23_サラマンダー
こりゃあ恐ろしいな。
俺は荒野にて銃剣を使った闇属性攻撃試し撃ちの後を見て、そう感じるしかなかった。
闇属性
闇属性というのは、あまり詳細がはっきりしていない属性である。目眩しをしたりとか影を操ったりとか。まぁあと上級者は俺がさっきやったみたいに重力をちょこっと操作できたりもする。
俺は結構得意属性っぽかったので、重力操作をやってみたら普通にできた。
で、ディアに手伝って貰いながらやったら、もっとエグいことになった。俺は本当にとんでもない力を手に入れたのかもしれない。
荒野に空いた大穴を見てそう思った。
◇
さて、と。
俺は行きつけの酒場に行った。
ここは俺のお気に入りの店だ。うるさすぎず静かすぎず、マスターも空気を読み過ぎず放っておきすぎず、そんな風に対応してくれる。
「ニールサボテンの蒸留酒をロックで」
俺はいつもの席に座ると同時に、そう注文した。
客が入ってきた。いや客が入るのは当たり前のことだ。問題はそこではない。
問題はその客がパッと見で、目を引く輩だったことだ。
かなり大柄な男だ。身長はおそらく2メートル前後か。そして身長だけではない。あの筋肉である。エックハルト団長の全盛期くらいの筋肉量があるんじゃないだろうか?そして目を引くのは、手や脚、首などから覗く緑色の鱗のような模様である。
コイツ……獣人族か何かかね?爬虫類タイプの獣人族ってそこまで多くはなかったと思うけどなぁ。
そんなことを考えながら俺は蒸留酒を口に含んだ。鼻腔に鮮烈な香りが充満し通り抜た。飲み干すと喉をヒリヒリするような熱い感覚が通り抜ける。かーっ美味い!!
と、俺は意外な展開に驚いた。
その大男はいきなり俺の隣の席に座ったのだ。え?いや、結構席空いてるけど。ワザと?だよな?
「マスター。このあんちゃんに一杯」
その男は俺の酒が減ったグラスを見るや否や、そう言った。
「……ありがとう。えーとごめん。思い出せないんだ?どこで会ったっけ?」
俺は正直に言った。
「あ?いや。初対面……の筈だぞ?」
ん?やっぱそうなのか?じゃあ何で俺に奢るんだ?俺は男だが……。
「あんた、あの有名なエース=インザフォールだろ?」
有名?有名なのか?騎士団の中ではそれなりに有名だが、外に出たらそうでもない筈だが……。
「あ、ああ、そうだけどあんたは?」
「そうだな。サラマンダーとでも呼んでくれ」
サラマンダー?見たまんまだな。
不思議な魅力のある男だ。どこか人の懐に違和感なく入り込んでくる感じがある。
いや、ちょっと待てよ。今まで俺はこういう奴らに会ってきてないか?異形の姿を持ち、その姿そのままの名前で呼び合っている連中……。
俺はザワザワと心が騒ぎ、細胞が沸き立つかのような感覚を覚える。
「あんた、『黒の真言』か?」
俺はその男に尋ねる。
サラマンダーと名乗る男は、頼んでいた蒸留酒を一気に飲み干した。
「そうだ。つい最近そうなった」
男は隠すでも、誇示するでもなくそう言った。
「何しにきた?」
「あんたと戦いに」
「悪いな、気分じゃないんだ」
俺は本気でそう言った。
「え?そうなのか?困ったなあ。上司の命令だから戦ってもらわんと困るんだが」
「上司?誰のことだ?」
「えーと山羊って呼べって言われてるな」
俺はさらに感情が昂った。あの最初に戦ったとき、そして二回目に戦ったときの記憶が蘇る。心がざわつく。
ちっ。マズい酒になった。
たぶん、ここで戦わなけりゃ……強硬手段ってとこか。
「出ようぜ」
「場所は?」
「近くに俺が修行場所に使っている荒野がある
俺はさっき来た場所に舞い戻ることとなった。
◇
『……エイス様』
ディアが歩きながら俺に声をかけた。もちろん武装形態のままでだけど。
なんだ?
『あいつ相当強いですよ』
そうなのだ。こいつはどう見ても強い。てか正直、純粋なガチンコ戦闘をしたとしたら山羊よりも強いんじゃなかろうか。そう思わせるだけの圧倒的な何かをコイツは初対面の時点で感じさせた。
『殺す気で丁度いいのかもしれません』
ま、そうかもしれんな。
そして俺たちは荒野で相対した。
サラマンダーは上着を脱ぎ棄てると、荒野に放り投げた。
やはりとんでもない肉体だ。
肉弾戦タイプ、だよな?
