17_リタ=ホワイト
【ベルナルド視点】
最初に私がそれを思いついたのは、そういう呪具の存在を知ったからだ。
洗脳の魔眼と催眠の邪眼。
それがあれば、エックハルト団長が一線を退くタイミングに合わせて皆の記憶とエックハルト団長の記憶を有耶無耶にして、事実を捻じ曲げることができる。そうすることで王国騎士団を自分の望むものにできる。それを思いついたのだ。
私は数年前からその案を抱えていたが、そのときに出会ったのが、「黒の真言」の連中だ。
洗脳の魔眼は呪具として所持している。催眠の邪眼は手元にはない。だが、どちらの効果も、とある幹部が魔法の力で同じ効果を発現させることができる、ということだった。
奴らの提案は、その幹部を王国騎士団に提供する、というものだった。しかし、その提案には穴がある。どう見ても奴らの見た目は部分的に人間離れしており、魔族然としている、とも言えたからだ。
そのため、黒の真言の幹部「白狐」は完全に人間に成り代わることとした。とあるスラム街で一人、死にかけていた女児と契約し、肉体と人格を共有する術を使ったのだ。そのため、その女児リタの中には、リタ自身の人格と白狐の人格が同居することとなった。
なぜ白狐がそこまでしたのか?それは元六番隊隊長エイス=インザフォールが影響している。あの男は何故だかわからないが、魔族の魔力を持てる素質を有していたらしい。しかも凄まじく高いレベルで。現在、伝わっている方法では何かの儀式を行い、SSR級の消費型呪具を使うことで、低確率で人間は魔人となるそうだ。
だが、エイス=インザフォールは、白狐が魔族の魔力を送り込むだけで、魔族の魔力を覚醒する、ということらしかった。
まぁ問題はそれなりの期間、薬を飲み続けるように摂取しなければならない、ということだったようだが。私個人として思っていたのは、騎士団から追放してから魔族にすれば良かったのではないか?というところだが、何かの理由があるらしい。
そのためなのか偶然なのか、リタ=ホワイトはエイス=インザフォールと親密になっていった。そして、要所で白狐が現れ、そのスキームを実施していったのだ。
そして、魔力病、即ち魔族の魔力をもったエイスを追放し、ヤツらの拠点へ引き込む。そういう予定だった。
私にとって想定外であったのは、エイスが奴らの仲間にならなかったことだ。そして、奴らの仲間としてでなく、武装した人間として魔族の力を行使していることだ。それにより、私の計画は崩れ去ってしまった。
だが……「黒の真言」の、いや、白狐の目的はまだ続いている。
リタ=ホワイトである時間は白狐の人格は基本的には出てこない。ややこしかったのが、リタ=ホワイトが我々の計画に気付き、妨げる動きをしたことだ。リタをコントロールし切れなかったのは白狐としても想定外だったのだろう。
感情が揺れたときに、リタと白狐が入れ替わりやすくなる傾向が見られたので、我々としては、極力、そうした状況を作り、白狐とリタのバランスをとるしかなかった。
白狐とリタ。
どちらも共通しているのはエイス=インザフォールに対する強い愛着だ。本当にどちらの人格においても、エイスを強く欲しているのだ。
その心は同様なのに、どちらの人格になるかで、取るべき行動が真逆なのは我々としては面食らったが。
まぁ、我々としてはどうでもいいが。計画は失敗に終わったのだから
【エイス視点】
「……ほう、魔弾か。それに、それは銃剣だな?……となると……」
白狐がこちらを見据える。
やはり後ろに飛んだだけで無傷だ。おそらくあの魔力で具現化したであろう服に、防御効果が付与されている。
「おい、ディア。あのダンジョンで山羊相手に使ったアレいこう。リタを傷つけたくは無いが、たぶん殺す気で行っても足りないくらいだと思う」
俺は、白狐の着ている魔装に込められた膨大な魔力を確認しつつ、ディアに語りかけた。
『ええ、わかりました』
銃剣が変形する。例の筒のような形だ。
『安全装置解除。荷電粒子収束光魔導法 極光銃の発動準備を完了しました。トリガーを引き、衝撃に備えてください』
と、前使った時のままの文言をディアが言った。
俺は前、肩が外れた反省を生かし筋肉をガチガチに固めてトリガーを引く。
と、白狐の周りで何か円形のものが浮遊しているのに俺は気づいた。
1、2、3……合計8つか。
『しまった!間に合わない!』
ディアが何か言っているが、その瞬間強烈な光と轟音を俺は浴びた。
え?何で?
