13_団長
【エイス視点】
そうして、「黒の真言」の連中は去っていった。
俺は、変わり果てたジョシュを埋葬すると、リヒテルに話しかける。
「なあ、リヒテル。お前あいつらのこと知ってそうだったよな?なんなんだあいつら?」
「言ったろ。ギルドのブラックリストでSSランクに指定されている超危険な邪教徒集団だよ。お前も見た通り、呪具であったり、「魔族の魔法」に深くかかわりのある連中だから誰も手出しが出来ない。僕も初めて見たな」
リヒテルは、ここまで言い切ると俺の眼をみた。
「そして、もっとヤバイことに、人を魔族化する術。言い換えると魔人を造る術を知っていると言われている」
……やはりか。あの儀式は魔人を造りだそうとしていた、というところか?失敗、というのは魔人ができなかったからか。
「……で、そんな超危険かつ、呪具にも詳しくて、魔人を造りだせる術が使える連中が王国聖騎士団と癒着している、ってことは俺はあいつらに魔力病にされたわけ?」
「ま、直接的か間接的かはさておき、関りがあるのは間違いないだろうな」
……ふむ。
とはいえ、俺はベルナルドやガイストに何かを直接的にされたわけではない。「黒の真言」に出会ったのも最近のことだ。そういう呪具や魔族の魔法に詳しい誰かに気づかないうちに何かをされていたのか?何かを見落としている気がする。
見えない実力者、というか陰から何か影響を及ぼしている誰かの存在を感じるのは気のせいだろうか?
「で、お前用は済んだ訳?」
リヒテルは考え込んでいる俺を見てそう言った。
「ああ、そうだ。色々あって忘れてたけど、まだ頼みたいことがあるんだよ」
「何?」
「まず、俺が助けた女の子のための薬と、あと魔道具を見繕ってくれよ。二種類ほど」
「二種類?」
「ああ一つは催眠解除系のものを頼む。もう一つは……まぁ、鑑定系というかなんというか」
「鑑定系?」
「ああ、あの連中と騎士団に繋がりがあるとしたら、ベルナルドとガイストがやってることは概ね想像がつく。おそらく俺の考えが正しければ、お前の作ったアレを準備しておけば、やつらのやってることを暴ける筈だ」
俺は考えをリヒテルに具体的に説明した。
◇
さて、と。
最近思いついたことがある。
黒の真言と騎士団のベルナルド派には繋がりがある。と、なると色々と奴らにできることが増えるのである。
俺は違和感を感じていた。
いつの間にか騎士団をベルナルドに任せて忽然と姿を消したエックハルト団長。
まぁ、けっこう自由な人だったからそういう事も無かったといえば嘘になるけど、それにしても今回は不思議だ。
確か、半年前の騎士団会議で権限を分散しつつ、徐々に体制を移行する、ということは言っていた気がする。
だが、蓋を開けてみれば、そんな状態では全くなく、ほぼベルナルドが独裁政権を敷いていた。
俺は、おかしいと思い何度もベルナルドと話し、ときには強引な行動を阻止し、エックハルト団長の描いたであろう絵の通りになるよう、行動したが、しまいには追放された。
明らかに不自然だったのは、エックハルト団長が姿を表さなくなったこと。そして、それに対して誰も何も言わなかったことだ。
ベルナルドの強引なやり方を批判して、反対する者はいたけれども、エックハルトがいないことに疑問を抱く者は誰もいなかったのだ。いや……まあ普段から自由な人、というのは絶対影響してるけど……。
今ならわかる。
おそらく何らかの呪具によって騎士団全員にベルナルド達が集団催眠をかけたのだ。勿論、騎士団全員に催眠をかけられる呪具など強力すぎて存在するかは怪しい。
だが、おそらく。
たとえばちょっと記憶を有耶無耶にしたり、起こった事象に関する記憶の時期を変えたり、忘れさせるような作用くらいであれば、実現可能だろう。
例えば、エックハルトが忽然と消えたのでなく、いつの間にか自然と消えていた、という風に。
そして、エックハルト単体にはより強制力の強い催眠なり洗脳なりを、かける。全盛期のエックハルトならまだしも、今の団長ならかからないとは言い切れない。
そうすれば、いつの間にかベルナルドとガイストのやりたい放題にできる既成事実が積み上がった騎士団の出来上がりである。なぜなら、有耶無耶になっていない、素の真実を知るのが二人だけだからだ。
で、俺が追放されたのは、俺が何らかの理由で全てを覚えていたからだろう。もしくは、憎き俺だけは、より屈辱を味わわせて別の方法をとったか。
ま、兎にも角にもベルナルドとガイストは結構前から準備して、この騎士団乗っ取りのスキームを作っていたんだろう。なんとなく事前に準備された、計画的犯行の匂いがする。
そんな中、俺がやるべきことは何か?
