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19/31

19_数日後①

あれから少し日が経った。


結局、俺たちは白狐の作った異空間から抜け出すことができた。本当に危ないところだった。あそこで対話をする、という提案をしていなければ、俺は魅了の魔力で中毒にかかり、黒の真言の仲間入り、というオチだっただろう。


とはいえ、俺はあの白狐が悪だと思い切れていなかった。俺は何かを忘れている、と指摘されたが、実際に俺とあの白狐は心の深いところで何かの繋がりがあるような気すらしていた。だが、それが何なのかは思い出せない。ただ、そう感じる、としか言いようがないのだ。


リタに関しては、その後はリタのままであった。

リタが白狐である、ということを知るのはベルナルド、ガイスト、俺、ジェミニアのみだ。


で、俺は考えた。

きっと俺が騎士団へ戻らなければ、白狐が騎士団を害することはないだろう、と。それに、リタと白狐の入れ替わりのスイッチは感情の起伏によるものが大きそうだ。まあ、ということであれば、俺の頼れる友人、リヒテルの魔道具でなんとか制御はできるような気がする。


「て、ことでジェミニアさんよ。この件は黙っててくれない?」


俺は来客用宿舎に来たジェミニアに諸々の説明をした。


「お前さあ、そりゃリスクが高いんじゃねえのか?白狐が騎士団を害さない、という件はお前の推測に依るところが大きいだろ?第一、言ってしまえば嬢ちゃんは半分魔族なわけだろ?」


ま、そうくるわな。


「それを言うなら俺だってそうだぞ?ジェミニア。それにな、俺は思うが最近の諸々の経験から魔族=危険ってのは根拠が薄いように思い始めている。それについてエックハルト団長が何か言っているのも聞いたことないしな」


「……ま、それはそうだがもう一つの問題としては、白狐はお前にご執心なんだろ?お前が騎士団からいなくなってリタがこのまま騎士団に残るとしたら、その白狐はまた何か仕掛けるんじゃないのか?そこをお前の御友人の魔道具で完全に抑え込めるとは、オレは思えねえぞ」


ふむ、ごもっともである。相変わらず正論を言う奴だ。だが!!


「それについては、俺に考えがある」


「なんだ?考え?」


ごにょごにょごにょ


「……エイス、そりゃあお前、茨の道ってやつだぞ」


ジェミニアは顔をしかめてそう言った。



俺はエックハルト団長の執務室に行った。少し忙しそうに見えるが、洗脳されていたころの面影は微塵もない。


俺は部屋をノックする。


「エイスです。入ってもよろしいでしょうか?」


部屋の中から、おう!!入れ!!!と大きな声がした。

俺はドアを開け中に入る。


「騎士団の身でないのに、こちらの部屋に入る失礼をお許しください。ここに来るまで誰も見られておりませんので」


俺は念のためそう言っておいた。


「――別に儂は構わんのだが……まあ、よい。座れ。繰り返すが今回の件はご苦労だった」


俺は促された通り椅子に座った。


「いえいえ。そう言えば今後の騎士団がどうなるのか、等伺ってなかったな、と」


「ああ、そうだな。ベルナルドとガイストの追放が正式に決まった。やはり奴らは事実を捻じ曲げて、騎士団を自分のモノにしようとしていたようだ。その点についてはそのように白状しよった。まあ、その手段等に不可解な点は残っておるがな。『洗脳の魔眼』という呪具はみつかったが、その対象は1名であるという。それは儂に使ったんだろう。だが、騎士団全員の記憶を有耶無耶にした呪具が見つかっていない」


なるほど、あいつら白狐のことは俺にしか言わなかったわけだ。まあ、白狐は怖えしな。ガイストはきっと俺に対する敵愾心で言ったんだろう。


「なるほど。では、団長は団長をやって頂けるんですか?」


「仕方があるまい。他に誰がいる?儂が候補として考えていた者は、冒険者をやる、とか言って儂の誘いを蹴りよったからな」


エックハルト団長は俺を見てそう言った。

うっ、視線が痛い。なんだこの2mの筋骨隆々の老人が醸し出すツンデレ感は。


「……光栄ですがそりゃ俺には荷が重いですよ」


「今だから言うが……ベルナルドはお前より年齢も上だし、そこそこ頭も回った。派閥闘争の融和を進めるために登用したかった事情もある。だが、確実に精神的に欠けているところがあり、それを儂は危惧していた」


ま、そりゃ確かに。


「だから、儂はお前にそれを支えさせようとしたのだ。そして、そう遠くない未来。ベルナルドがお前を認めたときに、お前に団長をしてもらおうと、そう考えていた」


……おいおい初めて聞いたぞ。だから過大評価が過ぎるってば。


「俺にできるのであればジェミニアにもできるでしょう?」


「……あいつはそういうポジションで輝くタイプではない。わかっているだろう?」


俺だってそういうポジションで輝くタイプではない、と喉元まで言葉が出かかったか俺は言葉を飲み込んだ。


「団長からの、その評価は俺の財産として、心に刻みます。ですが……俺はご存じの通り魔力病で、魔力としてはほぼ魔族のようなのです。詳しくは分かりませんが、そういう素養があったようで。騎士団の秩序のためにも、ここにいるわけにはゆきません」


「儂はそんな秩序を造った覚えはない。それに……そんなことは最初からアルデハイムからお前を任された時点で知っておる」


やっぱ魔力病を差別するのは、エックハルト団長の意向でないのか。

……って、ん?


