12_side:王国聖騎士団③
【リタ視点】
ボクは迷っていた。
おそらくベルナルドとガイストは騎士団の法を犯している。
呪具を仕入れていたからだ。
洗脳の魔眼。
条件を満たすと、他人1名をある程度の範囲で操作することのできるSSRクラスの呪具。
そんなものをあの連中が使用したとしたら……。騎士団は終わりだろう。
問題は、この件でボクには味方がいない。もし、ボクが見たことを告発して、それが真実であると認められれば、あいつらを追放することは可能だ。だが証拠がない。
ただでさえ、団長派にはあまり勢いがない。その中、誰が信頼できる味方なのか?判断するのは至難の業だ。その上、連中は洗脳の魔眼を持っている。ボク自身すら洗脳されるリスクがある、という風に考えて慎重に動かなければならない。
そんなことを考えていた中、1ヶ月後の騎士団会議の議題に関してレポートが上がってきた。内容はこうだ。
①団長エックハルトの相談役への役職変更
②副団長ベルナルドの団長への昇進
③ガイストの副団長への昇進
ボクは、ガタン!と椅子を引くのも忘れて立ち上がってしまった。
ベルナルドが……この団のトップになる?そしてガイストがNo.2だと?バカな……早すぎる……。
もうあまり悠長なことは言っていられない。
誰だ?誰が味方になりうる?
三番隊隊長のジークか?八番隊隊長のメルーファか?
いや、正直厳しい。
どれだけベルナルドの息がかかってるかわからない。
と、なると……。
ボクはため息をついて決意した。
◇
ボクはその扉、九番隊隊長の部屋の扉をノックした。
「……あ?誰だ?」
……何で部屋をノックしてきた人間に対して半ギレなんだよ。
「七番隊のリタです。……少しお話ししたいことがありまして……」
そういうとその男は扉を開いた。
スラッとした長身、黒い長髪に三白眼、カマキリを連想させるやたらと長い手足。
九番隊隊長ジェミニア、その人である。
二つ名は「狂犬」
騎士団隊長の中でも屈指の強さと、見た目によらず明晰な頭脳を持つものの、その歯にきぬ着せぬ発言と、素行の悪さから、何度も隊長を外されている男である。エイスさんは筋を通すし、言うべきときは言う人だが、バランス、組織全体の調和、というものを重視しているところがあったが、この人は違う。自分の快不快を中心に考え、それを実現するために、その腕や論理を用いる、そういうところのある人だ。
「よう、リタ。久しぶりだな。珍しいな。何の用だ?」
正直、この人とはあまり喋ったことがない。ぶっちゃけ怖い。
「……あの、今回の騎士団会議の議題の件で……」
「それが何だ?」
ジェミニアさんは例の三白眼でボクを睨む。
「ジェミニアさんはどう思います?」
「お前はどう思うんだよ?」
ジェミニアさんが即座に返してきた。怖い。
多分、嘘をついたら噛み付かれるだろう。
「正直、気に入りませんね」
ボクは結局、ストレートに言うことを選択した。
その言葉にジェミニアは少し唇を歪めて笑ったように見えた。
「だろうな。お前は顔に出るから分かりやすいよ」
ボクはその指摘にカチンときた。
「そんなことはありません!」
「ホレ見ろ。また感情的になってる。ま、俺は感情で行動するのは正しいと思ってるがな。エイスもある程度、そういうとこはあっただろ?」
ボクはその名が出るとは思っておらず、ハッとした。
「……また顔に出てんぞ」
「……出てないし……」
ボクのその言葉に、またジェミニアさんは苦笑した。
「まぁいいや。オレがどう思うかを言うぞ。オレは騎士団にさすがに嫌気がさしてきた。エックハルトのジジイへの義理があったし、エイスの野郎が引き止めるから居てやったが、さすがにもうウンザリだ。クソだと言ってもいい」
……エイス先輩が引き止めてたのか。知らなかった。
「……どうしてそう思うんですか?」
