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最強は俺じゃなく隣で寝ているこいつです  作者: ぱれつと
1章 モンスターの狂暴化
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17話 見えない素顔

 ノアは一人、マインドのバーを抜けて、外の風に当たりに来た。


 まだ僅かに冷気が残る朝風が、彼の髪を(なび)かせ通り抜けていく。まるで、誰かに優しく頭を撫でられているような感覚だ。


 先程、マインドと交えた会話を振り返る。


 ノア達について来ると決めた、マインドの爆弾発言には驚いたが、彼のことをノアは嫌いじゃない。一緒に旅ができるならそれは嬉しい。これが率直な感想だ。


 モニカは未だに頭の整理がつかないのか、バーのカウンターで頭を抱えたまま目を回していた。


 実在はするが、伝説上で語られてきた空想に近い存在。魔王というのは、一般の人間にとってそういうものだ。

 だから無理もない。


 外に出てきたのは、ノア自身も頭の整理をするためだった。


 もう整理はついた。早く戻ろう。


 そう思い、足をバーの方へ向けた、その時だった。


 高い声。子供の声が聞こえた。

 方角的に、ノア達が朝食を買って食べた商店街の方からだ。


 声がした方へ顔を向けると、小さな女の子ともう一人、その女の子の姉、だろうか。二十歳よりは少し若いくらいの年齢に見える女性が、住宅地の道の真ん中で、女の子と目線の高さを合わせてしゃがんでいた。逆光が邪魔して、彼女らの顔はよく見えない。


「お姉ちゃん、お薬ありがとう!」女の子が女性に言う。


「ううん。お母さん、元気になるといいわね」


「うん!」


 元気に頷き、女の子は太陽が昇る方角へと、姿を消した。


 一人になった女性が立ち上がる。ノアの存在に気付いてはいないようだ。


 女の子の背中が消えていった方角を向き、しばらく(たたず)む。


 その時、太陽が雲に隠れて、少しだけ女性の姿を確認することができた。


「──えっ?」


 女性の姿を見て、ノアは思わずそう呟く。声を出さずには、いられなかった。


 女性は最後までノアに気付くことなく、女の子が走っていた方角へと去っていった。


 雲が動き、再び現れた丸い太陽が、眩しい光を地上に届ける。


 ノアは乾いた口で、ある人物の名前を呟く。

 さっき見えた女性の髪色。あれは──


「なんで、セイラが……?」


 見間違いだったのかもしれない。


 だって、ノアの知るセイラは、あんな風じゃない。


 しかし、女の子に向かって優しく微笑むセイラの姿が、ノアにはやけにしっくりくるように感じ、はっきり想像することができた。



 ◇◇◇



 もう街を出発する時間だ。


 その前に、昨日お世話になった、保育士のコスモに挨拶をしに向かう。

 場所は、彼女が働くテディ保育園だ。今日は休日で彼女は勤務外だそうだが、それでもコスモは保育園にいると、マインドは自信満々に言う。


 テディ保育園へ向かう、たくましく鍛え上げられたマインドの背中を、ノア達は追った。マインドに案内してもらえなければ、道に迷っていたノア達は果たしてテディ保育園に辿り着けていたかどうか。


