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25/31

25_狼

俺は夢を見ていた。


あれは、アルデハイム先生か?アルデハイム先生が子どもと対話している。その子どもは……たぶん、俺だよな?


アルデハイム先生の横にはベアトリーチェもいる。しっかし、この頃から超かわいいな、ベアトリーチェは。さすが将来俺の中の三大美女に……じゃなかった。五本指に入ってくる娘だ。


あ、あの隅っこにリヒテルもいるな。全然話聞いてねぇわ。相変わらず本の虫だねぇ。


どこか不思議なのは、アルデハイム先生に対して、俺らしき子どもが何かを雄弁に語っているように見える点だ。こういう光景は珍しい。アルデハイム先生は、常に何かを教える側だ。どちらかと言うと何か俺らしき子どもが何かを説いているかのように見える。


アルデハイム先生……いったいどこに行っちゃったんだよ。


俺たちを……俺を……置いていかないでくれ。



〜〜〜



そして、俺の前に黒い魔獣が現れた。狼のような。フェンリルのような魔獣。


ああ、コイツは見覚えがあるぞ。さっきサラマンダーと闘ってたときに、出てきてたヤツだ。


その黒い魔獣は俺のことを正面から見据えている。隙あらば喰ってやろう、てとこか?てか、俺さっき喰われなかったっけ?


「口惜しや……」


うおっ!!喋った!喋ったよこの狼!


「な、何がだよ?」


「お前を喰い損ねたことがだよ」


ああ、やっぱ喰われかけてたのは間違いない訳ね。


「ああ、俺は喰われなかったんだな」


「蒼い髪の娘と、白い九尾の魔獣が儂の邪魔をしたのだ」


……ディアと……白狐、か?


「そりゃあ、残念だったな」


「だがな、お前はそのうち思い知るのさ」


「……何を?」


「お前が必死で守っているモノの無価値さに、だ」

その黒い狼は笑っているようだった。


「……あ?取り消せや、コラ」

俺は腹が立ってそう言った。


「くくく、いい貌だ。そういうお前の方が喰いがいがあるというものよ」


このタイミングで上?から誰かの声が聞こえた。聴き慣れた声だ。ああ、そうか。俺は行かなければならない。


「生憎だがな。俺はてめえの思うようにはならねぇよ。俺は元騎士団六番隊隊長にして、現B級冒険者のエイス=インザフォールだ。鍛え方が違うんだよ」


その言葉を聞いて、魔獣は、かかか、と乾いた笑いを発したように見えた。


「気づいてるんだろ?その名がお前の本当の名でない、ってことに」


魔獣のその言葉とともに、視界がホワイトアウトした。



目が覚めた。


えーと、ここは何処だ?


俺は身体を起こす。

「ぐわっ、痛え!!!」


俺は、全身の痛みに声を上げた。


「エイス様!」「エイス先輩!」


左右から二人、俺の同居人が抱きついてきたのだ。

ディアに至っては泣いてるし。


うーんそれにしても、いい匂いがする。ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ。


ここは……自宅か。


「……えーと多分、色々と迷惑かけたんだよな?すまなかった」


「迷惑だなんて思っていません。むしろ、エイス様を止められなくて……ごめんなさい」


ディアが俺に謝る。


「いや、お前が俺に謝るのはおかしいだろうよ?俺はお前が何度も俺を止めようとしてくれてるのを聞いていた。でも、自分を抑えられなかった」


二人が俺を見ている。


「それどころか、そんな止めようとしてくれてるお前に対して俺は、独りよがりで乱暴な闘い方をして、傷つけたような気がする。記憶では。すまない」


俺がそう言うとディアがまた泣き出した。


「……良かった。いつもの……エイス様で。本当に」

……俺は、こんな綺麗な娘を泣かせてしまったのか?そう思い非常にいたたまれなくなる。ディアは冷静なイメージだったから余計にそう思うのだろう。


「あーそれに俺が自分を失う前の、決定的なところで、助けてくれたのは、どうやらお前たちらしいぞ?」


正確に言うとディアと白狐だけど。まぁいいや。きっと俺にしか分からない。


「そうなの?うん。でも良かったよ。エイス先輩が……エイス先輩のまま目を覚ましてくれて」


ふむ……リタも一部始終を聞いたのか。


「二人ともこの事は他言無用で頼むわ」


そう言うと二人は頷いた。

と、そこで俺は重要なことを思い出した。


「あ!そうだ。アイツはどこだ?サラマンダーは。えーと緑の鱗みたいな皮膚の大男だ」


「あ、ああ。その男は生きていたんだ。あの後、大きな鳥みたいな鯨みたいな魔獣が現れて、それに乗った仲間らしきフードを被った連中が回収して連れて行ったんだ。」


「手出しはしてないよな?」


「……うん、ごめん。ちょっとボク一人には手に余るって判断して、エイス先輩を背負って逃げた」


「ああ、正しい判断だ。ありがとう」


サラマンダー。恐ろしい強さだった。

騎士団で対処できるとしたら、エックハルト団長くらいのものだろう。


いや、エックハルト団長が、対処したとして何とかなるのだろうか?全盛期のエックハルト団長ならいけたんだろうが。俺には答えが出せなかった。というかエックハルト団長の実力を正確に把握できる人間は、この世にいないかもしれない。


