6話 高難易度討伐でも楽勝です
ギルドから歩くこと、ざっと5時間。
かなりの長道だったが、平地の道だったため然程体力を消耗してはいなかった。というか、この三人の体力量が異常なのである。
こうして三人は、無事ゲルマ森林に到着した。
ゲルマ森林の木々はそこまで密集しているわけではなく、程好い光量の日光が木々の青葉の隙間から、ノア達に降り注いでくる。
夕暮れ時が近付いてきたこの時間でも、日光のお陰で辺りは明るかった。
「ほんとに街からすぐ近くの距離にあるのな」辺りを見渡す。「ここにジャバウォックがいるのかぁ。こ~んな、いかにも平和そうな森に」
ノアがそう言うと、野うさぎや子リスの姿が見かけられた。どこかからか、小鳥の囀りも聞こえる。
「この森、本当に普段は平和そのもののようでして、そもそもゲルマ森林は、モンスターが一切生息していない、世界でも珍しい森なんです」モニカが言う。
「モンスターが生息してない森? 凄いな」
「はい。なので、学校の自然学習や子供の遊び場として、この近くの街では長年親しまれているようです」
「なら、尚更さっさと討伐した方がいいな。でも、モンスターが一切生息していない森に、どうして突然ジャバウォックが……」
「自ら移動してきた、もしくは誰かによって意図的にここへ連れてこられた。そう考えるのが妥当かと」
「自分たちで移動してきたってのは、ちょっと無理じゃないか? この近くに、他にモンスターが生息していたような土地はないし、ここから一番近くにあるモンスターの生息地ですら軽く30㎞は離れている。そんな苦労して、わざわざここへ移動してきても、大したメリットがあるとは思えない」
「珍しく冴えてるなノア」カイルの一言。
「珍しく、は余計だ」カイルに人差し指を突き立てる。
「ですが……連れてこられたとなると、一体誰が……」
モニカがそこまで言った時だった。
ノアは地面に“あるもの”を見つけ、カイルとモニカを手で静止させる。
何者かの足跡だ。ただ、人間のものでないことは確かである。
「──どうやら、お喋りはここまでのようだな」
この足跡は、恐らくジャバウォックのものだろう。足跡の大きさから考えて、そうとしか思えない。
「こっちにもあります」モニカが、ノアの後方から10m程離れた位置から呼び掛けてきた。
「あれ、なんで別の場所にも足跡が? ──まさか……!?」
その“まさか”は当たっていた。
隣から聞こえてきた唸り声に身の危険を感じ、バックステップで迅速に距離をとる。
同時に、モニカと背中がぶつかった。モニカもノアの方へバックステップで身を引いたのだろう。とすれば──
ノアの眼前に、一体のジャバウォックが現れた。後ろのモニカから、あっという声が聞こえる。振り返ると、そこにもジャバウォックがいた。どうやら二体いたようだ。
「やっぱり複数体いたか。一人一体相手する。大丈夫か、モニカ?」
「大丈夫です。……あれ、カイルさんは?」
「こんな時でもいつもどおりさ。そっちの木陰で寝てる」
親指を立てて左の脇道を示す。そこには、大木に背中を預け、足を伸ばして寝るカイルの姿があった。何故モンスターが出現した途端に寝るのだろう。
ジャバウォックがこちらに爪を立て襲いかかってきた。軽くジャンプし、攻撃を避ける。
「よし、二手に分かれるぞ。俺は北の方角にこいつを誘い込む」
「では、私は南の方へ」
お互い頷き合い、二人は南北へ分かれた。
北に背中を向けバックステップで移動しながら、ノアはジャバウォックの攻撃を全て剣で受け流す。一発一発の攻撃が、想像以上に重い。
恐らく、先日の海竜よりも、個体としての強さはこちらが上だろう。海竜と戦ったのはモニカだったが。
攻撃を受け流しながら、ふと不思議に思った。
「ジャバウォックってこんな狂暴だったか……? カイルから聞いた話じゃ、そこまで強いモンスターじゃなかったはずだけど。……流石は★6がつくだけあるな」
狂暴な個体の出現。
どの種族であっても、あり得る話ではある。
しかし、それがどの種族も一斉に起こるというのは、やはりおかしい。
しかも、ジャバウォックに関しては二体だ。国の報告書では、一体だけだったはず。
国がもう一体のジャバウォックを見過ごしていたか。
考えられる仮説はもう一つ、普通の個体が突然狂暴的になものに変貌したか……
『ドオオオン!!』
そう思考を巡らせていると、南の方角で大地が抉れたような、大きな地響きの音がした。
「……モニカがジャバウォックをやっつけたな」
モニカがやられた、という予感はまったく抱かなかった。
「俺もちゃちゃっと片付けるか」
バックステップを止める。ジャバウォックと向き合った。本当に赤い瞳をしている。
鋭利な爪も牙も、当たらなければ意味はない。
地面を強く蹴り、ノアは辺りにあった木の一本に飛び移った。ジャバウォックはノアしか眼中にないのか、ノアが飛び移った木をなんの躊躇いもなく斬り倒す。斬り倒される前に、ノアはまた別の木へ移動した。
そして今度は、ジャバウォックが爪を立てる前にまた別の木へ移動する。
それを何十回と繰り返すと、次第にジャバウォックがノアの動きを捉えきれなくなっているのが分かった。
撹乱を止め、その生まれた一瞬の隙をついて、仕留める。
足のバネに力を入れ、一直線にジャバウォックへ斬り込む。
──赤い雨が降りだすのに、一秒と掛からなかった。
「ふぅ、俺もジャバウォック討伐完了っと」
綺麗に着地を決め、剣を鞘に収める。
今回は前回の反省を生かし、血しぶきを全部避けたため、服は汚さなかった。これは威張れる。
ジャバウォック討伐の証拠として持ち帰らなくてはならないのは、特徴のある鋭利な牙だ。左手でジャバウォックの上唇を持ち上げ、手刀で牙を切り落とした。ヨダレが付いてベトベトだったが、嫌だともいえない。
ノアがため息を吐いた時だった。
『ドオオオン!!』
またしても地鳴りだ。
驚いて、一瞬体が硬直した。
それが聞こえてきたのは、先程モニカがジャバウォックを討伐し終えたはずの方角だった。
──胸がざわつき、嫌な予感がした。
闘いはすでに終わっているはずなのに聞こえてきた謎の地響き。
気付けばノアは、モニカの元へ駆け出していた。
来た道を戻り、眠っているカイルの横も素通りする。
頬を撫でる風は、少しひんやりしてきていた。
無我夢中で、ノアはモニカの元へ急いだ。
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次話も是非(*´ω`*)




