2_ダンジョン
〜リタ視点〜
「ホント、ずるいよ。いつも、ああなんだから」
ボクは頭を触りながらそう言った。頭ポンポンなんてド鉄板なマニュアル化された女垂らしスキル過ぎて、最早やるのも憚られる風潮すら世間にはあるとおもうのに、エイス先輩はあんな感じで邪心なくやってくるから非常に困る。
「それにしても、本当に上の連中は何を考えてるんだろう。あんなに強くて、色んなことができて、後輩に慕われてる先輩を追放するなんて」
ボクは、この組織に対する疑念を深めつつそう思うのだった。
【エイス視点】
俺は荷物を纏めると騎士団の門から出ようとしていた。だが、門の前に一人の男が立っていた。
スラッとした長身、黒い長髪。目つきの悪い眼差し。
九番隊隊長ジェミニアである。
口が悪い男で、何度も隊長を外されたり、また隊長になったりを繰り返している男。だが、その実力は折り紙付きで騎士団長から認められていたことでも有名だ。
「どこいくんだ?追放されたエイス君よ」
ジェミニアらしく、いきなり聞きたいことと、デリカシーのない言葉を同時にぶつけてきやがった。
「ま、当てはないよな。王都には行けないから最寄りの町を目指すけど、着く前に死ぬかもしれない」
「ま、今のお前じゃそうなるかもな」
そう言ったジェミニアは少しだけ寂しそうに見えた。
「ジェミニア、後は頼んだ」
俺は素行は悪いが、その実力と物事の真の姿を見抜く目に関して、団長から認められていた、この男に対して、そう言わざるを得なかった。
「ああ?なんで俺がそんなこと頼まれなきゃならねぇんだよ」
「お前にはその力があるからだよ」
「オレはオレのやりたいようにやるだけだ」
ジェミニアはそう呟くと後ろを振り向いた。
「ああ、そうだ」
ジェミニアは後ろを向いたままそう言った。
「何だ?」
「お前を嵌めた連中は多分オレも嫌いな連中だから、調べて潰しといてやるよ」
俺は少し笑いそうになったが、そう言って去ってゆくジェミニアの背を見届けた。
そんなやりとりを経た後、王立騎士団の拠点と寮を背に、荒野へと旅立った。
しばらく歩いた後で、俺は後ろを振り返った。
騎士団の旗が舞っている。
俺はそれを見て、ひどく何かを失った気持ちになった。仲間、栄光、努力。
そうしたものが全て無に帰した気持ちになり、心の底から大声で泣きたくなった。
俺は全てを騎士団へ捧げてきたのだ。
だが、俺はそうした諸々を噛み殺すと、荒野へと向かってまた歩き出すのだった。
俺はひたすら荒野を歩いた。
もちろん途中には魔獣も出るし、盗賊も出る。
俺は当然、魔力病の影響で魔力操作ができなくなっていたので、素の身体能力と剣の技術で戦わなくてはならなかったので、そこは大変苦労した。
魔力が使えれば、全くどうということはない。これでも史上No.4の早さで騎士団の隊長まで昇りつめた男だ。
だが、魔力が使えなかったらここまで苦戦するのか、と俺はわかりきっていることを再度突きつけられてまた気が滅入ってきた。
と、俺はそのとき背後に気づいていなかった。
魔力探知が使えないのでこういうことになる。
魔獣である。
しかも、まずい。熊型の魔獣だ。
俺は走って一目散に逃げるのであった。
熊の魔獣は走って追いかけて襲ってくる。
ああ、やばい。
ちょっとずつ詰められている。
くそ。このままじゃ死んでしまう。
と、俺は左の方向に崖があるのが見えた。
これは、もうとりあえず行くしかない。
俺は意を決してそこから飛び降りたのであった。
◇
痛てて。
あれ?生きてるな?結構高い崖だったように思えたんだが。
うーん。怪我もそんなにない。なぜだろう?
その理由は周りを見回してみてすぐに分かった。
鉱石風の壁、薄暗い景色、不気味な気配。
―――ここはダンジョンだ。
ダンジョン。
ときに冒険者が迷い込むと呼ばれる正体不明の迷宮。迷い込む場合もあるし、決まった位置にあるものもある。
きっと飛び降りた先にダンジョンの入り口があったのだろう。
で、直接下に落ちずに衝撃が緩和されたから、怪我も比較的軽かったわけだ。
ま、とはいえ万事休すだな。
ダンジョンの魔獣は、外にいる魔獣の強さの比ではないらしい。
俺の死はほぼ確定だろう。
まあ、あがいてやるさ、死ぬまでな。
俺は、とりあえず目印を置きながら前に進んでいった。
俺は、ひたすらに歩いた。
どのくらい歩いただろう?時間感覚もなくなってきたからよくわからない。
絶望感がひたすらに募ってゆく。
何か叫びでもしないとメンタルの安定を保てなくなりそうだ。くそ!
と、次の瞬間、俺は異様な気配にゾワっと肌が粟立つのを感じた。
生き物の気配がある……それもかなり大きな。
さらに、血の生臭い匂いと、何かが唸る声が聞こえる。
よく聞くとがつっとか、ぶちっとか、肉を裂くような音。
その音はこの絶望感に満ちた空間、思考の中、俺の気持ちを再起不能にするには十分な程の、凶兆を孕んでいた。
気がつくと、俺の視界が揺れている。
震えていたのだ。嘘だろ?この俺が?