「ここのとこ色んな物事への判断がおかしいだろ?その最たるものが、エイスの追放だよ。魔力病で戦えなくなった?のは仕方ないとして、隊長でなくとも、あいつが力を発揮できる場面はいくらでもあった」
まぁ、同意見だな。というかもうあの人戦えるけど。
「エイス先輩を買ってるんですね?」
ボクはいつの間にかそう言っていた。この強面のジェミニア隊長が、そういう風にエイス先輩を褒めるのが少し嬉しかったのだ。
「まぁ、な。あいつは比較的まともな部類だよ。てか、お前もあいつを買ってるんだろ?」
「はい」
ボクは迷いなくそう言った。
「だからオレは今の騎士団をぶっ壊してやろうと思っている。どうせ今のままなら、辞めるつもりだからな。かつてはオレも騎士団を愛していた時期があった。エックハルトのジジイが最強の隊長で、オレが副隊長をしていた頃とかな。だが、今の騎士団なら壊してやるのが愛だと思っている」
滅茶苦茶である。だが同じ滅茶苦茶でもガイストのように不思議と嫌な感じがしない。それはおそらく純粋だからであろう。エゴの混ざらない、純粋な破壊への意志。
「わかりますよ。気持ちは。でも意外でしたよ。ジェミニアさんみたいな人でも、急に来たボクにそこまで話してくれるんですね?」
ボクがそう言うと、ジェミニアは少し目線を外した。
「……まぁ急にっていうか……お前、コソコソとベルナルドとガイストを嗅ぎ回ってるだろ?だから、お前があっち派ではないんだろうというのは前々から思っていたことだ」
「……何の話ですか?」
「へぇ、本気になりゃ表情も隠せるんだな。だが、オレはあの二人がダンジョンに行くのを、さらに、お前が尾行しているのを見てたぜ?ま、オレは流石にダンジョンのセーフティルームの前で引き返したけどな?」
「なんだって?」
「オレもあの二人を尾行しようとしていたんだよ」
……なるほど、二重尾行か。全然気づかなかった。
「分かりましたよ。おっしゃる通りボクは彼らに疑念を持っています。そして、誰を信用していいかわからない状態でここへ来たわけです。認めますよ」
「そうかい。なら、やはりオレとお前の利害は一致する訳だ。で、そんなお前にオレから質問がある」
「何でしょうか?」
「お前は団長を最後に見たのはいつだ?」
「え?いつって?そうだなぁ、いつの間にかフェードアウトしてたからなぁ。あんまり覚えてないですけど」
「……そうかい。実はオレもだ」
「え?」
「気づいたか?その意味に」
「おかしくないですか?ボクはまだしも、ジェミニアさんと団長は強固な師弟関係で結ばれていた筈でしょ?プライベートでも会ってた筈だ。それが覚えてないってことないでしょ?」
「……だよな?」
「……まさか」
「おかしい点はまだあるぜ?エイスの魔力病とかな」
「……どうおかしいと思います?」
「あいつ魔族と関わってねぇだろ?」
そう言うとジェミニアは何故か僕の反応を確かめるように睨んだ。
「……まさか」
「オレたちは騙せても、アイツだけは何故か騙せなかった。もしくは、あいつだけ特別に対応する必要があった。だからベルナルド達が何らかの方法でエイスを魔力病にして追放した、というのはどう思う?」
ボクはその可能性について考えない訳ではなかった。だが、証拠がない。
「……そうかもしれません。そうだとしても証拠はありませんが……。と、いうか団長は今、何処で何をしているんでしょうか?」
「……さあな。何度屋敷を尋ねてもいやしねぇ。殺されちゃいないと思うが」
ジェミニアはそう言うと、窓の外に視線を外した。
「あ」
ボクはふと閃いた。
「ん?なんだ?」
ジェミニア隊長は、ボクの方を見た。
「もしかしたらあそこかもしれない……」
ボクはジェミニア隊長に自分の考えを伝えたのだった。
お読み頂きありがとうございます。
無双ものじゃないよな、と、思いタイトルを変えました。
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