14_side:王国聖騎士団④
【リタ視点】
「それでは騎士団会議を執り行う」
ベルナルドは大袈裟に、厳かな雰囲気を演出してそう言った。
「早速だが手元の資料の最初を見てくれ。最重要案件の人事に関する件について、だ。隊長諸君は皆、目を通してくれておいたことと思う。こちらについて意見のあるものはいるかね?」
手元のレポートの最初の部分には、デカデカと、
①団長エックハルトの相談役への役職変更
②副団長ベルナルドの団長への昇進
③ガイストの副団長への昇進
と書かれている。
「いずれはそういう流れにならざるを得ませんからな。早いか遅いかの問題。よろしいのでは?」
「私は、早い方が良いかと思っております。ベルナルドさんしか適任はいない。ベルナルドさんの後任も、連携が密なガイストさんなら務まるでしょうしな」
「私も同意します」
と、賛同の声が続々と挙がった。
「反対意見はありませんか?」
この空気で言えないよね、とばかりに団長派の方を敢えて見据えてベルナルドは言った。
「はーい。オレ反対」
その場の空気に似つかわしくない態度でそう言ったのは当然……九番隊隊長のジェミニアさんだ。
ちっ、コイツか、とあからさまに忌々しげな態度をとるベルナルドとガイスト。
「なんだ、貴様かジェミニア。神聖なる騎士団会議の場だぞ。それを弁えた上での発言を望むぞ」
「反対意見がないか?って聞くから挙手したんですけど?」
ベルナルドの顔がさらに曇る。
「言ってみろ」
「まず、この会議意味あります?」
ジェミニアの物言いにボクは正直、吹き出しそうになった。
「……それはどういう意味かな?」
「いやね、議長自身の人事に関して、議長が仕切って賛否に関して意見を求めるっておかしいですよね」
室内がザワつく。確かに一理ある。
「何が言いたい?」
「……まぁシンプルに言うと、団長を出せ、って話ですよ」
ジェミニアが三白眼でベルナルドを睨む。
「会議の運営に関しては、団長から私が一任されているのでね」
「本件に関する限り、それは適切でないと考えまーす」
ジェミニアが相変わらず軽い感じで正論を言う。
……確かにそうだ。イヤ、待てよ?
「ボクもジェミニアさんに同意します。と、言うより一任された、って話いつからですか?ボクの記憶では、いつの間にか気づいたらベルナルドさんが仕切ってたイメージなんですけど……」
「貴様!口を慎め!!副団長が嘘をついているとでも言う気か!」
急にガイストが怒鳴り出す。
「おいガイストさん。『神聖なる騎士団会議の場』とやらだぜ?穏やかじゃないんじゃねえの?あと声量も神聖感が出るように良い感じに調整した方がいいんじゃないのか?」
ガイストは顔を赤黒くしてワナワナと震えている。ベルナルドも自分の先程の発言を利用されて腹が立ったのか、ジェミニアを睨みつけた。
ボクは今度は本当に吹き出しそうになったが、なんとか耐え抜いた。極少数の団長派の中にはクスクスと笑っている連中もいるくらいだ。
「てか、この件、団長が相談役に着任、となってるけど、そもそも団長はご存知なんですか?」
「しつこいね、君も。この件は勿論、事前にお知らせしているさ。もっとも、そう言った件も含めて団長は私に一任する、と仰ったのだが」
ベルナルドは最早忌々しさを隠そうとしない。
「なるほどね。で、確認したいんですけど、皆さん団長に最後いつ会いました?」
ジェミニアの発言に対し、一同ポカーンとする。やはりか、ここにいる誰も覚えていない。
「そ、そういえば……」
「いつの間にかいなくなっている」
「え?何でだ?そういえば騎士団会議とか出てた筈だろ?」
一部のメンバーが違和感を訴えた。それに対し、ベルナルドがさらに忌々しげな顔をしている。
「ベルナルドさん、いつからでしたっけ?」
「そうだな、確か半年前の騎士団会議で私に権限を委譲してからは、表舞台に出られていなかった筈だが?」
ベルナルドはスラスラと答えた。
「それについて記憶している方は?」
誰も答えない。
「覚えていないのは君たちの問題だろう、なぁガイスト君?」
