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4_side:王国聖騎士団①

【リタ視点】


ボクは納得がいっていなかった。

激怒していると言ってもいい。


エイス先輩は、逸材とか天才とか言われることもあったけど、重要なのはそこではない。もっとも剣と騎士団に対して己を捧げていること、が先輩の本質だ。


彼が己を押し殺して努力しているのをボクは何度も見てきている。ボクが先輩の隊、六番隊の隊員だったころ、しでかした不始末も必死で上層部に謝ってくれた。部下の不始末は自分の責任だ、と。


先輩は基本的に自分に厳しかった。で、その半分くらい他人にも厳しかった。でも、人の気持ちに寄り添うことのできる本当に優しい人でもあるのだ。実際、それでボクは何度救われてきたかわからない。


正直、騎士団としての業績に入らない、目に見えない隊員、後輩の育成効果とかも考慮に入れたら、もっと評価されていないといけない人だと思う。客観的に見ても。


それを、魔力病になりました。だから追放します。


それでいいと思ってるんだろうか?


もっと許せないのは、あのガイストがエイス先輩の後任で六番隊の隊長になった、ということだ。



「ああ、なんだと?てめえ今何て言いやがった!!!」


ガイストは大声で隊員にそう怒鳴りつけた。


「……ですから、すみません。一身上の都合で、もう王国騎士団を辞めようと思っています」


その隊員は、顔面を蒼白にし、焦燥しきった様子で、下を向いてそう言った。


「お前さあ、ここは栄えある王国騎士団だぞ?そんな簡単に辞めるとかないだろ?とりあえず説明くれる?説明」


ガイストは苛立たし気に、机を指でトントンとたたきながら、そうまくし立てた。


「すみません、病気なんです……」


「なんのだよ!何の?説明くださいってさっきから、お願いしてるでしょうがよ!この隊長様がさあああ!!!」


ガイストは目をひん剥いて、すさまじい形相でそう言った。

一瞬隊員が、その形相に「ひっ」と小さく声をあげる。


「――医者からは……心剥病だと言われました」


隊員は何かを白状するかのようにそう言った。


「あ?」

ガイストは、そう言ったかと思うと極めて冷めた目で隊員を見た。


心剥病。騎士団で魔力病の次に恥ずべき病と言われる、病だ。症状としては、気分の落ち込み、モチベーションの低下、等々である。上意下達の超トップダウン型組織である騎士団では、これにかかると軟弱者と呼ばれ、居場所を奪われれてしまう。


心剥病なぞ存在しない。甘えだ、とみる向きもあるくらいで、ガイストはまさしくそのタイプだった。


「――ああそう。お前がそこまで甘ちゃんだと思ってなかったわ。期待した俺が馬鹿だったよ。いいよ。辞めたら?」


ガイストはそう吐き捨てるように言った。


「……すみません、お世話になりました」

そういうと隊員は、一礼して部屋を出るのであった。


隊員が去って暫くした後、ガイストは自分の机を凄まじい勢いで蹴った。

ガンッ!!と大きな音が室内に響き渡る。


ああ、イライラするぜ、この隊のエイスの息のかかった無能どもは。

軟弱な人材を育てやがってよぉ。厳しさが足りてねえんじゃねえか?あいつは。


俺が隊長になって、1か月の間で、これで二人目、だ。

しかも二人とも心剥病だと?ふざけやがって。



「アンドレイさん、また六番隊から退職者が出たって……」


ボクは帰り道に偶然一緒になった、六番隊副隊長のアンドレイさんに声をかけた。

どう見ても、その顔は憔悴しきっている。


「――ああ、噂通りあの人は滅茶苦茶だよ。三番隊の副隊長だったころはまだよかったよ。三番隊の隊長がちゃんとコントロールしていたからね。でも今は……正直お手上げだよ。自分の責任でもすぐに別の誰かの責任に持っていく点が一番厄介だね」


アンドレイさんはそう言って、肩を竦めながら、ため息をついた。本当にどうしようもないため息だということが伝わってきた。


「そんな人が隊長になったのは、やはりガイストが副団長のベルナルドさんの派閥にいるのが大きいんですかね?」


「――そうだろうな。エイスさんは団長を尊敬して、この団に入って、団長から信頼されていた、いわば団長派の筆頭だったからな。まあ、本人はそういう派閥とか気にせず、公正中立で在ろうとしていたけど、結果としてそうなってしまったのは確かだよ」


「そして、今は団長派は、かつての勢いを失っていて実権はベルナルドが握っている、か」


ボクはため息をつくのを禁じえなかった。


騎士団団長エックハルトはかつて、世界最強の七人「七天星」にかつて数えられた一人である。圧倒的な強さとカリスマ性を兼ね備えており、騎士団の基礎を作った人だ。84年前に突如、現れた「破壊の魔族」を死闘の末、単騎で討伐した話は最早生ける伝説である。


だが、その戦いを境に、その力は徐々に衰えており、今では全盛期の数分の一の力もないらしい。って、まあ年齢はわからないけど、十分に生きているだけで凄い気もするが。


「だがな、ベルナルド副団長がその手腕で騎士団に利益をもたらしているのは確からしいんだよ。だから何も文句をいえないんだ」


利益、か。

騎士団にも勿論、それは必要なことなのだろう。


だが、騎士団はそういう組織なのか?

ん?ちょっとまてよ?


「その利益ってどこから得てるんですかね?」

ボクは当然の疑問を口にした。


「――さあ?」

アンドレイさんは、また肩を竦めるのだった。


お読み頂きありがとうございます。


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