24_乱れ撃ち
サラマンダーは俺の奥義、巨人の踏みつけにも耐えやがった。
そして、一歩、二歩と前に進む。そして、俺の攻撃範囲から逃れた。
くそっ、範囲と威力を絞って失敗したな。
「かかか、いやー来てよかったよ。また限界を超えられそうだ!」
もう超えんでいいっての。
と思いつつ俺は大地に降り立つ。
サラマンダーに感化されて俺は何か、高揚感のようなモノが頭の中を駆け巡りまくっているのを感じていた。多分、俺は笑っていたと思う。
そして黒の真言と関わった時に、現れる黒い何か。
そいつが、大きくなり俺の臓腑を食らい始めているような、そんな感じがしていた。
「エイス様。危険です。自分を押さえてください!」
ん?そう?まぁいいや気をつける、よっと!
俺はサラマンダーに斬りかかった。恐ろしいまでのスピードが出る。
サラマンダーは素手で刃を掴む。
馬鹿が。
俺は引き金と剣を同時に引いた。
そして、何か金切声のような高音が剣から発生する。
光魔法剣 極光剣
剣が虹色に発光する。
サラマンダーの指が斬れて、吹き飛ぶ。
ちっ、致命傷を狙ったんだが。とっさに避けたか。
サラマンダーは、自分の手を眺めていた。
「俺の身体に傷をつけるとはな」
そう言ったサラマンダーの声はやはり愉しげであった。
サラマンダーの闘気がさらに膨れ上がった。身体から湯気のようなオーラが立ち昇っている。
こいつ、最初から強かったけど更に化けやがったな。あれはエックハルト団長が本気で闘うときに纏う闘気と同質のものだ。
コイツは……おそらく天才と呼ばれる部類の者なんだろう。完全なる努力型の俺とは全く対極に位置する存在。俺がちょっと人より優れていたのは武器を扱うセンスくらいだ。
だが……今はディアがいて、それを使う何か得体の知れない力がある。それは俺にしか出来ないことだ。
サラマンダーは、地面を全力で殴った。
地面に巨大なクレーターができ、土煙があがる。
まずい!見失った!魔力探知を……。
「俺も地面に穴くらい開けられるぜ?」
俺の右後ろから、声がした。
俺は背筋が凍る。
サラマンダーの全力を込めた右ストレート。
俺はカンで武器を使って防御する。
武器に拳が当たる感触。
だが……。
俺の右腕の骨が砕ける音と、景色が高速で移動する感覚が同時に起きた。
いや、移動しているのは景色ではない。俺だ。
「がっ!!」
俺は地面に強かに叩きつけられた。
マズイな。右腕はもう使い物にならないだろう。それに肋骨も何本か折れている。
俺は左腕に武器を持ち替えた。
「エイス様!ダメです!もうやめて!お願いだから!!逃げてッ!」
ディアが泣きそうな声で何か言っている。
よく聞こえんが。
どちらかと言うと俺の中にいる、黒い何かの方に気を取られていたのだ。
ソイツは黒い何か、というより完全に獣の形をしていた。フェンリルのような口の裂けた黒い獣。
そいつは明らかに俺の臓腑を食らい始めている。
だが、何故か痛みがない。
そしてフェンリルの顎門は、俺を全て飲み込み、俺は噛み砕かれた。
と、同時に何か黒い魔力が俺の身体に満ちるのを感じた。
「おいおい、どうしたよ?なんか見た目が変わってんぞ?」
サラマンダーが俺に声をかけた。
「……見た目?」
「なんか知らんけど、人間離れしてるってだけだ。気にすんな。再開しようや」
「……ああ」
俺は同意した。
◇
うん。調子が上がっている。攻撃がよく見えるようになったな。
右、右、蹴り。
フェイントを入れて左。
そのタイミングに合わせて、斬撃、と。
ブンッ!!
あ、外した。
まずい!
左腕を掴みやがった!
「……折るぜ?」
サラマンダーはそう言うと力を込めた。
けっ、甘えよ。
俺は身体を回転させると、体重を充分に乗せ、脚をぶん回した。
ハイキック。
サラマンダーのこめかみに俺の脚が当たった。そしてそのまま振り抜く。
「がっ!!」
予想していなかったのであろう。サラマンダーはモロに喰らって横に吹き飛んだ。
「い、っててて。おい、なんであんたの蹴りが俺に効くんだよ?どうしたんだ?」
ん?なんでだろうな?
