27話 これからのこと
「セイラさんはこの後、どうされるおつもりですか?」
「あたしは……故郷に帰ろうと思ってるわ。もうあいつはいないから心配いらないってことを伝えて、早く皆を安心させてあげなくちゃ」
「ああ、そうした方がいいな」
「セイラ殿の故郷というのは、一体どこなのだ?」
「“星の国・アステリ”って呼ばれている所よ」
「えっ……?!」
「大国じゃないか! 確か人間国家としては、世界で一番の国じゃなかったか?」
「ええ、そうよ。無知でもそれくらいは知ってるのね」
「なんか今馬鹿にされた気が……」
「アステリって、“世界最大級の要塞監獄”がある国としても有名だよな」カイルが言う。
「国の外れには魔女の里もあったな。多種多様な者が共に共存する素晴らしい国だ!」マインドが言う。
「ええ、そうよ」
「魔女の里? ──もしかしてだけど、そこってモニカの故郷だったりするのか?」
モニカが魔法使いを名乗っているため、そうなのではと思った。
ちなみに魔法使いも魔女も、意味合いは同じである。
魔法を主な攻撃手段として使い、魔力に秀でた人間のことを、一般的に魔女,魔法使いと呼ぶ。
魔力の量は親から子へ遺伝することが多いため、保有魔力が他より多い人々が集まってできた集落が、いつの間にか“魔女の里”と呼ばれるようになった。
「は、はい、そうです。魔女の里と一括りに言っても、その中にいくつもの集落があって、私は一番アステリから離れた田舎の集落で育ちましたが……」
「そうだったの。だからあたしがアステリって言った時、『えっ?!』って言ってたのね」
「あはは……はい……驚いてしまって……。でも私、魔女の里の外へは旅をし始めた頃の一度しか訪れたことがなくて。首都にも行ったことがないんです」
「そうなの。確かに魔女の里から首都へは、馬車に乗っても最低丸五日はかかるものね」
「カイルが言ってた、“要塞監獄”ってのは何なんだ?」
「犯罪者の中でも、特に危険性の高い囚人たちが、種族を問わず集められ、厳重に収容されてる場所だ。決して囚人たちが逃げ出さないよう、その名の通り、要塞のように複雑な造りになってるらしい」
「へぇ……そんなヤバイ施設が大国にあったなんて知らなかった……」
「アステリにあるって言っても、首都から最も遠く離れた山奥に建設されてるから、普通の市民は一生見ることもない場所よ」
「セイラ殿も行ったことはないのか?」
「あ~あたしは……小さい頃に一度だけ社会科見学かなんかで行ったことがあるわね。あの時は怖すぎて、中に入るのを全力で拒んでたから、外側からしか見てないけど……」
「あはは……幼少期に連れられたら、そりゃそうなるわな」
「そうだ、あたしの話ばっかりしちゃってたけど、あんた達はこの先どうするつもりなの?」
「あ~俺たちは、まず王都に戻って★6モンスターの討伐報告をしに行かなくちゃいけないな」
「結局、七体のうちノアとモニカで何体討伐したんだ?」
ノアとモニカは共に顔を見合わせた。
「え~っと……“プロアクア”に“ブラッドウルフ”に“ジャバウォック”に“ミノタウロス”──合計四体だな」
ジャバウォックは二体倒したので、正確には四種類と五体である。
「結構倒しましたね~」
「いや、結構どころか……一体だけでも村一つ消滅させられるレベルって言われてる★6モンスターを、半分以上あんたら二人だけで討伐したって……」
「普通の人間には永遠できぬ芸当だな。流石は、カイルが認めているだけのことはある!」
「いや~……なんか改めてそう言われると照れるな……」
「わ、私もです……」
二人は照れ臭そうに視線を反らした。
「あんたら、それだけの強さがあったら、もっと堂々と胸張って威張ってもいいと思うわよ?」
「いやいや無理だって。だって、最強は俺じゃなくて、いつも隣にいるカイルなんだからさ」
ノアはカイルを見上げた。
目が合ったが、お互い視線を反らそうとはしない。
「だから俺は、一生威張ったりとかはできないよ」
「あ、あんたがそんなに言うって、そこの勇者どんだけ強いのよ……」