「ええ、議事録を参照しても、そのように記録されています」
「そうですか?では、ベルナルドさんは直近ではいつ、どこで団長と話されたんですか?」
ジェミニアの三白眼がベルナルドを睨む。
「……勿論、この件を相談する際に話をしたさ」
「オレはいつ、どこで、と聞いたつもりでしたが言葉を正確に使って頂けませんか?」
ジェミニアは凄い、とボクは思った。本当に相手を叩きのめして、自分は去るつもりで発言している。ボクではこうはいかない。
「一週間前に私の執務室に立ち寄って頂いた際だ」
「へぇ、では今はどちらにおいででしょうか?」
「そりゃあ、彼の屋敷だろう。彼は半分隠居生活を送っている筈だからな」
ガイストが口を挟んだ。
「おい、リタ。一走りしてエックハルトのオヤジの屋敷に行ってきてくれ。騎士団会議の議題で確認したい点がある、とな。お前の脚なら、そう時間はかからない」
「あ、は、はい」
「ジェミニア君!そうだ!忘れていたよ!彼は私がその話をしたときに長期の旅行に行くと言っていたよ!その間は君に任せる、と私に言ってね。全くあの方は自由な人だからなあ!!だから屋敷にはいない筈だ!」
ベルナルドはガイストの発言をこのタイミングで覆してきた。最早なりふり構う気は無いようだ。
「……エックハルト団長は旅行に行っているんですね?」
「ああ、そうだ!だから確認はできない!」
「それは確かなんですね?」
「くどいな!何度言わせるんだ!」
「だ、そうだぞ?エイス」
え?
ジェミニアがそう言った瞬間、この場に現れる筈のない人間が二人、現れた。
一人は、
元六番隊隊長にして現冒険者のエイス=インザフォール。
エイス先輩だ!
そしてもう一人は……
200センチはあろうかという長身に、岩のような筋肉。そして白髪と白い口髭。射るような視線。
間違いない。
エックハルト団長その人である。
「だ、団長?何故ここに?」
ベルナルドは開いた口が塞がらない様子であった。ガイストに至っては顔面が蒼白になっている。
「久しぶりだな、ベルナルドよ」
「お、お久しぶりです、団長」
「いや、一週間って久しぶりに入るのか?ベルナルドさん」
ジェミニアがまた茶々を入れた。
ベルナルドは顔を紅潮させ、ジェミニアを睨むことしかできない。
「まあよい。皆の者よ。忘れているかもしれんが、儂が半年前程前からベルナルドに権限を委譲し始めたのは事実だよ。ただ、現在のような性急な形ではないがな」
エックハルトの迫力に誰も発言することができない。
「儂が考えていたのは、ベルナルドに案を考えさせ、それをここにいるエイスを含む各隊長が支える。そして、ジェミニアのようなが誤った方向に進むのを止める、そんな形であった。まぁ要は儂が持っていた権限を分割して進めるような形だった」
そこまで聞いて、ベルナルドは下を向いてしまった。他の隊長達はザワザワと騒ぎ始める。
「だが、今思えばそれで納得する貴様では無かったのだろうよ。ベルナルド」
「それで、オレ達を集団催眠にかけた、ということか?」
ジェミニアが核心に触れた。
「し、集団催眠だと!?」
周りの隊長も最早驚きを隠さない。
そして、ここまで黙っていたエイス先輩が口を開いた。
「ああ、そういう呪具があるようだな。勿論、何らかの制限があるから、騎士団員の直近の団長に関する記憶を、あやふやにするのに使ったんだろ。多分ガイストの屋敷を捜索したら見つかる筈だぞ?」
「そもそも呪具の所持って禁止ですよね?」
ボクはそれをガイストに指摘した。
「あ?そう?知らなかったよ!いや、コレクションですよ。断じて使用はしておらんよ!」
……どこに呪具を集めて喜ぶ騎士団隊長がいるんだよ。
「まぁ良い。その罪には罰があるとして、だ。問題は儂にもそれが使われていたことだ。内容は『ベルナルドに騎士団に関する全権限を委譲し、今後、口を出さない』というところか?」
ベルナルドの顔面は最早、蒼白に近かった。
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