うーむ。



「ということなんですよ、エックハルト団長」


もう、しゃあない、と思って俺は取り敢えずエックハルト団長へ相談することにした。


「……ふむ、黒の真言、か」


「まぁ正直、あんまりこの体制の変化の中、混乱させてもなんだな、ってことで、それについては話してこなかったんですけど、ちょっとさすがにヤバいし。俺一人では、手に余るっていうか、どうしようもなくなってきまして」


エックハルト団長は目を瞑っている。


「俺が少し前に闘った男も、騎士団の誰よりも強い、と思ってます」

俺は正直な思いを吐露した。


「……儂よりもか?」


エックハルト団長は、目を開けてそう言った。


「……わかりません」


俺は正直にそう言った。エックハルト団長が勝てるか分からない。それはとんでもないことである。


「お前は勝ったんだろ?」

エックハルト団長は相変わらず、鋭い視線でそう言った。


「正直、俺が勝った。と言い切ることができません。武器の力もそうだし、途中から俺であって俺でない、よく分からない力が出たし。見ての通り大怪我しましたし」


そう言って俺はエックハルト団長の方を見た。団長はその、俺であって俺でない力、について知ってるように思ったからだ。だが、反応はない。腕を組んで目を瞑ったままだ。


「最終魔導兵装か。第一次人魔大戦最後の遺産だな」

なるほど、そっちに反応しますか。


「ご存知でしたか」


「まぁ、な」


「ところで、エックハルト団長はどんな剣をお使いでしたかね?」


「ん?儂?儂はずっとこれだが」


それは、騎士団でヒラ隊員に支給される古びたブロードソードであった。達人は道具を選ばない、と言うが選ばなさ過ぎだろ……。


「ありがとうございます。まぁエックハルト団長はどんな剣でも一緒ですもんね。闘い方的に」


「抜かせ。で、何か案があるんだろう?アドバイザーとしては」

団長が目を輝かせている。かなわんなこの人には。


「んー思うのは、騎士団は強いけど、より力を持つ必要があるのでは、ということです。外部にあれだけ凶悪な連中が出てきたので」


そう。正直、俺一人では相手しきれないし、守りきれないのだ。


「そして、俺が武器を拾って思うのは、武器によって根本的に闘い方と強さが変わりうる、ということです」


「うーむ、それはお前と最終魔導兵装だからではないのか?」


「まぁ俺はイレギュラーとして、そのようには無理でも、多分、劇的に変えることはできます」


そうだ。今、隊長たちは一律で同じような騎士団で支給された鉄製の剣を使っている筈なのだ。俺は以前からそこにずっと違和感があった。第一、黒の真言の連中は、多分、人魔大戦の遺産やらなんやらを使いまくってる。災厄の黒龍の心臓を呪具として使っているくらいなのだから。


「ふむ、まぁそうだとして、どういう手段を用いる気だ?」


「まぁ、幸い最終魔導兵装を俺は所持しているので、優秀な研究者と鍛冶職人がいれば、解析して、より強い武器を作れるのではないかな、と」


「ほう。だが、エイスよ。それは厳しいのではないか?残念ながら儂はそんな仕事ができる人間を知らんなぁ」


そう言いつつ、団長は俺をチラチラと横目で見る。わかりやすい爺さんである。


「一人は賢者の後継者、リヒテルが適任かと」


「ああ、お前と同じくアルデハイムの孤児院の出だったな。鬼才であるという噂はよく聞く。だが、肝心の鍛冶職人はどうするのだ?」


俺は、少し間をとってから、その言葉を慎重に、だがはっきりと口に出した。


「べアトリーチェ=ベルネスタークが適任かと」


「……」


エックハルト団長は黙ってしまった。とんでもなく険しい顔をして頭を抱えている。まぁ気持ちは分かるよ。


「……ああ、あいつなぁ。まぁ……な。お前は友達だったか?確か」


「ま、リヒテルと同じく、元々同じ孤児院で育ちましたからね。騎士団に来た経緯は別ですが」


「赤髪の美しき悪魔……か」


エックハルト団長は思い出すかのようにそう言った。

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