セイラは訝しげな視線をカイルへ送った。
彼は伝説の勇者だと魔王本人から聞いたが、それでも実際に彼が戦う姿を見なければ信じられない。
「まっ、俺もカイルがちゃんと戦ってる所は、まだ一度も見たことないんだけどな☆」
ノアの言葉に、セイラがずっこけた。
「はあ?! えっ、そこの勇者戦わないの?」
「ああ。俺らが戦ってる時、カイルはいつもそこら辺の木の下で寝てるよ。戦闘中にずっと起きてたの、何気に今日が初めてじゃないか?」
「あ、確かにそうですね」
「……まあ、ノアと出会ってからは、そうだな」
「お~い、そう話してる側から寝そうになってるのどうにかしてもらえませんかね~? ──まあ話は戻るけど、王に報告をした後のことはまだ何も考えてないな」
「──あ、あの……! それなら私、セイラさんの故郷へ一緒についていってみたいです……!」
「へ? アステリに?」
「はいっ! その……折角セイラさんと仲良くなれたのに、もうさよならしちゃうのは寂しい、というか……。め、迷惑でなければ、ですけど……」
「……何この子めっちゃ可愛いんだけど」
「モニカは本当に良い子だからな~。俺もセイラの故郷行ってみたいし、モニカに賛成~」
「……俺も構わない」
「えっと、あ、あたしも、モニカとはもっと話してみたいって思ってたし……その……来てくれたら凄く、嬉しい……」
恥ずかしそうに言うセイラの言葉を聞いて、モニカはぱあっと嬉しそうに笑った。
「よっし、じゃあ決まりだな。マインドはこれからどうするんだ?」
「む? もちろん今朝申し立てた通り、お主らの旅路について行くつもりでおるぞ。我もアステリへ同行する」
「いやでも、狂暴化の元凶は倒したわけだし」
「な、なんだ、我と旅路を共にするのがそんなに嫌か……?」
「そ、そうじゃなくてっ! マインドが俺たちについて来たがってた理由って、狂暴化したモンスターをどうにかするためだったのかな~って思ってたからさ」
「ああ、そういうことか。確かに当初はそう考えておったが、アガレスを倒したことで目的が増えたのだ。そのためにやはり、我はお主らについて行く」
「目的?」
「アガレスを倒した後、大地のオーブが現れそのままどこかへ飛び去ってしまっただろう? 我はそれを追おうと思うのだ。そして丁度、飛び去った方角の先には、モニカ殿たちが向かう“アステリ”がある。これはきっと、神が我らの旅路を応援してくれているに違いない!」
「そ、そんな大袈裟な……。まあでも、マインドも一緒なのは素直に嬉しいな。ちなみに“アステリ”へはどうやって帰るつもりなんだ?」
「そりゃあ“転送屋”を使うわよ。だから結局、あたしも王都へは行かないといけないわね」
転送屋とは、その名前の通り人や物を遠く離れた国や地域へ転送させてもらえる場所だ。
施設の中に色々な場所と繋がった転移の魔法陣があり、その魔法陣に乗ることによって目的の場所にある別の転移の魔法陣へ転送してもらえる。
転移のための魔法陣はとても複雑で作ることが非常に困難であるため、各国の首都にしか転送屋は存在していないのである。
ちなみに転送魔法というものも存在しないため、モニカでも転移の際には転送屋を利用する。
もちろん転送屋を利用せずとも、船や飛行モンスターなどでの国の行き来も可能だ。
「取りあえず今日のところはこの街で休んでいかぬか? まだ昼だが、色々あって疲れただろう。我も店の片付けなどがあって、すぐには王都へ迎えぬしな」
「そうだな。それに、コスモさん達のこともあるし」
「……ああ」
マインドの横顔が、少し寂しげに映ったのは、ノアの見間違いではないと思う。
そうして彼らは、コスモが働くテディ保育園へと向かった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字・脱字,アドバイス等あれば教えていただけますと参考になります。
ブックマーク,評価,感想,レビュー等をしていただければ、とても励みになります。
次話も読んでいただければ嬉しいです。




