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18_白狐

俺は考えた。


きっとこういうことだ。

断ればさっきの幻のような効果を無限にでも続けることもできるのだろう。俺を自分のものにするまで。魔法がかかりきるまで。それがコイツの魔力であり、この空間では可能だと言うことだ。


あるいは、さっきは魅了魔法のような効果をサラッと見せてきたが、逆にとんでもない苦痛を与えたりもできるかもしれない。


と、俺が思考していると白狐が口を開いた。


「エイスよ。教えておいてやる。この空間は時が流れていない。ここで起きたことは精神に対する作用以外はなかったことになる。しかも先程のように其方にわらわの魔力の影響を与えることができる。永遠にでもな。それを踏まえて言う。わらわと共に来よ」


ふう。絶望的なご説明どうも。

認めよう。まぁもう負けたようなものだ。


……それにしても、何でコイツは俺に執着しているんだ?てか、フツーいきなり来いって言ってくる奴がいるか?そりゃコイツは魅了の魔力持ちだから、半分、中毒状態にして強制的に連れて行けるんだろうけどさ。


……俺は最後の可能性に賭けることにした。


「あー。うん、いやわかったよ。わかった。でもな、現状、気持ちとしては基本的には嫌だ。何故なら俺は黒の真言の皆さんがあまり好きじゃないからだ。ただ、俺は人の話はちゃんと聞く人間だ」


白狐は相変わらず、無表情な目でこちらを見ている。


「だから、俺に言うことを聞かせたいのなら、対話という手段をとってくれよ。何も知らないまま連れて行かれるのはイヤだ」


そう言い放った後、俺は白狐の方を見据えた。無表情だった目が少し、宙に浮いている。キョトンとしている、と言ってもいいかもしれない。


「対話?対話とな……?必要か?今の其方に」

本当に疑問に思っている顔だ。


「ああ、必要だね」


「わらわは今さっきやったように、時の流れていないこの空間内で魅了なり誘惑なりの魔法を使い続けて、思い通りにするつもりだったのだが?」


やっぱりか。まぁこの空間内で半永久的にさっきみたいに、ずっと掛け続けられたら完全に操作されるわなそりゃ。


「まぁ、それでも白狐(あんた)としてはいいのかもしれないけど、それって意味あるか?俺があんたの立場だったとしたら、相手を納得させるのに魅了の魔法を使うより、自分の言葉を使った方が、正しい方法だし、達成感を感じるし、相手としても納得感を感じる、気持ちの良いやり方だと思うけどね」


俺は、圧倒的に優位に立つ白狐に対し、何を言っているんだと我ながらツッコミたくなったが仕方ない。これが本音なのだ。


「……ほう。そう考えたことはなかったのう。其方を見る限り無駄だと思っていたからな」


白狐は真剣に考え込んでいた。


「いいだろう。対話とやらをしてやるよ」


白狐はそう言った。


「対話の前に共通認識を作っておく必要がある。そもそも、其方は魔族というのが何なのか知っておるのか?あと魔人と魔獣についても」


「知らんなあ」


魔族は第一次人魔大戦でそのときの文明とともに滅びた。そのあと復興した人族と災厄化した魔獣との戦争、第二次人魔大戦があった。今はそこから立ち直りつつある世界。そのくらいしか知識はない。あとは、人間側に勝利をもたらしたという人為的な魔族、魔人か。


「……ふむ、まぁよい。では魔族は悪であると思うか?」


「うーん、昔の話すぎてわからんな。第一、戦争になったんだろ?それぞれの正義があるだろうよ。魔獣が人に害を成す悪だから、何となくそれに近そうな魔族も悪、てのが世間の常識なんじゃないのか?だが、個別具体的な事情を考慮せずに、ざっくり全体を見て感情だけで悪、とするのは俺は違うと思うぞ」


「……ふむ」

白狐は考え込んでいるようだった。


「其方は、なかなか興味深い考え方をするな。まぁ当然と言えば当然であるが」


当然?


「まぁ別に俺はそう考える、というだけさ。騎士団は基本は魔族が徹底的に嫌いだしな」


「ふむ」


「ならば教えよう。わらわは第一次人魔大戦で、魔族と呼ばれた存在に、最も近しい者の一人だ」


……。

まぁ、そうかもしれんな。明らかに魔族の魔法使ってたからなぁ。それにしても、絶妙に難しい言い回しだな。完全には第一次人魔大戦時の魔族ではない、ということか?


