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最強は俺じゃなく隣で寝ているこいつです  作者: ぱれつと
1章 モンスターの狂暴化
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21話 罪滅ぼし

「アガレスがセイラ殿やモンスター達から理性を奪った方法──ズバリ、“呪術”だ!」


「「あっ……!」」


「えっ……?」


 マインドの言葉に、モニカとセイラは納得の声を上げた。しかしノアは、訳が分かっていない声を上げた。

 ちなみにカイルは無言で頷いた。彼もマインドと同じ考えだったのだろう。流石は千年以上を生きた長寿コンビだ。


「呪術ってなんだ?」一人、話についていけていないノアは、小首を傾げる。


 周りの驚愕するような視線を感じつつも、この疑問には、博識カイルが答えてくれた。


「呪術っていうのは、魂に“呪文”を刻み込んで、半永久的にその呪文の効果を対象に持続させ続けてる術だ。強力かつ恐ろしい術だが、その分魔力の消費もかなり激しい。しかも、誰かに対して呪術を行使している間、発動者は自身の魔力が減り続ける。リスクが大きすぎるから、余程の意志や目的がないと、誰も呪術なんて使おうとしない。

 呪術の解除は普通、呪術を行使した本人のみができるが、自らや第三者が呪術を解除することもできる。その方法は、まず元々刻まれている呪文と同じ呪文、もしくはそれ以上の効力を持つ呪文で、元々魂に刻まれていた呪文を上書きするというものだ。呪文を上書きすると、前の呪文は消えるからな。そして、上書きした呪文を解除すれば、元通りというわけだ」


「……呪術のせいだったとしたら、今まで討伐してきたモンスター達も、元に戻せたということなんですね……」モニカが唇をぎゅっと噛む。


「それは知らなかったし、仕方がない。そう自分を責めるな」


 カイルはモニカをなだめるように言った。

 声のトーンはいつもと変わらない淡々としたものだが、その声からは僅かな優しさも感じられた。


「だがアガレスは、呪術をそう何度も行使できる程の魔力を保持しておらん。だからそこがおかしいのだ。しかし、呪術であることは恐らく間違いない……」


 マインドの呟きに、カイルやモニカも考え込む素振りを見せる。

 アガレスが持ち合わせるはずのない、呪術を行使した際に使用した膨大な魔力。その出所を考察しているのだろう。


 しかしノアには、まだ聞きたいことがあった。

 ノアは遠慮がちに、カイル達へ手を伸ばし尋ねる。


「あ、あのさ。ひじょーに聞きづらいんだけど……呪文って何?」


 そう訊いた瞬間、一同の視線がノアに集まった。

 その瞳だけで、彼らがノアの発言に驚いていることが分かった。


「あ、あなた……呪術を知らないことも驚いたけど、まさか呪文すら知らないの?!」


「うぐっ……」


 セイラの声が、痛く耳に響く。


「あ、ああ。その、すみません……」


 思わず顔をうつむかせてしまったノアに、今度はモニカの柔らかい声が聞こえた。


「呪文というのは、定められた言葉を発することで発動する術のことです。古来より伝わる呪文もあれば、近年開発された呪文もあり、現在では多種多様なものがあります。ただし呪術と同じく、魔法よりも、一回の発動に必要な魔力量は大きく、また直接攻撃に使うようなものがないのが特徴です。呪術の時と異なり、基本は効果の持続時間に制限があり、長くても二十四時間程度で効果は切れてしまいます。呪文を魂に深く刻み込んで行使するのが呪術です。だから……呪文の効果を持続させ続けるものが、呪術といった捉え方になりますね」


「へぇ……そうなのか」


 そんな術がこの世にあったことに驚く。

 ならば、以前は魔法の類いか何かだと思っていたものも、もしかすれば呪文か呪術だったのかもしれない。


 モニカが教えてくれたことは全て、ノアにとって初めて知ったことだった。

 けれどこれも、普通の人たちにとっては当たり前に習う“常識”なのだろう。


「……」ノアは無言で俯いた。


「……ねえ、違ってたら悪いんだけど、あんたってもしかして“忌年”生まれ?」セイラが遠慮がちにノアを見た。


 それにつられたように、カイルとモニカの視線もノアに向く。


 誰かの呼吸音が聞こえた。ほんの一瞬だけ、静寂が場を支配する。


 ノアも、自身の身が硬直するのを感じた。


 そんな中マインドは「む、忌年とはなんだ?」と大袈裟に首を傾げた。マインドは()()()()()、一人だけ忌年の意味を知らないのだ。


「……。忌年生まれは今年で17歳になる子供だろ? 俺は今年で16歳だから違うよ」努めて冷静にそう答える。


「そ、そう……。悪かったわね。変なこと聞いたわ」


 別にいい、とノアは首を振った。


 続いてノアは、マインドの疑問に答えることにした。


「17年前。それが忌年と呼ばれている年だ。その年に、世界で起きた()()()を、マインドは覚えてるか?」


「うむ。覚えておるぞ。数百年に一度起こるか起こらないかと言われるような災害が、たった一年の間に何度も起きた災いの年だったな。大地震、火山大噴火、大洪水、落雷による大火災──あの時ばかりは、世界が終わるかと思ったわ」


