29話 星の国
「お待たせ~」
城から出てきたノアは、外で待たせていたカイル、マインド、セイラに向けて手を振り声をかけた。
小さな川に架かる橋の欄干に背を預けていたセイラは、ノア達に気付くとすぐに背筋を正した。
「お疲れ。意外とすぐに報告終わったのね。二時間くらいの待ちぼうけは覚悟してたのに」
「それが、私たちが報告した以外の★6モンスターは、既に全て倒された後だったようなんです。なので、報告と証拠品の提示だけ済みました」
「えっ、全部倒されるの早くない? だって二人から聞いた話じゃ、王から依頼を受けてからまだ一週間も経ってないわよね?」
「それだけSランク冒険者たちが優秀ってことさ」
ノアは少し得意げに言う。
「しかし、その依頼の半分以上をお主ら二人だけで討伐したと聞いて、王はさぞ驚いておったんじゃないか?」
「それはまぁ、なぁ……」
「あはは……」
二人は苦笑いをする。
流石に口だけでは全然信じてたもらえず、危うく兵士たちに城を追い出されそうになったのを思い出す。
回収していた、討伐したモンスター達の牙や毛皮を慌てて見せて、なんとか信じてもらえた。それでもまだ疑われているようだったが、きちんと謝礼は貰えたので気にする必要はない。
今回の騒動の元凶であるアガレスに関する報告もしたため、そちらの件の方が重要でノア達が四種類の★6モンスターを討伐したなんて話はどうでもよくなったのだろう。
星の国が魔族によって襲撃されたという情報は既にこの国にも届いていたらしく、すぐにアガレスがその魔族と同一の者だと理解してもらえた。
マインドと相談した結果、アガレスは、彼のやった行いに激怒した魔王マインドによって殺されたということにして、大地のオーブの件は黙っておくことにした。
今回の騒動の原因がオーブであると仮に世に知れ渡れば、アガレスと同じことを考えてオーブを盗み出す者が現れる可能性があるからだ。
「ちなみに、誰がその残りのモンスターを討伐したかなどは分かるのか?」
マインドは花壇に腰こけた体勢でノアを見上げた。
「ああ、俺も気になって聞いたよ。残りの三体のうち、一体は数人のSランク冒険者たちがチームを組んで倒したらしい。あとの二体は同じ人が一人で。なんでも、Sランク冒険者の中でも一番の実力者って呼ばれてる人らしいぜ」
「ほお……一人で二体か。それはなかなかの強者だな」
「……」
「? セイラさん、どうかされましたか?」
「あっ……いいえ、なんでもないわ」
何か思うことがあったのか考え込む素振りを見せたセイラだったが、モニカの問いかけに首を振り小さく微笑んだ。
「そんじゃ、謝礼もきっちり貰えたし、早速転送屋へ向かうか~」
うんっと伸びをしながらノアが言う。
「そうですね。確か、こっちの道を真っ直ぐ行った所にあったはずです」
「詳しいわね」
「この国を訪れる際に利用しましたから」
案内してくれるモニカを先頭にして、マインド、セイラ、ノア、カイルの順で彼女の後ろをついて歩いた。
ノアも初めこの国を訪れた際は転送屋を利用したが、もうどこにあったかすっかり忘れた。
数分もしないうちに、モニカはお洒落な店の前で立ち止まった。ノアも立ち止まり看板を見上げると、確かに“転送屋”と達筆な字で書かれている。
外観を見て、確かにこんな店だったなぁと過去の記憶が蘇る。といっても一ヶ月前かそこらの出来事だが。
店の中に入る。中は思ったより狭く、必要最低限のスペースがあるだけだった。お客はノア達以外いない。
店員も見た感じ二名しかいない。行き先を聞いて転送させるだけなので、この人数で事足りるのだろう。
「いらっしゃいませ。五名様でよろしいでしょうか。行き先はどちらをご指定ですか?」
「星の国、アステリへお願い」
店の奥から出てきた女性店員に、セイラは行き先を告げた。
「かしこまりました。では先に代金の方を徴収させていただきます」
言われたとおりの金額を、先程王に貰った謝礼から払った。この人数となると流石に値が張るが仕方がない。必要経費だ。
「それでは皆様、こちらの魔法陣の上にお立ち下さい。足などがはみ出していると転送の際に不具合が起こる可能性があるので、できる限り中央に詰めてお立ち下さい」
流暢な言葉使いのお陰で説明が耳に入りやすい。
言われたとおり魔法陣の上に立つ。
魔法陣が大きいお陰であまりぎゅうぎゅうにならなくても全員魔法陣の上に立つことができた。
「それでは転送させます。3──2──1──」
その瞬間、体がふわっと浮くような不思議な感覚を味わった。そしてものの一瞬で、目に見える店の雰囲気が変わった。
「ついた……」
セイラが呟く。
どうやらちゃんとアステリへ転送されたようだ。
隣に立つ店員さんの顔も、ノア達を転送してくれた人とは異なる。
「ありがとうございました」
お礼を言って店を出た。
外に出ると、そこには白を基調とした建物がズラリと並ぶ、美しい街があった。視線の先にはこれまた白を基調とした大きな城が見えた。空を見上げると、星の国という名のとおり、昼前にも関わらず空の一面に星が瞬いていた。
周りをよく見ると、街の至る所にも星のモチーフがあしらわれている。
「ここがセイラの故郷か……。スゲー綺麗な国だな」
「──ええ、そうでしょ」
久しぶりの故郷を、セイラとても幸せそうに眺めていた。
首都というだけあり、大勢の人々が街を行き交っていた。子供、大人、路上パフォーマンスに出店、兵士の姿もある。
ここで大量殺戮があったなど到底思えないほど、平和な光景だ。そこにいるだけで、思わず頬が緩まる。
モニカとマインドも興味深そうに周りをキョロキョロと見渡している。
カイルは今にも寝そうになっていた。もっと周りに興味を持て。
その時、こちらを見て目を丸くしているお爺さんがいることに気が付いた。
セイラもそれに気付いたようだ。どうしたのだろうと、二人で顔を見合わせる。
「あの……」
セイラがお爺さんに声をかけようとした。すると──
「セイラ姫がお帰りになったぞーー!!」
突然お爺さんがお爺さんとは思えない大声量で叫んだ。
「は、え、いや、ちょっおじさん?!」
慌てるセイラ。
「セイラってお姫様だったのか?!」
「セイラさんってお姫様だったんですか?!」
お爺さんの叫びを聞いたノアとモニカは当然ながら困惑し、セイラ本人に尋ねた。心の中ではあのお爺さんと同じくらいの声量で叫んでいる。
「ほお成る程、セイラ殿は姫君だったのか。確かに似合っておるな。なあカイル」
「……そうだな」
「そこ二人はなんでそんな冷静なんだよ?!」
気持ち的にこっちはマインドが魔王だったってのと同じくらいの衝撃受けたぞ!
お爺さんの声を聞いて、大勢の兵士たちが駆けつけてきた。
「姫様!」
「よくぞお戻りになられて!」
「お父上様が心配なさってます!」
「さあどうぞこちらへ!」
誘導されるがままに、ノア達はどこからともなく現れた白馬が引く馬車に乗せられ、状況を理解する間もなく馬車は出発した。
「ええーー?!」
もう何がなんだか分からず、ノアは困惑するだけだった。
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