決まってる。真実を暴き出す、ということだ。なぜなら俺は洗脳されなかったのだから。
そのためには何を成せば良いか?
エックハルト団長を探し出せばいい。それが出来れば、ベルナルドとガイストの企みはかなり崩せる。もし、俺が見つけられなければ、終わりだ。俺以外は記憶を操作されているのだから。
いや、もしかしたら懐疑主義の塊の男、九番隊のジェミニアくらいは、自力で見破るかもしれないが……。
とはいえ決定的なところは、俺がやらなければならない。
さて、エックハルト団長はどこにいるのだろうか?屋敷には何度か尋ねたのか、ずっといないままだ。
他にいる場所はどこだろう?
騎士団の訓練場とかにフラッと現れたりするが、もしそこに現れるとしたら、目撃されている筈だしなぁ。
そして、俺はいくつかの場所。
エックハルト団長が向かいそうな場所へと足を運んだ。だがどこに行っても団長はいない。ま、あれだけ目立つ人がここ数ヶ月姿を消しているのだ。そうそう見つかりはすまい。
「あ、そうか」
俺は頭の中に圧倒的な閃きが降りてくるのを感じた。
◇
俺の記憶が正しければ、おそらくエックハルト団長はここにいる。
そこは、誰も手入れをしなくなった。森の奥地にある騎士団の共同墓地だ。
既に、死者が増え続ける騎士団の中で、収まりきらなくなっているので、新たに場所が増設されており、こちらはほぼ忘れられている土地なのだ。
そこで、大柄な老人が墓の掃除をしている。
「エックハルト団長……」
俺は大柄ではあるが、どこか弱弱し気ですらあるその老人に声をかけた。
数か月しか経っていない筈なのにこの衰えよう。いったい何があった?
老人は、こちらを振り向く。
「お前は……」
「エイスです。ご無沙汰しています」
「もう儂に用はあるまい……」
そう言うとエックハルトはまた墓の掃除をし始める。
「だめです。まだ貴方は団長ですから」
「気がのらんのだよ」
気が乗らない。やはり……。
「騎士団が非常にマズい状況なんです」
「ま、それならそういう運命なんだろう」
おかしいなこういう物言いをする人では確実になかった筈なのだが……。
俺は、傍に立っている小屋を眺めた。
おそらくあそこで寝泊まりしながら、ひたすらこの荒れた墓を掃除する毎日だったのであろう。昔の、いなくなってしまった友を懐かしみながら。
だが……。
「エックハルト団長。あなたはここでこういう生き方をするにはまだ早い」
俺は、語調を強くしてそう言い切った。
「早いものかよ。余生を過ごし始めるにはもう遅いくらいだ」
「いいや、まだ早い」
「もう遅い」
「まだ早い」
「もう遅い」
俺はだんだんとイライラしてきた。それは向こうも同様のようであった。
俺は、リヒテルから受け取った魔道具を構える。
「まだ早いっつってんだろうがあああ!!!」
「な!貴様!!」
その殺傷力皆無のハンマーは、エックハルトの脳天を直撃した。
エックハルトはそれを受けて気絶してしまった。
……こんな攻撃もかわせないとは、本当にヤキが回っていやがる。
さてと、荒療治にはなってしまったものの、これで目を覚ませば、きっと治っているはずだ。
俺は、その墓を眺めた。
名だたる代々の騎士団隊長や、隊員たちの名前が墓石には刻まれている。
俺はそこに祈りを捧げずにおれなくなった。
と、背後から何者かが近づいてくるのを感じた。
「……お前は……」
俺はその見覚えのある人影に向かってそう声をかけた。
「……エイスか?」
その人影はそう言った。
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