「あんたは第一次人魔大戦のときからずっと生きてるのか?」


「いや、この魔人の門の中の隔絶空間で眠っていた。先ほども申した通り、この空間は時が流れない」


「じゃあ、あの黒の真言の連中は?」


「あいつらは魔族の子孫やら、魔人やら、それに協力する者の寄せ集めだ。一部、わらわのように、当時を知る者もいるが、それは少ないな」


なるほど。


「あんたもそこの幹部なんだよな?」


「まあ、な。自分の目的のために比較的自由に動かさせてもらっているが。ま、取引上の関係だな」


「自分の目的?」


「そんなもの決まっておろう。其方を完全にわらわのモノとすることだよ」


……。

決まってるって言われてもなぁ。


「なぁ、何でなんだ?何故そこまで俺に執着する?俺を魔力病にしたのもあんたなんだろ?」


俺は少し感情的になっていた。


「……やっぱり、あなたは本当に覚えていないのね?」


その眼差しを見て、声を聞いて俺はドキッとした。


急に白狐が口調を変えて、俺の眼を覗き込むようにして悲し気にそう言ったからだ。


そして急に胸を締め付けられるような気持ちになった。


このとき、俺は、おそらく対話を諦めていたのはコイツなりに何らかの意味があったのだ、とそう直感した。


「……ああ、覚えていないな。だが……」


「わらわが、そなたを現在、魔力病とか言われている症状にしたのは確かだ。でも、それはそなたを在るべき姿に戻そうとしただけ……」


白狐は、少し悲しそうに下を見た。


「あるべき姿?」


「そなたが何も覚えていない以上、これ以上は説明できないよ」


……。


「まあ、よく分からないけど、何か重要なことを覚えてないのは大変申し訳ないんだけどねえ。俺からしたら急に魔力病にされて、自分の居場所を失ってショックだったんだよ。ま、蓋を開けてみたら冒険者も悪くない生き方だったがな」


俺は笑ってそう言った。

それを見て、白狐も少し微笑む。その優しい、と言ってもいい笑顔を見て俺は心臓が跳ねるのを感じた。


まるで、俺の心の奥底の深い、誰も立ち入れない領域に易々と立ち入り、小石を投げられ、波紋を立てられたような感覚。一体コイツはなんなんだ?


「その口ぶり、魔力、モノの考え方。間違いないよ。お前はエイスだ」


……はい?一体何を言い出すんだ?当たり前じゃないか。


「いや、そりゃ俺はエイス=インザフォールですけど?」


「違う。…………だ」


……え?

俺はそうして俺をまっすぐ、焦がれるような、求めるような目で見据える白狐を見て、言葉を聞いて全身に電撃を食らったかのような衝撃が走った。そしてその後、ざわざわと鳥肌が立つ。


俺はエイス=インザフォールだ。


だが、俺は白狐が告げたその名に衝撃を受けたのだ。どんな言葉よりも雄弁にその名は俺の心を動かした。いや、違う。何かを呼び起こした……のか?


そして、その名に込められた情報は同時に白狐の心境を俺に伝える役割も果たした。


悠久の孤独。そのために白狐は最初、あんな無感情な冷たい目となっていたのだろう。


俺は、このリタの肉体を持った白狐という女に対し、何かをしてあげるべきなのだと思った。だが、どうすればいいのかがわからない。


「なあ、白狐よ。その白狐ってのは、黒の真言での呼び名なんだろ?お前自身の本当の名前はなんていうんだ?」


俺がそれを聞いたその瞬間、どこか優し気な、人間らしい目つきに白狐は戻る。


「……アリス」


そう言った瞬間、白狐の目に涙が浮かんだ。

その瞬間、また俺の頭の中に何かの風景が一瞬だが鮮明に映る。アリス?ああ、アリスか。


俺は気づくと白狐を抱き寄せ、抱きしめていた。華奢な身体と体温と鼓動を感じる。


白狐、アリスは俺に身を預けた。その華奢な身体は、震えていた。俺がイメージできないほどの哀しみと絶望感そうした抑圧されていた感情を解き放っているかのように俺は感じた。


「……そなたは、わらわのものだ。もう何処へも行かせない」


白狐は小さな、消えいるような声でそう呟く。



そうして、少し時間が経った。


・・・・・・・


「あ?あれ?なに?って、え?先輩?」


ん?


俺は白狐から離れてその顔を見た。


この顔は……リタだ。


あ。元に戻った。


「あれ?エイス先輩?なに?なにがあったの?いやいいんだけど。でも何が何だかよく分からないから、よくないか。ってあれ?何言ってるんだろ?」


リタは顔を赤くして、しどろもどろになっている。


「うーん、ま、説明するわ」


今度は俺が説明する側になった。


沢山の方にお読み頂き感無量です。ありがとうございます。


さて、ここで皆さんに大切なお願いです。


ちょっとでも心に引っかかったものがある方は、ブクマ・評価・感想など、頂けましたら大変嬉しく思います!!正直、底辺作家と呼ばれる段階を抜け出すのが目標なので、次回作に力を入れてほどほどに描くか、こっちメインで継続するか迷っている段階だったりしてまして……笑


どうぞ下の☆☆☆☆☆を全て★★★★★にしていただく等、反応を頂ければ幸甚に存じます。


もちろん、なかったとしてもお読み頂いただけでも感謝の想いは変わりません。自分の実力ですしね。


よろしくお願いします!


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