6_儀式
そこでは何らかの儀式が行われるようであった。俺はどうするべきだろうか?とりあえず静観するしかないだろう。
山羊の頭をかぶった男は、何やら魔法陣を書き続けている。俺は職業柄ちょっと魔法も勉強したが見たことがない体系の魔法陣だ。
その男を中心として、フード付きローブを羽織って顔まで隠れている人達が取り囲んでいるのだ。ローブの連中は魔法陣の方を向き、歌とも呪文ともとれない、独特の旋律をその声で発し続けている。
味わったことのない、重く、ジメっとした空気感が俺の心を塗りつぶすような感じがした。
と、少し様子が変わった。
ローブを羽織った男のうちの一人が連れてきた若く、美しい肉付きの良い女は、相変わらず殆ど裸みたいな格好をさせられて拘束されていた。どこか目は虚で意識も朦朧としているように見える。
そして、山羊の男の前に連れてゆかれている。
山羊の男と若い女は魔法陣の中で二人になった。
魔法陣の中で相対する二人。
独特の緊張感が場を包み込む。
そして、山羊の男はいきなり、若い女の手をとり、後ろから羽交い締めのようにすると、さも当たり前のようにその若い女の身体を弄り始めた。
え?
若い女は声をあげて、身体を震わせ、その山羊の男の動作に反応した。明らかに顔が紅潮し、目が蕩けている。息も荒い。恐らく事前にそういう作用を引き起こす魅了の魔法か薬を使っているようだった。
いや、あかんだろ。多分コレ無理矢理だよな?
『エイス様、気持ちは分かりますが飛び出して助けようとか思わないで下さいね。まだ状況が判断できません。それに貴方はもう騎士団員ではないのですから』
ディアが俺に言った。ちっ。さすが、よくわかってらっしゃる。俺はこういうときに、感情で行動してしまう癖があるのだ。そのせいで騎士団でも結構、失敗してきた。
そして山羊の男は若い女に、執拗に、在らん限りの痴態を行ない続けた。それにより女は繰り返し、嬌声を上げ続けている。その場の雰囲気もあり、俺は感覚がおかしくなりそうであった。
どれくらいの時間が経っただろう?
若い女は何度も何度も繰り返されるその行為に、最初は反応していたが、もはや反応もできず、成されるがままであった。おそらくもう気絶している。
そして……その時が来た。
山羊の男は、若い女が行為の末に、気を失ったのを確認すると、ナイフを取り出して高くかざした。そして、それを女の喉元へ振り下ろす。
っておいなんなんだよ!
ガンッ!!
そんな音と共に、山羊の右腕がナイフと共に弾け飛んだ。
「誰だ!!!」
誰かが大きな声で叫ぶ。
誰だ?
『……いや、あなたですよエイス様』
あれ?気づいたら勝手に引き金が引かれて……。
『いや、だからエイス様だってば』
……。
「いたぞ!!あそこだ!!」
ローブを羽織った連中が、こちらを指差した。
やっべ!!
ええい!知るか!
俺は中心に突入した。
心なしかディアのため息が聞こえた気がしたが……。
何人かのローブを来た連中が俺に襲いかかるのが分かった。
俺は大振りの斬撃を繰り出しながらトリガーを引く。
トリガーに付与した効果は「衝撃波」である。その効果のお陰で連中はいとも簡単に、後方へ吹き飛んだ。
「……おい!コイツ強いぞ!?気をつけろ!」
誰かが、そういうようなことを言った。
俺は武器を山羊に向けた。
そして、もう一発トリガーを引いた。
山羊の顔の横を魔弾が通り、後ろの壁に直撃した。
「全員動くな!動いたらコイツを吹っ飛ばす!!」
俺が大声で叫ぶと、ぴたり、と連中の動きが止まった。
空気が一気に緊迫する。
その緊迫は数瞬続いたが、それを打ち破ったのはあちら側であった。
「ななな、な、何、か、かな」
山羊が声を発した。
エラく喋りづらそうだな。声からどんな奴か想像しようにも、よくわからない。この状況だからではなく、常にこんな喋り方のような感じだ。微塵も動揺していないことが声色からわかったので、そう判断した。
「その娘を離せ」
「え?な、な、な、なに?」
「ま、百歩譲って別にエロい事すんのはいいさ。合意の上かもしれんし、どういう事情か分からんしな。だけど、無抵抗の女の子をナイフで刺すのは無条件に悪なんだよ。俺の騎士道ではな」
ま、十中八九この女の子は部外者だと思うが。
「え、え、え?」
「そして悪を見過ごすのは、俺の騎士道ではもっと悪なんだよ」
「べ、べ、べ、別にナ、ナイフで刺すのもこ、個人のじ、じょう、オレの勝手だ、だろ?」
「違う」
「ち、ちがわな、い。す、少なくとも、お、オマエをこ、殺したあと、なら」
「!!」
その言葉と共に、吹き飛ばした筈の山羊の右腕から、禍々しい刀が生えてきた。
恐ろしい勢いでその剣が振り下ろされる。
「ガキン!」
辛うじて俺はその一撃を受け止めた。
そしてその一瞬で悟った。
コイツは恐ろしく強い。
俺は全力の体当たりで距離をとると、即、魔弾を放った。
轟音とともに、山羊の頭に直撃する。
剣を受けてから、この間までおよそ1秒。
このタイミングで俺は気を失っている若い女を自分の守れる範囲へ置いた。
漸く、取り巻きが反応し、俺に襲いかかってきた。
が、俺に襲いかかってきた取り巻きは、即、4等分に切り裂かれ、血溜まりとバラバラな死体が地面に落ちた。なんだ?これは俺の攻撃ではない。
これは……汎用風魔法?だが威力がおかしい。
「ゲゲゲ!ヒャハっハ!オマエら邪魔なんだよ。そんなに邪魔したけりゃお前らが生贄になれよ」
山羊の頭を付けていた男は立ち上がり、今度は流暢にそう言った。明らかにテンションが変わっている。
そして俺は驚愕した。
山羊の男の素顔が露わになっていたからである。
真っ白い肌に銀の長髪。そして毒々しいほどに紅い目と唇。
その男は恐ろしいまでの美青年であったのだった。
「ギャはッハ!!お前、オモシレぇよ!!本当に!オレを!オレを殺してみろよ!」
その美貌の男はその見た目に似つかわしくない調子で、俺にそう言った。
お読み頂きありがとうございます。
本稿は若干の性描写がありますが、どこまで許されるのかわからないのでカンでやっています。今後も、たまに入りますので苦手な方はご注意ください。
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