「何か調子が上がってきてるんだよ」
「そうか。俺もだ」
そして、俺たちはまたぶつかり合った。
まだだ。
まだ足りねえ。俺が上がればコイツも上がる。一気に仕留めるだけの力を。
「うおおおおっっ!!!」
俺は自分の口から発せられる咆哮を、第三者的に聞いていた。ん?これは俺か?
え?なんだ?幽体離脱しているのか?
俺が、サラマンダーと闘っている。でも姿が異形だ。
まず、目が獣のような目になってるし、額によくわからん紋章が浮かんでいる。そして髪が長い。まるでタテガミみたいだ。
あとあの肉食獣的な爪と牙。
「まるで狼だな」
俺は他人事のように呟いた。
「エイス様ーーッ!!!」
ディアのこれまで聞いたことのないくらいに大きな声がした。
あれ?俺は何をやっているんだ?
気がつくと、銃剣が円形と四角錐を合わせたような形になっている。ああ、アレをやるのか?
「おい、ディアよ。黙って俺の言うことを聞け。わかってるな?」
「……だめです。やめて……。」
「……黙れ。俺がやる」
おいおい、ひどい言い草だなぁ。本当に俺か?
「重力操作式闇魔導法 巨人の踏みつけ……始動」
ドキャァァッ!!!
「ぐっ……オオオオ!!!」
サラマンダーの周りの地面にまた穴が空いた。
サラマンダーは相変わらず、コレに耐えている。だがここからが違った。
ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!
「がっああああ!!!」
サラマンダーが叫んでいる。
え?おいおい、トリガー今何回引いた?あの負担のデカい、巨人の踏みつけを増大した魔力任せに乱発してるのか?
こんな乱れ撃ちしていい魔法じゃねぇぞ?
ガンッ!!ガンッ!!
「ふはっ。あはは。アハハハハハ!!!」
本当に俺か?あれは?
「ぐっああああ!!!」
サラマンダーは漸く膝をついた。
そして、大地が割れ、さらに地中深くにサラマンダーは押し込まれる。
その地に巨大な円形の、深い、深い穴が空いた。
サラマンダーはその底で、倒れ伏している。
そして、漸く肉体に戻った俺は、その様を空からぼーっと眺めていた。
「けっ、ざまぁみろ。てか、タフすぎるんだよ……」
そして意識が消失してゆく。
俺はそのまま大地に引き寄せられていった。
◇
【リタ視点】
「え?何?あれ」
ボクは帰ってこないエイス先輩を探しに、このエイス先輩が良く訓練に来る、この荒野を見回りに来ていた。
そこにはいつもは空いていない、巨大な穴が空いている。
ボクは胸が騒ぎ、そこへ向けて走った。
そこには……倒れているエイス先輩を抱き抱えている人化したディアさんだった。
ディアさんは涙を流しながら、エイス先輩に懸命に何か語りかけている。
「ディア……さん?」
ボクはその光景を前に、その言葉を発することしか出来なかった。
「リタさん……ごめんなさい。私がエイス様を止められなかった。私の……責任です」
責任?なんのことを言っているんだ?見ると、エイス先輩の片腕は骨折し、血を吐いている。かなり大きな怪我を負っているようだった。
その責任のことか?
「ディアさん……落ち着いて?状況がわからないけど……エイス先輩は生きているんだよね?」
「ええ、生きて……ます。でも……」
「でも?」
「エイス様をッ……「魔」に、、呑ませてしまいました」
ディアさんはまた泣き出してしまった。
ボクはその涙を見て、もらい泣きしそうになる。
ボクの中でディアさんはどちらかというと冷静な印象だった。だが、その少女の姿となった、ディアさんの、動揺し涙を流す姿から、どれだけエイス先輩のことを想っているのかが分かったからだ。
「……ディアさん。一人で抱えないで?ボクも背負うから。ディアさんとボクでも背負いきれなかったら、団長もジェミニアさんも、騎士団のみんなだって、一緒に背負うから」
ボクのその言葉に、ディアさんは泣き顔のまま、ボクの目を見て、黙って頷いた。
「だから……何があったのか、ボクに教えて?」
再び、ディアさんは黙って頷いた。
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