俺が前方に向けて放った光が何故俺の方へ?
ああ死んだな。
・・・・・
と、思っていたら俺はよく分からない場所にいた。ここはどこだ?
俺はあたりを見渡す。
とてつもなくだだっ広い空間だ。
どことなく無機質な雰囲気すらある。
これは何なんだ?
『エイス様、やられました』
ディアが絶望的な感じでそう言った。
「え?何?生きているの?」
『ええ、生きてはいます。ただ、現在、白狐が作り上げた空間の中に閉じ込められました』
空間を作り出した?え?どう言う意味?
『7番目の最終魔導兵装シリーズ 魔人の門を白狐は所持していたようです』
え?
『魔人の門は、空間を作り出す兵装です。その空間内で何が起こるかは本人の魔力の性質次第です。この場合は白狐の……』
おいおいマジかよ。
やはり最終魔導兵装シリーズは…第一次人魔大戦は恐ろしい。
俺はつくづくそう思った。
空間魔法は実現不可能だと言われている伝説的な魔法だ。それを技術の力を加えることで実現してしまっていたと言うわけだ。
これから奴からしたら俺のことを煮るなり焼くなり好きにできるということかい。
大変厳しいな。
そのようなことを考えていると、俺の手元からディアが消えた。
え?何だ?何が起こった?
そして俺がいたのはベッドが一つ置いてある別の部屋だ。
そして……これは?幻覚か?
俺の目の前に白狐が立っていた。それも二人だ。
そして、一人目の白狐は俺の前に立ち止まると上着を脱いだ。白狐の二の腕や首筋の透き通るような白い素肌が顕になり、俺は鳥肌が立つのを感じた。
俺は白狐がこれからやろうとしていることが理解できた。
まずいな。
先刻、手を差し伸べられただけで、魅了の魔法にかかりそうになった中で、正直、乗り切れる自信がない。
そして、二人目の白狐が俺の横から俺の腕に寄りかかる。そこそこに豊かな胸が俺の腕に当たっている。そして俺に体重を預けて、ベットに座らせた。
一人目の白狐は相変わらず俺の目の前に立っていたが、俺に覆い被さるようにベッドに座った。その目がトロンと涙で潤んでおり顔がやや上気だって赤くなっている。
さすがに、これは俺にでもわかる。無表情で抑制されてはいるが、欲情した女の顔だ。
不意にフワッと甘い、女の香りが俺の鼻腔を撫でる。
俺なのか白狐なのかは分からないが、そういう互いの心のようなものが、部屋を官能的な色がついたような空気に染め上げる。
俺は流石にマズイと思い抵抗し逃げ出そうとした。
「……動かないで。これから其方をわらわ達のモノにするから」
俺の横に座った方の白狐が、俺の耳元で掠れた声でそう囁いた。暖かい吐息が耳に当たる。俺は本当に動けなくなった。
白狐は、俺の唇に唇を重ねた。
柔らかな感触。
そしてその後、その舌が俺の舌に絡み付いた。俺もそれに反応して、舌が動いてしまう。白狐はそのとき走った感覚に不意にくぐもった声をあげた。
さらに俺はそれに反応し、自ら白狐の、あるいはリタの、その華奢だが女らしい身体を押し倒したのだった。
・・・・・・・
『エイス様!!』
ディアが俺に声をかけた。
幻?夢?
……俺はいつからか白狐の術中に嵌っていたらしい。
いつからだ?
と、目の前から白狐が現れた。
そして、俺の前までゆっくり歩き、立ち止まる。
「エイスよ。もう一度言うぞ。わらわと一緒に来よ」
白狐は俺にそう言った。
領◯展開のような感じですかね。
前回の後書きで触れておりました通り、ぼちぼちタイトル変えようかな、と思っていますので活動報告も見ておいていただければ幸いです。