 マインドの説明に、ノアは頷いた。


「そう。それが、17年前に起こった出来事。その度重なる大厄災によって人間からは、何十万人という犠牲者が出た」


 もちろん犠牲者は人間だけではなかった。魔族も妖精も吸血鬼も例外ではなく、地上で生きる全ての種族から、多大な犠牲者が出た。しかし、最も力のない種族である人間の犠牲者の数は、他の種族と比べられるようなレベルのものではなかった。


「人間っていうのは、凄く弱い種族だ。だから、為す術のない自然の脅威を目の前にした時、人間は自分たちの目に見える何かを、すべての原因にしたがる。目に見えるものなら、気持ち的にもどこか安心するからな。例えば、一つの箱を全ての災いの原因にすれば、その箱を壊すことで、敵うはずがない災いにも勝ったような気になれる。そうして勝手に作り出した大厄災の原因が、()()()()()()()()()()()だ」


「それは……なんとも理不尽な話だな。子供たちに罪はなかろう」


「ああ。だから忌年生まれの子供は、十分な教育も受けられなかった。いや、生きる為の術すら与えられず、教えられなかった。十代まで生きられた子供すら、全体の一割に満たないという話だ。しかも達が悪いことに、今でもその風習は少なからず残っている」


「──ノアさん、オーブや呪術のことは知らなかったのに、忌年についてはよくご存知なんですね」モニカから訝しげな視線を向けられた。


「前にギルドで忌年について話してる冒険者がいたからたまたま聞いたことがあっただけだよ。俺の持つ数少ない常識的知識だ」


「そこ、威張られてもね……」


「そう、なんですか」


「──しかし、自然の厄災を人の子のせいにするとは……やはり信じがたい風習であるな」


「無理に理解しようとしなくていいよ。こんな風習」


「……水を差すようで悪いが、論点ずれてきてないか?」


 カイルの一声に、全員が「あっ」と呟いた。


「えーーと、ようは、俺たちでアガレスをぶっ飛ばせばいいんだよな?」


「それが一番手っ取り早いですよね」


 ノアとモニカはお互いに頷き合った。


「でも居場所が分からないんだよな~。セイラ、知ってるか?」


「……知らない。いつも勝手に現れて、勝手に命令して、勝手にいなくなるから」


 吐き捨てるように言う。しかしその後「あ、でも……」と付け足すように言った。


「ん、どした?」


 ノアの問いかけにしばらく応えず、セイラは何かを考え込んだ。そして


「…………ねぇ、ノア、ちょっとそれ(ペンダント)、貸してくれない?」


「なっえっ?! なして、どうして?!」


 ノアはペンダントを庇うようにして持った。


「別に、奪い取ろうなんてしないわよ。ちょっと、あたしの考えを聞いて」


「……分かった」


「アガレスは、そのペンダントに対して異常に執着していたの。なんとしてでも奪えって。もしかしたら、あんたのことをつけてた可能性もある」


「えっ?!」


「あんた、疑問に思わなかった? あたしがなんであんたの居場所や目的地を知っていたのか」


「ああ。そりゃあ疑問に思ったさ」


「あれは、アガレスがあたしに、ノアの居場所を教えてくれたからなの。だからあたしは、あんたの目的地に先回りして毒霧を仕掛けたり、奇襲をかけたりすることができた」


「ア、アガレスって奴が俺の居場所を……?」


 恐怖で、途端に背筋がぞわっと震えて鳥肌が立った。


「まあ、それだけ執着してるってことは、あたしがあんたのペンダントを持ってアガレスを呼べば、ほぼ確実に姿を現すってわけ。どう? あたしの言いたいこと、分かった?」


 つまり、ノアのペンダントをセイラに貸した状態でセイラがアガレスを呼び出し、そこを隠れていたノア達で奇襲するという作戦だ。

 とても単純だが、一番理に叶った作戦でもある。


「で、でもそれだと、一時的とはいえセイラさんが一人でアガレスさんの前に出ることになりますよね……?」


「大丈夫よ。それくらいのことやんないと、あんた達にかけた迷惑、詫びきれないでしょ?」


「そ、そんなこと……!」


 モニカが心配していたのは、ペンダントを奪って用済みとなったセイラが、アガレスに殺されてしまうのではないかということだった。

 もちろんそれはノア達も、セイラ自身も自覚している。


 でも


「──お願い、やらせて」


 セイラはモニカの声をぴしゃりと断ち切った。セイラの表情は真剣だった。


 それを見て、モニカはうっと息を詰まらせた。


「……大切な物だってことは分かってる。でもお願いノア、ペンダントをあたしに貸して」


「──っ!」


 ノアは迷った。


 迷ってしまうというのは、同時に、セイラを信用しきれていないというノアの本心の表れでもあった。


 でも……セイラは、ノア達を信用してくれた。

 だったら今度は、ノア達がセイラを信用する番だ。


 ノアは腹を括り、セイラにペンダントを差し出した。


「ああ、お前を信じるよ──」

最後まで読んでいただきありがとうございます。


誤字・脱字,アドバイス等あれば教えていただけますと参考になります。


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