6.純潔の神、レスティ
「神……レスティ……?」
僕の目の前に現れた男は、自分の事をレスティと、純潔の神レスティとそう名乗った。
「かっ、神様なら、笑ってないでアリアを助けてよ! 今大変なんだ!」
「んーーーー? 俺がーーーー? この女をーーーー? なんで?」
神レスティは首を七十度程傾けながら笑っている。
「なんでって……僕らがずっとお祈りしてた神様でしょ? この国を守る神様なんでしょ? アリアを助けてよ!」
「確かに俺ぁ〜お前らが言う所の神ではあるが、別にこの国を守っちゃいねぇし、人々を守ってるわけでもねぇぞ?」
「そ、そんな……」
「それに、だ。助けろと言うが、今俺ぁこの女を助けている最中だぞ?」
「……どういうこと?」
「この女は十数年間片想いをしててなー? それをずーーーーっと見守ってきた俺様がなんとかしてやりてぇなって思ってよ。ちょいと積極的になれるようにしてやったーってわけよ。『純潔の』神だからな!」
「じゃあ……アリアおかしくなったのは……神様のせいって事……?」
「おかしくってのは聞こえが悪ぃなぁ? 自分の心に、愛に、正直にしてやったまでよ」
「そん……な」
僕は床に伏せて動かないアリアを、助けてあげられないのか。ケタケタと笑うレスティにこのまま壊されるのを見ていることしかできないのか。
(いや、僕は)
頼まれたんだ、ジョセフに。アリアを頼むって。今動けないジョセフの代わりに、苦しむアリアを助けられるのは僕しかいないんだ。
相手は本当に神様なのかもしれない。でも、例え相手が本当の神様だったとしても。
僕はアリアを助けたい。
「レスティ……レスティイ!!」
「うああああああああ!!」
ーースッ
「あっ」
それは考えれば簡単にわかる事だった。レスティはアリアの横に突然現れた。何処かから歩いてくる事もなく、突然だ。もちろん実体があるはずもない。アリアだって本当におかしくなっているんだ。神でなくとも殴りかかって勝てる相手ではないだろう。
「おいおいおいおい。神様に突然殴りかかるたぁ、どういう考えあっての事だー? 仮にも神だぞ? この女の幸せを願って手伝ってやってんだぞ? 暴力はないだろう? すこーし身体の自由を奪わせてもらうぞー?」
「僕は……僕は……アリアを助け……」
バリッバリッバリッ
「アリアなにして」
ガリガリッガリガリッ
「あぁ、アリア……やめて……」
レスティがにやりと笑うと、アリアが少しずつ自分の服を破き始め、自分の頭から首を掻き毟り始めた。
「アリア……ねぇアリア……」
力の入らない身体でアリアの元へ這って行こうとするが、上手く動けない。筋肉が衰えきったようだ。手を伸ばすが届かない。
ーーぐらん
突然の目眩で頭が揺れる。
そして目に写る景色にノイズが走る。
「なん……っだこれ……」
目の前に広がる光景に、僕の頭は理解を拒む。
「あ、あぁ……アリア……」
頭がぐらぐらする。身体に力が入らない。意識まで遠のいてきた。
今意識を手放すわけにはいかない。こんな状態のアリアを置いて。
「ぐっ……アリ……ア……」
神像の前で服をはだけさせ、目を見開き、今までに見たこともない表情で天を仰ぐアリアの姿を最後に、僕は辛うじて繋ぎとめていた意識を手放した。
「助けて……ジョセフ」
「おーい」
「聞こえるかー」
「そろそろ聞こえてもいいんじゃないかー」
聞いた事もない、男とも女とも言えない声が聞こえ、僕は目を覚ます。
「こ……こは……アリアは!?」
「まぁー! 待って待って! 落ち着いて、どうどう」
「落ち着いてなんか! アリアは今にも……!」
言いかけて僕は身体がちゃんと動く事を理解する。
「身体が?」
「そりゃあ、ここは君の精神世界だからね。今外で起きてる事は関係ないさ」
自分の身体が動くのを確かめ、ゆっくりと気を落ち着かせる。
「ここは僕の精神……なら君は?」
「私かい? 私は神さ!」
ここまで御覧下さりありがとうございました。
少し盛り上がってきました。次話も宜しくお願い致します。