 マインドは、ノア達の旅について来ると言った。一体どういう風の吹きまわしだろう。


 マインドは、何を考えているのか。

 人懐っこそうに浮かべた笑みの裏側を、ノアが知る術がない。それにこの笑みも、マインドが魔王だと知った今では、何か含みのあるものに見えてくる。


 ……いや、考えすぎかな。

 魔王である以前に、マインドはカイルの親友だ。ならば、少なくとも彼は悪い奴ではない。そう思えるのは、ノアがカイルを信用しているからでもある。


 ノアがカイルと過ごした一年という年月。相手を信用するには、まだ短い時間なのかもしれない。

 けれど、ノアはカイルを信用すると決めたのだ。その意志だけは、揺るがしたくない。


 そう考えると、マインドとコスモが共に過ごしたという十年以上の年月は、信用や信頼を生むには十分すぎる時間だ。

 マインドはコスモに。コスモはマインドに、今日、何を思うのだろう。


 突然、他人であるノア達が割って入り、二人が一緒にいる時間にピリオドを打ってしまうというのは、あまりに無責任なのではないだろうか。


 けれど、それも全てはマインド自身が決めたことだ。

 それをノアが勝手に色々思うなど、それこそ無責任だと思う。


 十分程度歩き、テディ保育園の前に辿り着いた。

 昨日も思ったが、やはり建物は全体的に老朽化が進んでいてひび割れが目立つ。ここが保育園でなくなり廃園となれば、こんなおどろおどろしい雰囲気の場所、誰も近寄らなくなるだろう。


 マインドは何の躊躇(ちゅうちょ)も見せず、愛らしい動物のイラストが描かれた門に手をかけ、中に入っていく。


 少し躊躇(ためら)いつつ、ノアもその後を追った。


「コスモー! おるかー?」マインドが大きな声で叫ぶ。


 園庭には、子供の姿はどこにもなかった。

 それどころか、園全体がやけにひっそりしている。


 コスモの返事が返ってこず、マインドは腕を組んで首を傾げた。


「むむ……おかしいな。この時間であれば、丁度園児たちをつれた朝の散歩から帰ってきているはずなのだが……」


「何かハプニングでもあったのでしょうか?」モニカが心配そうに言う。


「うむ……少し園内の様子を見てくる」


 そう言い、マインドは正面玄関から園内へと姿を消した。


「何かあったのでしょうか……?」モニカが先程よりも声のトーンを下げて言う。


「さあ……何もないといいけど……」ノアも不安になってくる。


 一度、園の敷地から出た。

 マインドはまだ戻らない。


 そわそわするノアとモニカをよそに、こんな時でも眠たそうに目を半分閉じかけているカイル。薄情なのか素直なのか。


 すると、コツコツと誰かの足音が聞こえてきた。園の方からではない。左の、後ろの方から、誰かが近付いてきている。


 コスモが帰ってきたのかとも思ったが、それでは足音が一人じゃおかしいと考え直す。朝の散歩から帰ってきたのなら、子供たちの足音も聞こえてこないと不自然だ。


 規則的なスピードで近付いてくる足音は、どんどん大きくなる。


 ノアは足音がする方向を振り返った。


 その瞬間、誰かと肩が強くぶつかる。相手が地面に膝をついた。


 相手は、フードがついた濃いマントを身に(まと)っていた。フードを深く被っているせいで、顔はよく見えず、男か女かの判断もつかない。


「大丈夫ですか?」


 咄嗟に、転けた相手に手を差し出す。


 相手はノアの問いかけに答えず、ゆっくりと手をノアの方へ動かした。


 その手はノアの手を掴むことなく、ノアのペンダントを引っ張った。


「っつ──!?」


 ペンダントの鎖が首に食い込み、ノアは短い声を上げる。


 ノアが相手を振り払うよりも先に、ペンダントの鎖が切れ、相手はペンダントを盗んで走り去った。


 走った拍子に、風でフードが落ちる。


 後ろ姿を見て、やはり、と思う。見知った人物だった。


 ノアはモニカ達に構う暇なく、全速力で相手を追った。


「待て! ()()()()!!」


 叫ぶが、セイラが足を止める気配は一切ない。前だけを向き、ノアから逃げる。


 それでも、ノアの足の速さは一般的な平均よりも遥かに速い。すぐに距離が縮まった。


「くっ……!」セイラの、奥歯を噛む声が聞こえる。


 ちらりと後方を確認すると、ノアの後ろからは、モニカとカイル、少し離れてマインドもついてきていた。


「──“ミノタウロス”!」突然セイラが後方を向いて叫ぶ。


 すると、セイラとノアの間に、体長5mはあるであろう巨大なミノタウロスが姿を現した。

 手には大きな斧を持っている。低い唸り声を上げ、ノア達を威嚇する。明らかに敵意剥き出しだ。


 深く考える間もなく、ノアは腰に差した剣を抜いた。


 その時──怯え泣きじゃくる子供たちを(なだ)めるコスモの姿が、彼の視界に入った。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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