステム上読まれることが奇跡だと思っていますが、ここまで読んで頂いた稀有な読者様には是非お願い致したく。完結まで走り切るためにも……。
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