「最初から知っていた?どういうことです?俺は知らなかったのですが?」


「……それはお前が」


エックハルト団長は、そこまで言いかけて珍しく言葉を飲み込む。


「……まあよい。それは儂の口から語られるべきことでない」

そして、断固とした口調で間をおいてそう言った。


「……メッチャ気になるのですが?」


「すまんな。ま、話は逸れたが、後3年は儂が団長をやる。そのときまでに儂の後継者を決める。そういうことだ。そこでお前に提案がある」


おいおい、サラッと重要なところを流しやがったよ。この爺さん。まぁいいや。こうなったら言ってくれないだろうし。


「提案?」


「冒険者であるお前と顧問契約を結びたい」


「顧問契約?」


「ああ。お前の経験と人間性は貴重だ。騎士団の人材育成アドバイザーとして、協力してほしい。まあ、お前の来れるタイミングで来てくれれば構わん。剣術の指導や模擬戦、あとは若手の悩みの相談に乗ってやってくれ。勿論、契約料は十分な金額を用意する」


ふむ。でもなあ。


「よろしいので?俺が魔力病というのは知れ渡っていますし、よく思わない者はいる筈ですが」


「魔力病云々言う者は儂が黙らせる。お前にしかできないんだ。頼む」


エックハルト団長にここまで頼まれては断るわけにはゆかない。


「わかりました、その契約。謹んで結ばせていただきます」


俺のその言葉にエックハルト団長はいつもの魅力的な笑みを浮かべた。


「さて、あと一つ、俺からも報告したいことがあります」


「なんだ?」


その俺の報告にエックハルト団長は豪快に大笑いした。



遡ること数時間前。


俺が向かったのはリタのところだ。

リタはあの後しばらく気を失っていて、まだ負傷者用宿舎で静養していた。

いつもは負傷者が結構いるのだが、今日に関してはリタしかいなかった。好都合なことに。


「あ、色魔……じゃなかった。エイス先輩」


しき?しきまって何だ。

リタはどこか顔を赤くして、目を合わせずにそう言った。

ああ、あれか。あのとき何かを思い出して白狐を抱きしめた後に、リタが元に戻ったからリタを抱きしめた感じになった。そのセクハラに対して思うところがあるのだろう、おそらく。それくらいはわかるぞ。


「リタ、この間はすまなかった。セクハラでコンプラ案件だって言いたいのはわかるよ。でも俺は既に騎士団の人間じゃないんだ。許してくれとしか言いようがない」


リタは俺のその言葉を目を合わせて聞いてくれていたが、すぐにまた目を逸らす。


「……そういうことじゃないし。てかエイス先輩ってセクハラとかコンプラ気にしすぎ過ぎてて、それがむしろボク個人としてはある意味ハラスメントと思うことすらあるっていうか、ハラスメントの本質を押さえていないっていうか何て言うか……」


ん?何?ブツブツなんか言ってるけど、声が小さすぎて聞こえないけどまあ、許してくれたという前提で進めよう。


「で、そんなリタに更なるセクハラ、コンプラ違反発言をするので、心して聞いてはしいんだが……」


え?何?という感じでリタが俺の眼を上目遣いで覗き込む。

俺は息を吸い込んで覚悟を決めてそう言った。


「一緒に暮らそう」


……沈黙。


「……え?何ですか?」

いや、結構大きい声で言ったぞ?しゃあない。もう一回言おう。


「だから、一緒に暮らそう」


「え?え?ちょっと待って?え?」


リタがテンパってその大きな黒目がぐるぐると回っている。

いや、確かに唐突なのは分かるがそこまで?

やばいぞ。白狐出てこないよな?


「もう一度言うぞ?一緒に暮らそう」


今度はリタは俺の方を直視したまま固まった。

俺の方を向いてるように見えるが、後ろの景色を見ているようにも見える。


……そして、そのまま固まり続けていた。


ん?なんだ?大丈夫か?


「リタ!おおいリタ!!」


あ、まずい。


これは……目を開けたまま気絶している!!

本当にマズい!白狐が本当に出てきてしまう!!


と、俺は本気で心配したが、白狐は出てこず、数分後、リタは目を覚ました。

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