3.愛の祈り、そして声
食事を済ませた僕は、ジョセフと共に神殿に来ていた。
「ジョセフ、もしかして今から」
「そうだ、祈りの時間だ」
教会では一日に昼と夜に一度祈りの時間がある。ジョセフはこの国の最高神官なので、普段は一人静かにレスティ様の神像に祈りを捧げている。
「今日は僕も一緒でいいの?」
「ああ、暫くはお前に会えないからな。ジェスの旅路の安全をレスティ様に祈ろう」
「祈りの作法は覚えているな?」
「もちろん!」
物心ついた時に教えてもらったお祈りの作法。言葉にするのは一度だけ、二度目からは心で唱え、祈り、これを百程繰り返す。
「テザモスを守りし純潔の神レスティよ、私達は祈ります。あなたの優しさ、あなたの温もり、あなたの愛に。神に感謝を捧げ、この日を生きていきます。どうか、私達に真なる愛を」
ジョセフはそう言うと目を瞑り、手を組み、僕らを中心に神殿内の音が消えた。
「……い」
「……ぉーい」
(声? ここには僕とジョセフしかいないはずだけど)
「……おーい、き……」
(やっぱり誰か……喋ってる……?)
どこかから声がした様な気がしたが、それ以降は何も聞こえる事はなく、集中して祈りを行うことができた。
「どうだジェスー、ちゃんとレスティ様に祈れたか?」
「多分……でも途中で声?みたいなのが聞こえた気がして、少し気が逸れたかな」
「っ! もしかしてレスティ様か!? もうお声を頂けるようになったのか!」
ジョセフはガハハと目尻にしわを寄せて、僕の肩を叩いた。痛い。
祈りの時、聞こえてきたあれは……ほんとに神様の声だったのか。
「なんだか、神様って感じではなかったような」
そんな事をぽつぽつと考えながら、ジョセフと教会に戻った。
「あ! ジェス君お祈りは終わったのー?」
「はい、シスターアリアがどこにいるかわかりますか?」
他のシスターと挨拶を交わしながら、僕はアリアの元へ向かった。
「シスターただいま、何か手伝う事ある?」
「……ん」
「シスター……?」
「……そうですね」
「……アリア?」
「あっ! おかえりなさいジェス。お祈りは無事に終わりましたか?」
「う、うん……」
最近、アリアの様子がおかしい。体調が悪いわけではないらしいけど……どこか、心ここに在らずといった感じだ。
いつの事だっただろう、もう思い出せないがいつの頃からか、少しずつアリアの意識がない時間が増え始めたのは。
最近は特にだ。一人になるといつも上の空。何か悩みでもあるのだろうか。
ジェスはアリアの心配をしつつ、手伝いをしながら夕飯時を待つのだった。
ここまで御覧下さりありがとうございました。
まだまだ続くので、宜しくお願いします。