そいつがいるのはこの曲がり角の先なのは間違いない。
壁づたいにそ~っと、その曲がり角の先を覗き込む。
俺は見たことのない光景に戦慄した。
全長3~4メートルはあろうかという巨大な虎のような獅子のような二足歩行の獣が、何かの肉を食らっている状況であった。
それは俺の知識の中にはない魔獣であった。
全身が黒く、体毛で顔がわからなくなっている。
その中で、目だけが、煌々と不吉に輝いている。
前脚、あるいは前腕がとても長く大きくて、鋭い爪がある。
生き物の種類が根本的に違う。
その獰猛さとか、凶暴さとかが外見から見て取るだけでも別物なのだ。
化け物。
最早、そんな表現しか思いつかなかった。
「―――っっ!!!」
俺は恐怖のあまり、叫びだしそうになり、手足や顎が震えていた。聖騎士団隊長として、それなりにやってきた矜持など、どこ吹く風だ。
震えにより、歯と歯がぶつかるガチガチという音を抑えるだけで精一杯だった。
とりあえず引き返すしかないか。
そして俺が前進を諦めた時、さらに想定外の事態が起きた。
背後から、別の魔獣の気配があったのだ。
俺は後ろを振り返る。
あ、あれは駄目だ。本格的にダメなやつだ。
マジで何なんだ?このダンジョンは。
巨大な筋骨隆々の二足歩行する牛頭の魔獣。巨大な棍棒を所持している。聞いたことがある。
ミノタウロスだ。
聖騎士団では最早、悪夢として語られている魔獣のうちの一体だ。
ど、どうする?
前門の虎、後門のミノタウロス。
俺はキョロキョロとあたりを見回す。
本当にどうすりゃいいんだ!?
と、そのとき暁光が生じた。
俺は右側の壁の色が変わっている部分を見つけたのだ。
これは聞いたことがあるぞ!
ダンジョンの隠し部屋の入り口はこういう風に色が変わっているものなのだ。ええい、やってやる!俺はその色が変わっている部分に即座に飛び込んだ。
◇
その部屋はかなり特殊な場所であった。
5メートル四方くらいの場所のど真ん中に宝箱が置いてある。
え?何?
まあ、明らかに開けるよな、この宝箱を。とりあえずは。いいのかな?別に俺はダンジョンのボスを倒したりしてないけど。
と、思いつつも俺はその宝箱を開ける。
中に入っていたのはすすけた一振りの剣であった。
ん?いや剣か?
俺の知っている剣とは明らかに形が違うぞ。どう見ても。俺はそれを手に取った。
全長120センチくらいか?
明らかに刃というものはついているが、珍しく片刃の刃だ。
で、その刃の背の部分に何かの機構がついている。
これは何だろう?
で、明らかに異質なのは柄の部分だ。両手で持つこともできそうだが、柄の部分が何故か奇怪に曲がっている。
こんなもん斬りにくくて仕方ないだろうに。
で、これも何なのか分らんけど、ここに指を入れて引っ張るような金具がついている。うん。わからん。だが、何なんだろう?この形状。独特の機能美のようなものがあって、心を惹かれる。
まあ、骨董品としての価値はありそうだからなあ。とりあえず持っていくか。でも俺の所持品の名剣バニッシュゲイズの切れ味には足元も及ばんだろうなあ、はっはっは。
『口を慎みなさい下郎。そのような凡百の剣と私を比べることすらおこがましい』
ん?
幻聴か?アラサーになると、こういう身体的な症状もでてくるのか。健康には気を付けないとな。いや、俺の場合はどちらかというとメンタルヘルス的な問題かもしれない。最近追放とかいろいろあったし……。
『メンタルヘルスの問題ではありません。私が語りかけているのだから当然のことです』
―――え?
誰?私?
『目の前で手に取っているでしょう』
俺が目の前で手に取っているもの……。
それは一つしかない。
「まさか、この剣が……」
『剣ではなく、魔導兵装です』
魔導兵装?大げさだなあ。
『口を慎みなさい』
口に出してないけど、まあいい。
「ああ、そうでしたか。失礼しました。いずれにせよ私は魔力病なんで、魔導兵装を使うことはできんのです。こちらにお戻しいたしますね」
実はギルドに売り払おうと思っていたが、やめよう。意識があるようなので何か申し訳ない。
てかなんなんだ?喋る剣?最早ワケがわからん。
俺の人生もここまできたか。
『あなたは下郎のように見えて、優しいのですね。ってあれ?あなたは、ま、まさか!?』
その剣は俺の思考を読み取ってそう言った。てか、さっきから言ってる下郎ってなんだ。
「まあ、知りませんが……。置きますよ?」
『あ、待ってください』
え?何?
『私を使ってくれませんか?』
はい?と俺は思いつつその剣を眺めた。
魔人の右腕はガンブレ◯ドみたいな見た目です。
お読み頂きありがとうございます。
ブクマ・評価・感想など、頂けましたら大変嬉しく思います!!
どうぞ下の☆☆☆☆☆を全て★★★★★にしていただければ感無量です。
よろしくお願いします!