「ああ、先に行っとくぞ。俺は自分の肉体を使って戦うけど、あんたは何を使ってもいいぞ」
――なるほどね。細かい駆け引きとかあんまり考えないタイプか。嫌いではない。
「ありがとよ。じゃ、行くぞ」
俺は、そう言った。
「いつでも」
サラマンダーは構えた。
俺は小手調べとばかりに魔弾を早撃ちした。
最近の訓練で、おそらくいつ引き金を引いたか分からないくらいに動作は早くなっている。
ガンッ!!!
サラマンダーは当たり前のように、魔弾に掌を向けた。
ドキャアア!!!
当たったな。荒野に轟音がこだまする。
「ほうほう。これが魔弾とやらかい」
モクモクとあがる煙の中から、素っ頓狂な感じでサラマンダーは言った。
無傷……ね。結界を発動する暇もなかった筈だが、生身で受けたのか?だとすると恐ろしい。
「じゃ、行くぜ」
そう言うとサラマンダーは獰猛な巨大な肉食型魔獣のように、ゆっさゆっさと身体を揺らしてこちらへ歩いてきた。
と、思うと凄まじい力で地面を蹴った。
大地が割れている。
は?
このスピード。信じられない。風魔法を使ったリタと同じくらいに速い、だと?
この巨体で?
「ぐっ!!」
俺は身体を捻った。
巨大な拳が俺の顔面近くに迫っている。
これは……駄目だ。受けたら死ぬ。
俺は反射的に、サラマンダーの拳に斬撃を食らわしてトリガーを引いた。
爆裂剣
先ほどとは違った轟音が荒野にこだました。
俺は、後方に大幅に吹っ飛び、受け身を取り損ねた。
いててて。あいつはどうなった?
サラマンダーは数歩後ろに下がって粉塵にむせていた。
……まさか無傷?
「いてててて、さっきのは結構痛かったぞ。エイスさんよ」
俺は鳥肌が立っていた。
と、同時にいつの間にか笑みがこぼれていた。
こいつ、多分今まで通りの俺だったら負けてたぞ?
おもしれえ、やってやるよ。
「おいディア。新技いくぞ」
「承知しました」
俺は魔族の無詠唱魔法を発動した。
何て言おう?
「えーまあ何でもいいや。魔族の魔法 重力操作」
俺はそれを試した。
正直、俺が無詠唱でそれを使っても現状、実用レベルではない。だが、ディアのサポートを得ることでそれは恐ろしい性能を発揮する。
最終魔導兵装シリーズは持ち手の性質や能力を最大限引きだすものだからだ。
「へえ、そんなこともできるんかい」
そんなこと、とは俺が浮いたことを指している。
これは地面と反発する力を生じさせたことで成し得たことだ。
「卑怯とは言わんよな?」
俺は一応確認した。
「言わねえよ。事前に言った通り、な」
俺は、反重力の力を止めると空からサラマンダーに斬りかかった。
だが、サラマンダーは受けに回る気は無かったようだ。
「おらあああッ!!!」
サラマンダーは凄まじい力で跳躍した。
とんでもない高さまで飛んでいる。
俺の重力操作の力を乗せた斬りつけとアッパーカットが交錯する。
再度轟音。
サラマンダーは地面に凄まじい力で叩きつけられて血を吐いた。
さすがにダメージがあったらしい。
俺もバランスを崩したが反重力の力で浮き上がる。
「くっくっく!!ははははッ!!!楽しいなぁオイ!!!」
サラマンダーは血を吐いて起き上がるや否やそう叫んだ。
楽しくねえよ。と言いたいところだったが、残念ながら認めざるを得ない。
だが、俺はこれ以上長引かせるつもりはなかった。
「まあ、楽しいとこ悪いけど、そろそろ帰らんと駄目なんだ。今日は料理当番でな」
「ああ?そう言うなよオイ。つれねえなあ」
俺は空から魔力を練った。魔法陣が形成される。力が集まり、髪が逆立つのを感じた。
銃剣がどこか、直方体のような円盤のような、山羊と相対したときとはまた異なった形状へと変形する。
「……おいおい、すげえなあんた」
サラマンダーは感嘆の声を上げた。
『安全装置解除。重力操作式闇魔導法「巨人の踏みつけ」の発動準備を完了しました。トリガーを引き、衝撃に備えてください』
「範囲と威力は絞ってくれよ」
『了解しました。エイス様』
聞きなれたディアの号令と共に俺はトリガーを引く。
ドギャアアアアッ!!!!
この戦いの中で最も大きな音が鳴った。
「ぐっおおおおお!!!!」
サラマンダーの周囲数メートル、深さ数十センチ程度、不自然な地面の凹みが形成された。
「っがあああああああ!!!!」
サラマンダーは叫び声を上げながら立っていた。
え?マジ?コレも耐えるの?
サラマンダーは強大な負荷を受け、叫びながらも笑っていた。
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