1.当たり前の幸せ
「なん……っだこれ……」
目の前に広がる光景に、僕の頭は理解を拒む。
「あ、あぁ……アリア……」
あんなに淑やかで、美しかったアリアがどうして。
それに、傍で満足そうな笑みを浮かべている……あの男は?
頭がぐらぐらする。身体に力が入らない。意識まで遠のいてきた。
今意識を手放すわけにはいかない。こんな状態のアリアを置いて。
「ぐっ……アリ……ア……」
神像の前で服をはだけさせ、目を見開き、今までに見たこともない表情で天を仰ぐアリアの姿を最後に、僕は辛うじて繋ぎとめていた意識を手放した。
「助けて……ジョセフ」
――二日ほど遡る。
「ほーら朝よ! 起きなさいジェス! 」
煩わしくも澄んだ声が部屋中の窓を震わせる。
「ふわぁ〜……おはよう、アリア。今日もありがとう」
「もう朝食が出来ているわ、早く支度を終わらせて食卓にいらっしゃい」
僕は返事をして、支度を始めた。
「おはようジェスー、今日も気持ちのいい目覚めだったなぁ」
「おはよジョセフ。今日もいい丸眼鏡だね」
「なぁーに言ってんだ、眼鏡はいつもと変わんねぇよ」
ガハハと大きな口を開けて笑う彼はジョセフ、僕の父親にあたる人だ。
美味しそうに笑顔でアリアのご飯にがっついている。
「もう、そんなに急いで食べなくても、まだ時間に余裕はありますよ」
優しい顔で話す彼女はアリア、僕の母親にあたる人。
静かに食事を口に運んでいる。
これが僕の朝の始まり、でもそれも後二日で終わってしまう。
「ジェスは今日旅支度の最終確認でしょ? 暫くは寂しくなるわね……」
「くぅ……もう明後日には旅立ちか……ジェスぅ早く帰ってきてくれよ……」
「いや、早くっても最短でも一年程はかかるの知ってるでしょ……ジョセフこの国の最高位神官なんだから」
「んなこと言ってもよー……」
ぶーぶー言っているジョセフを横目に食事を終えた。
僕の育ったこの国、テザモスでは神官になるために他国を回り、全ての神に挨拶をし、帰ってくるという最終試験がある。僕は食べ終えた食器を片付けながらアリアに話しかける。
「準備自体は終わってるんだけど、買いそびれた物があるから少しだけ外に出てくる。でも戻ったら予定もないし、明後日まで二人と過ごすよ」
「そう! なら帰ってきたら一緒に神殿のお掃除でもしましょうか!」
「うん、わかったよ」
キラキラした笑顔で掃除を提案する彼女に苦笑いを返しつつ、僕は買い物に出かけた。
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